滋賀県 建築家 / 建築設計事務所イデアルの小さな独り言

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浄土真宗末寺-本堂建て替えプロジェクト その2/滋賀県 建築家 建築設計事務所イデアル

2021年07月31日 | 建築

今回は前回記事に引き続き、昨年から滋賀県大津市で計画している浄土真宗末寺の本堂建て替えプロジェクトについてお話をします。前回(その1)は、伝統様式による寺院建築では、檀家(参詣者)の高齢化や世代による生活習慣・見解の違いに対応できないうえ、末寺を維持・運営するコミュニティ(檀家制度)の希薄が懸念される今日の状況において、建築家としてどのような本堂を提案できるのか・・既成概念に捉われないこれからの浄土真宗末寺本堂のありようはどのようなものなのか・・をテーマとして新しく建て替える本堂を計画したことを背景に主として本堂外部についてお話しました。今回は新しい本堂の内部についてお話したいと思います。

画像は、建て替える新しい本堂の内観パース(内観の完成予想図)です。浄土真宗末寺の本堂における基本的な平面構成は、ご本尊(阿弥陀如来像)が安置された須弥壇や開山床・御代床のある内陣、内陣両脇の左右余間および、檀家(参詣者)を収容する外陣や広縁・落縁などで構成されており、浄土真宗本山の御影堂を小さくした平面構成となっています。新しい本堂の内部空間構成の特徴は、内陣両脇の左右余間を思い切ってなくしていることと、もう一つは前回記事でもお話しましたように、外陣を土足のまま利用できる椅子座と畳敷きの床座に二分していることです。

本堂の建設費用に見合うようにするには、間取りや仕様を最小限にまとめる必要があったため、七高僧御影や太子御影および御絵伝については掛けていない事例もあることから、これらを掛けるための左余間・右余間は設けていません。内陣両脇の左右余間をなくしたことにより、これらのスペースには椅子座などへの対応により必要となる収納スペースを確保しています(内観パースで内陣の両脇に見えている障子戸が収納スペースの出入口になっています)。また、本堂内部の仕様については、従来の本堂内陣に見られるような過度な装飾の欄間などはなくしており、壁は壁紙(クロス)貼りとし、天井は木毛セメント板を底目地貼りにするなどして、安価な仕上材でシンプルなデザインにまとめて建設コストを削減しています。

内陣については、来迎柱と開山床の間の有効寸法、来迎柱と内陣側壁までの有効寸法、須弥壇から内陣手前までの有効寸法等について必要最低限の寸法を確保し、伝統様式による宗教行事が行えるようにしています。新しい本堂では内陣両脇の左右余間をなくしていることから、従来のような両脇に余間がある場合に比べて内陣空間が閉塞的になります。この閉塞感を解消するために内陣側壁の上部は欄間のような鏡面としています。この鏡面部分に内陣の吊り格子天井が写り込むので、内陣の両脇には吊り格子天井が続いているような広がり(抜け)が感じられ、内陣が閉塞的な空間にならないように工夫しています。さらに、本堂の天井には内陣と外陣を突き抜ける建築化照明を設けています。この内陣と外陣をつなぐ照明BOXからは柔らかい金色の間接光が降り注ぎ、内陣に安置されたご本尊の阿弥陀様と外陣の参詣者との一体感を演出しています。

もう一つの内部空間の特徴は、前回記事でもお話しました外陣を土足のまま利用できる土間形式と畳敷きに二分していることです。内観パースの手前側が土間形式となっている外陣部分で、外部に設けたトイレ利用も兼ねたスロープ(その1の外観パース参照)を通じて、段差なしで土足のまま本堂に出入りできるようにバリアフリー化しています。内観パースの奥側が畳敷きの床座としている外陣部分で、この畳敷きの外陣部分は、新しい本堂とつなげる既存庫裏の1階床レベルと同レベルにしているので、段差なしで既存庫裏からも本堂への出入りができるようにバリアフリー化しています。これは新しい本堂が鉄骨造であることに加え伝統様式に拘らない近代様式としているため、従来の木造本堂よりも外陣の床を低く設置できることによるものです。畳敷きの外陣部分では、従来のような床座利用もできますし、座面の低い椅子座での利用も可能です。また、ちょっとした役員会やコミュニティ・日常の憩いの場として利用する場合などは、いちいち靴を脱がなくても土間形式の外陣部分で行うことも可能ですし、畳敷きの外陣部分と土間形式の外陣部分を併用して利用することもできます。このように多様な利用形態が可能となることによって、気軽に行事やコミュニティに参加できる開放的な空間を提供することが可能となっています。

浄土真宗末寺の本堂は、江戸時代に徐々に醸成されてきた内陣や外陣などの平面構成による基本形を踏襲しながら今日まで受け継がれてきています。その一方で社会の時代的な変化や必要性に迫られながら本堂の形式も改善されていますが、今日の状況においては檀家の高齢化や若い世代の檀家離れによる檀家の減少への対応という新たな課題も付加されています。このような状況に対応するには、寺院建築も伝統様式によって再建するのではなく、伝統的要素に柔軟性と実用性を取り入れる工夫が必要であると考えています。

 

 

 


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