※凪良ゆう(1973年滋賀県生まれ。京都市在住。2007年にBLジャンルの初著書を刊行しデビュー。ボーイズラブ(BL)作家として活躍し『美しい彼』シリーズ(2014年〜)は2021年にドラマ化され2023年4月には映画化。2017年には初の文芸小説『神さまのビオトープ』を刊行。2019年の『流浪の月』で本屋大賞を受賞し、2022年に実写映画化。2020年の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補にもなった『汝、星のごとく』で恩田陸以来2人目の2度目の本屋大賞受賞)
●心に刺さる言葉がちりばめられた傑作
瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)。父は恋人のところから帰って来なくなった。一方で男好きの母の恋愛に振り回される櫂(かい)。惚れた男を追った母に連れられ、京都から島に転校してきた。そんなともに心に孤独と欠落を抱えた二人が出会い、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していき…。『小説現代』掲載を加筆改稿し単行本化。
人とは、人生とは。遠距離恋愛、ジェンダー、ヤングケアラー、SNS炎上、不倫、浮気、がん闘病、女性差別などいろんなものを詰め込みながらも、すんなりと読み進められる。すさまじい展開の割には読後感は悪くなく、最後は清々しささえ感じられた。「正しさなど誰にも分からない。だから捨ててしまいなさい。もしくは選びなさい」「自分のしたいことをやる」。心に刺さる言葉がちりばめられた傑作。
実は凪良ゆうさんの経歴もすさまじい。読売新聞のインタビュー記事によると、母子家庭で育ち、その母親は小学校6年生のときに出て行く。親戚の家を転々とした後、児童養護施設で暮らす。高校へ進学したが1年で自主退学し、就職。しかし「中卒」「施設出身」と足元を見られ、月給は7万円ほど。生活ができず、半年で退社。その後はアルバイトを掛け持ちしてその日暮らしの生活を続けながらも、その頃連絡が取れるようになった母親に仕送りを続けていたという。「お金で買えないものもある。でもお金があるから自由でいられるころもある。たとえば誰かに依存しなくていい。いやいや誰かに従わなくていい。それはすごく大事なことだと思う」。作中のこの言葉には実感が込められている。
「他の誰かと比較しなくていい。自分にとっての幸せを見つけて自分の人生を生きてほしい」という、全ての作品の根底にある凪良ゆうさんの願いが、この作品にもしっかり込められている。凪良ゆうさん会心の作ではないだろうか。
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