お父さんのマリポタ日記。
マリノスのこと、ポタリングのこと。最近忘れっぽくなってきたので、書いておかないと・・・
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※小川哲(1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年「ユートロニカのこちら側」でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。17年「ゲームの王国」で第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。22年「地図と拳」で第168回直木賞受賞



●エンゲルスもびっくり

 非常に質の高いSFを中心とした、これぞ小川哲という6篇の作品集。すべてが面白かった。いや、面白過ぎる。

 「魔術師」…片道切符のタイムマシンで人生を賭け、時空を超えた大魔術に挑む。こういう発想もあったか。

 「ひとすじの光」…死ぬ前に周到に相続手続きを終えた父。なのに、なんで駄馬をそのまま残したのか。血統でさぐる感動のファミリーヒストリー。

 「時の扉」…未来は変えられないが、過去は変えられる。よく理解できなかったが、最後に意表を突かれた。

 「ムジカ・ムンダーナ」…音楽が貨幣の島。一番高価な音楽はこれまでに一度も演奏されたことがない。いや、そんなバカな…。構成が素晴らしい。

 「最後の不良」…「流行」が消え、「虚無」が流行する近未来に特攻服と改造単車で殴り込む。なんとなく筒井康隆チックな世界。

 「嘘と正典」…表題作。未来から過去への通信で歴史を変え、共産主義をなかったことにしようとするCIA工作員。これ最高。エンゲルスもびっくりしてるだろうね。

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※柴田哲孝(1957年東京都武蔵野市生まれ。日本大学芸術学部写真学科中退。フリーのカメラマンから作家に転身し、フィクションとノンフィクションの両分野で活動。2006年「下山事件」で日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、日本冒険小説協会大賞(実録賞)、07年「TENGU」で大藪春彦賞を受賞。「下山事件 暗殺者たちの夏」「GEQ 大地震」「リベンジ」「殺し屋商会」など。1986年から1990年のパリ・ダカールラリーにドライバーとして参戦したほか、南米のアマゾン川に世界最大の淡水魚ピラルクーを釣りに行った冒険旅行記なども出版している。モータージャーナリストとしても活動



●なるほどと思わせる〝陰謀論〟

 2022年7月に起きた安倍晋三元首相銃撃事件をモチーフにしたサスペンス。至近距離にいてすぐに逮捕された男の単独犯ではなく、〝組織〟が周到に準備し、その命を受けた影のスナイパーが放った特殊な銃弾が元首相の息の根を止めた。男はジョン・F・ケネディ大統領を暗殺したオズワルドの役割を果たしていただけだった。

 実在の人名が次々と出てくるのでどこがノンフィクション(真実)で、どこがフィクション(妄想)なのか分からなくなる。逆にすべてが真実にも思えてくる。後方の警備が甘すぎたこと、救命医と司法解剖の結果に大きな齟齬(そご)があったこと、特に後者の謎解きは興味深い。なるほどと思わせる〝陰謀論〟だった。

 面白く読み進めたが、後半の雑誌記者が真相に迫っていくシーンはちょっとすごみが足りない気がした。スクープを狙う契約記者では迫力が足りない。何というか、追及にもっと義憤とか正義感といったインパクトが欲しかったかな。同僚の女性記者の身体を張った取材は逆に意外な感じがした。

 「安倍元首相撃たれ死亡」。翌日の全国紙朝刊のメイン見出しが一言一句同じだったことが話題となった。各社申し合わせがあったり、どこからか指示があったのか。暗殺、テロ、銃殺をなぜ見出しに取らないのかなどという声があった。新聞整理の経験からいうと見出しに申し合わせや外部から云々ということはない。これだけ衝撃的なニュースをどう分かりやすく伝えるか。独自性を出す必要もこねくり回す必要もない。暗殺、テロに関しては事件直後でその背景も動機も不明だったため選ぶことはできない。「撃たれ死亡」はまさに直球ど真ん中で、これしかない見出しだったと思う。

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※湊かなえ(1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。同作を収録したデビュー作「告白」はベストセラーとなり、09年本屋大賞を受賞。12年「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞(短編部門)、16年「ユートピア」で第29回山本周五郎賞。18年「贖罪」がエドガー賞(ベスト・ペーパーバック・オリジナル部門)にノミネート。著書に「未来」「落日」「カケラ」「ドキュメント」など)



