
駒込の東洋文庫の近くに六義園がある。
六義園は五代将軍徳川綱吉の側用人である柳沢吉保の下屋敷に作られた大名庭園だ。

藤代峠から園内を見渡す。和歌山市の和歌浦をモデルとしているそうだ。
六義園の六義とは中国古代の詩集「詩経」の六つの分類(風・賦・比・興・雅・頌)をいう。
紀貫之は「古今和歌集」の仮名序で和歌について日本風に六種(むくさ)に分類している。
「そへ歌、かぞへ歌、なぞらへ歌、たとへ歌、ただこと歌、いはひ歌」がそれだ。

柳沢吉保は和歌の六体(六種)を表現するために歌枕として有名な和歌浦をこの地に写し、
その中に万葉集や古今和歌集などに基づいて六義園八十八境を作った。
ここはその一つで出汐湊と名付けられている。
和歌の浦に 月の出汐の さすまゝに よるなくたづの こゑぞさびしき 慈円

出汐湊の右手にある田鶴橋(仙禽橋 たづのはし)を渡ると中の島。

中の島には妹山、背山の二つがある。
和歌山の和歌浦には妹背山がある島があるそうだ。
いもせ山 中に生たる 玉ざさの 一夜のへだて さもぞ露けき 藤原信実

滝見茶屋の先に水分石(すいぶんせき みずわけいし)がある。
源流から流れてきた水がこの石で三つに分かれて流れ落ちる。
瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思う 崇徳院

出汐湊から中の島を挟んだ対岸は吹上浜と呼ばれ、そこには吹上茶屋と吹上松がある。
吹上松は樹齢300年。和歌山の吹上浜の砂丘には根上がり松があり、それを模して植えられた。
秋風の 吹きあげにたてる 白菊は 花かあらぬか 浪のよするか 菅原道真

この時期は花らしい花もなかったが、季節により桜、ツツジ、藤、梅なども見られるようだ。
特に紅葉は見事のようなので、そのころにまた来たい。

門を出ると木の扉に何やら小さなハチのようなものがいた。
よく見るとハチに擬態したトラカミキリの仲間だった。
この前、観音崎で見たヨツスジトラカミキリとは少し違う。

タケトラカミキリというもののようだ。
タケといっても六義園内の竹林に関係しているものではない。
タケトラカミキリの幼虫は竹垣など加工された竹や枯れた竹に寄生する。