●登山描写がリアルすぎる

 日々の思いを嚙み締めながら、1歩1歩、山を登る女たち。通過したつらい日々は、つらかったと認めればいい。山頂から見える景色は、これから行くべき道を教えてくれる。全4編を収録した書き下ろし連作小説。

 え? 湊かなえさんて山女だったのか。登山描写がリアルすぎる。

 朝日新聞のインタビューによると、学生の頃から山に親しんできたが結婚を機に遠ざかる。そしてデビュー作「告白」がベストセラーとなると「外出すらままならない生活でした」。そこで考えたのが「山を舞台にした作品の取材」を名目にすること。編集者に掛け合い、11年に北アルプスの白馬岳で再開。以来、執筆の合間を縫って山行を重ねてきたという。なるほど。うまくやったね。

 これを読むと山に上って山頂からの絶景を拝みたい気持ちが湧いてくるけど、ガレ場も鎖場もいやだし、垂直に近い岸壁にへばりつくことも、つま先が数センチひっかかるだけのわずかなくぼみに足を乗せることも、カニのタテバイ(何のことだか分からないが)もできるはずがない。もう66歳だもんね。指先の力もないし、体力も続きそうもない。でも、五竜岳も槍ヶ岳も剣岳も上ったような気分になった。「続」から読み始めてしまったが、NHKでテレビドラマ化もされた最初の「山女日記」も読んでみたいね。「山ガール」じゃなくて「山女」ってものいい。

 4編の中では表題作ではなく、「立山・剣岳」が良かった。きっとこうだろうなと思う展開そのままに話が続くけど、それが逆に共感を覚える。そして意外性たっぷりだけど「いや、そうだね。これしかないよね」というラストシーン。泣けるね。

 山は標高が上がるにつれていろんな意味で別世界になっていくんだろうね。下界のことなんか忘れちゃえって(^o^) まあ、それは自転車のヒルクライムも同じだけど。だからその楽しさは分かるよ。

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※島田荘司(1948年10月広島県生まれ。武蔵野美術大学卒業。1981年「占星術殺人事件」でデビュー。「斜め屋敷の犯罪」「異邦の騎士」などに登場する名探偵・御手洗潔シリーズや「寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁」「奇想、天を動かす 」などの刑事・吉敷竹史シリーズで人気を博す。1984年「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」、85年「夏、19歳の肖像」で直木賞候補



●ちょっとフェアじゃないかな

 ナチの収容所で生まれ育った世界的なバレリーナ、フランチェスカ・クレスパンが「スカボロゥの祭り」の公演中、前半を終えた休憩時間に控え室で殺害された。ところが死亡したはずのバレリーナは額から血を流しながらも後半も観客の前で踊り続けた。控え室はセキュリティが見張っており、クレスパン以外に出入りはなく、密室状態。頭を殴打した凶器も見つからない。一体何が起こったのか。20年経っても解決しない、奇妙奇天烈な謎に御手洗潔が挑む。

 久々の御手洗潔シリーズは600ページを超える超大作。単なる「密室」ものだけでなく、そこに「死者の踊り」という、とんでもなく魅惑的な謎が加わる。そしてナチ、ユダヤ、日本人。おとぎ話。まったく無関係にみえる事象が最後に繋がるなど、数多くのエピソードも読ませる。本筋に関係なさそうな物語やうんちくが今回もあるけど、それだけでも面白い。このあたりはさすがと思うのだけど、ただねぇ、ちょっと強引過ぎるというか、フェアじゃないかな。最大の謎が、そんなことだったの、それでいいのかいって感じ。だったらそれらしい伏線を張って欲しかった。

 「出エジプト」「バビロン捕囚」など受験勉強以来に出会う歴史用語もあって、懐かしさを覚えながらもこれが謎解きに繋がるのかとメモを取ったり、もしかして日本人とユダヤ人の繋がりが鍵になるのかと期待したんだけどね。「死者の踊り」にも科学的な解明がなされるとばかり思っていた。まあ、これは読者の勝手な思いなんだから裏切られてもいいんだけど、島田さんらしい切れ味がなかった気がする。ちょっとモヤモヤな感じですな。

 御手洗潔がストックホルム大学の教授というのは驚いたが、石岡役がハインリッヒさんになっていて、いっそう驚いた。

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※小川哲(1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年「ユートロニカのこちら側」で第3回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。17年「ゲームの王国」で第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。19年「嘘と正典」で第162回直木賞候補。22年「地図と拳」で第13回山田風太郎賞、第168回直木賞を受賞)



●面白過ぎて、いや凄すぎる

 青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、ロレックス・デイトナを巻く漫画家……。著者自身を彷彿とさせる小説家の「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する連作短篇集。2019年から22年に小説新潮に掲載された短編5作(「プロローグ」「三月十日」「小説家の鏡」「気味が手にするはずだった黄金について」「受賞エッセイ」)に書き下ろしの1作(「偽物」)を加えた。

 図書館の貸し出し予約をした時はどういう内容か分かっているのだけど、延々と待っているうちにすっかり忘れ、何の予備知識もないまま読み始めた。「プロローグ」は哲学的で今ひとつ理解しずらく、これがこのまま続くとしんどいなと思ったが、それは全くの杞憂。それどころか面白過ぎて、いや凄すぎてあっという間に小川哲ワールドに引きずり込まれた。読みやすい文章にも好感。「プロローグ」はこの作品のプロローグではなく、小説家としてのプロローグだったんだね。

 私小説のようにみえて、そこから妄想を膨らませ、エッセイのようにみえてどうもそうではない。巧いなぁ。やっぱり小説家は才能がなきゃできないよ。読み終わるのが残念で、もっともっと読みたかった。こんな気持ちはこれまで感じたことがない。何度も言うけど、凄すぎる。

 「受賞エッセイ」の「どちらの小川さまですか?」には笑った。「偽物」にあった野球の不可解だというネーミング、「ストライク」「ボール」「アウト」。長年野球をやり「ショート」を守ったこともあり、野球関連の仕事もしてきたが、そんなこと考えたこともなかった。

 ちなみに「三月十日」。まだ会社員だったので普通に仕事をしていたのは間違いない。その週末にブルベを控えていたので自転車通勤もしていない。特に何もない平凡な1日だったはず。11日は会社から自宅までの40キロを歩いて帰ったが、気になったのは週末のブルベが開催されるかどうかということ。スノボ旅行を案じる彼らと変わりなかったね。もちろんブルベは中止になった。

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※村木嵐(1967年京都市生まれ。京都大学法学部卒業。会社勤務を経て95年より司馬遼太郎家の家事手伝いとなり、後に司馬夫人である福田みどり氏の個人秘書を務める。2010年「マルガリータ」第17回松本清張賞受賞。近著に「せきれいの詩」「にべ屋往来記」「阿茶」など)



●爽やかな読後感

 病のため片手片足は動かず、口をきくこともできない9代将軍吉宗の嫡男・家重(幼名長福丸)。歩いた後には尿を引きずった跡が残るため、かたつむり(まいまい)が這った葉のようだとして「まいまいつぶろ」と呼ばれ蔑まれていた。ところが、誰も聞き取れなかった家重の言葉を唯一、解するものが現れた。大岡越前守忠相の遠縁にあたる大岡忠光(幼名兵庫)だった。「口となるも、目や耳になってはならぬ」。そう忠相に戒めを受け、忠光は将軍の小姓となり、通詞を務めることになった。第170回直木賞候補。第12回日本歴史作家協会賞作品賞、第13回本屋が選ぶ時代小説大賞受賞。

 家重といえば、23年にNHKで放送されたドラマ10「大奥」を思い出す。よしながふみさん原作のドラマで、恥ずかしながらそこで初めて家重の病を知った。冨永愛さんの吉宗はカッコ良かったが、家重を演じた三浦透子さんの演技には驚かされた。あの表情はすごい。まさに名演。この作品を読んで、もう一度見てみたい気になった。再放送してくれませんかねぇ。

 将軍の言葉をそのまま伝えているのだが、当然そこには「ほんまかいな。脚色してない?」という疑惑が生じる。第5章「本丸」では家重の将軍襲職をめぐり老中が反旗を翻す。ここが一番面白い。そして最終章の家重の言葉。「もう一度生まれても、私はこの身体でよい。忠光に会えるのであれば」。30年間の2人の孤独な闘い。「不如意な身体で、まいまいつぶろの如く、のろのろと。ですが大きな殻を見事、背負いきって歩かれました」と忠光。2人にとって悔いのない人生であっただろう。家重と比宮が愛し合っていく姿もぐっとくる。爽やかな読後感だった。

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※青山美智子(1970年愛知県生まれ。横浜市在住。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務の後、出版社で雑誌編集者をしながら執筆活動に入る。2017年「木曜日にはココアを」で小説家デビュー。同作は第1回未来屋小説大賞受賞、第1回宮崎本大賞受賞。21年「猫のお告げの中で」で第13回天竜文学賞受賞。同年「お探し物は図書館で」が本屋大賞第2位。22年「赤と青のエスキース」が本屋大賞第2位。23年「月の立つ林で」が本屋大賞第5位)



●「ああ、いい作品だ」 この一言

 「エスキースとは『下絵』のこと。本番を描く前に、構図を取るデッサンみたいなものだよ。それを見ながら、あらためてじっくり完成させるって。だから1日…半日でもいいよ」。メルボルンに短期留学中で帰国直前だったレイ。「期間限定」で恋愛中のブーに頼まれ、画家の卵のモデルとなる。「青」と「赤」だけで描かれたその絵画が語り出す30年間の物語とは…。書き下ろし連作短篇集。

 ああ、いい作品だ。この一言に尽きる。

 まったく無関係に見えて、全てが見事に繋がっている素晴らしい恋愛の物語。最後の最後に「仕掛け」にようやく気がつかされるが、とっても幸せな気分になれた。清々しい読後感。「赤と青とエスキース」のタイトルはまさに「うんうんその通り」としっくりくる。すべてが分かった上で、もう一度読みたい。

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※西加奈子(1977年、イラン・テヘラン市生まれ。エジプト・カイロ、大阪育ち。2004年に「あおい」でデビュー。「通天閣」で織田作之助賞受賞。「ふくわらい」で河合隼雄物語賞受賞。15年「サラバ!」で直木賞受賞。ほかに「さくら」「きいろいゾウ」「円卓」「舞台」「漁港の肉子ちゃん」「ふる」「i」「おまじない」「夜が明ける」など)



●「死ぬまで生きる」 そんな思いが

 カナダで、がんになった。2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、乳がん発覚から寛解までの約8ケ月間を克明に描く。祈りと決意に満ちた初のノンフィクション。

 バンクーバーって大阪弁やったんか! ということにまず驚いた。いや、そんなことはないのだが、大阪弁の人は英語も大阪弁に訳すんかい!というのは、よく考えれば当たり前かもね。そのツッコミどころ満載の大阪弁が、がん闘病という重いストーリーの深刻さを笑いに替え、安心感さえ与えてくれる。大阪弁って便利やね。

 途中で山本文緒さんが亡くなられたことがでてきたことにも驚いた。山本さんは2021年10月13日に永眠。そうか、同じ時期だったのか。山本さんはがんで余命宣告をされ抗がん剤治療を続けたが、副作用のあまりのひどさに緩和ケアを決断した。その様子を遺作となった「無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記」に書き綴った。まさに命をかけた作品だった。

 「人はいつか死ぬ」。健康だとつい忘れてしまう。がん宣告はそのことを唐突に、しかし揺るぎない現実として突きつけてくる。「まさか私が」「なんで私が」。生活が一変し、始まる闘病。それもコロナ禍の上、言葉が通じず、文化も違う海外。書かれていない、もっともっと酷く辛いことがあったに違いない。そして寛解で終わりではなく、治療は続き、人生も続いていく。「本当にこれで終わりなのか」。日常を取り戻したけど「幸せすぎて怖い」。すさまじい。

 「死にたくない。少なくとも『もう死んでいいか』と納得できる日なんて、私には来ない気がする。きっと死ぬ瞬間、最後の最後まで、それはもう、本当にみっともなく、恐がり続けるだろう」。

 「がんになって良かったことは『それの何が悪いねん』、そう思えるようになったことだ。みっともなく震えている自分に『分かるで、めっちゃ怖いよな』、そう言って手を繋ぎ、肩を叩きたくなる」。

 がんになることで見えなかったものが見えてくる。「死ぬまで生きる」。闘病記を読むといつもこう思い知らされる。幸いにしてがんは宣告された翌日に死ぬことはなく、猶予期間が少なからずある。そこで何をするか。どう生きるか。自分の身体のボスは自分。自分で決められる状態なら自分で決めていきたい。先のことは神のみぞ知る。今日と同じ明日が来るとは限らないのだ。

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※川上未映子(大阪府生まれ。2008年「乳と卵」で芥川賞、09年詩集「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」で中原中也賞、10年「ヘヴン」で芸術選奨文部科学大臣新人賞および紫式部文学賞、13年「愛の夢とか」で谷崎潤一郎賞を受賞。19年「夏物語」で毎日出版文化賞。同作は40カ国以上で刊行が進み、「ベヴン」の英訳は22年ブッカー国際賞の最終候補に選出された。23年「すべて真夜中の恋人たち」の英訳が全米批評家協会の最終候補にノミネート)




●ラストシーンではモヤモヤ感

 惣菜店に勤める花は、ニュース記事で黄美子が若い女性の監禁・傷害の罪に問われているのを見つけた。20年前花は、黄美子と少女たち2人と疑似家族のように暮らしていて…。『読売新聞』連載を書籍化。2024年本屋大賞6位。謳い文句は「善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作」。

 600ページ近い大作。比喩がちょっと分かりづらく、くどい部分もあったが、独特の語り口調とあまりの物語の凄さに引き込まれた。ただねぇ、ラストシーンではモヤモヤ感も残ったかなぁ。黄美子さんの事件がすっきりこない。

 「私がいないと生きられない」(と花が思っている)黄美子さんや、同じように親ガチャで住むところや居場所のない蘭や桃子を支え、彼女ら疑似家族と生きていくため、懸命にもがき苦しみながらカード詐欺で金を稼いでいく主人公の花には共感を覚えた。というより、あまり悪には感じなかった。善のための悪だったからかな。奪ったのは富裕層からだし、貯めたお金も結局、吐き出す羽目になるしね。

 冒頭に出てきて花を救った黄美子さんが、あれこんな人だっけ? と頼りなくなっていくのは何となく違和感を感じたが、「おまえの人生どうなんだって訊かれたら」と苦悩する花に対し、「誰がそんなこと訊くの? 誰も訊かなくない? じゃあいいじゃんか」と答えるのは、目から鱗。肩の荷が下りるね。とらえどころのないような、いい味出してる。

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※原田ひ香(1970年神奈川県生まれ。05年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。ほかに「三人屋」「ランチ酒」シリーズ、「東京ロンダリング」「母親ウエスタン」「一橋桐子(76)の犯罪日記」「三千円の使い方」「DRY」「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」「古本食堂」など)



●もしかして続編ある?(^o^)

 亡くなった作家の蔵書が集められた「夜の図書館」をSNSで知った乙葉。実在の本に登場する料理がまかないとして出てくる夜の図書館で、本好きの同僚に囲まれながら働きはじめるが…。『WEB asta*』連載を加筆修正。

 「古本食堂」が良かったので期待したのだが、あれ?っという印象。前作の料理はどれも自然な流れで出てきていて、思わず食べてみたくなったのだが、今回はなんとなくとってつけたような感じがする。夜の図書館という設定は面白く覆面作家の章などはそれなりに読ませてくれるのだが、謎解きはもう少しひねりを効かせてほしかったし、終盤は淡々とした説明調になってしまっている。終わりも中途半端だし、ちょっと残念…あれ? もしかして続編ある? そのための伏線?

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※一穂ミチ(2007年「雪よ林檎の香のごとく」でデビュー。劇場版アニメ化もされ話題となった「イエスかノーか半分か」などボーイズラブ小説を中心に作品を発表して読者の絶大な支持を集める。初の単行本一般文芸作品「スモールワールズ」が本屋大賞第3位、吉川英治文学新人賞を受賞したほか、直木賞、山田風太郎賞の候補に。本作も本屋大賞第3位、直木賞候補作)



●一穂ミチさん、やっぱごっつ巧いやん

 旬も過ぎ、社内不倫の“前科”で腫れ物扱いの40代独身女性アナウンサー。娘とは冷戦状態、同期の早期退職に悩む50代の報道デスク…。一見華やかなテレビ局。そこで働く、真面目で不器用な人たちの物語。

 うん? 何やねんこれ? と4つある物語のどれもが絶妙のイントロで、あっという間に引き込まれる。表現力も豊かで巧み。そうくるかとちょっと笑わせてもくれる。たまに訳分からんこともあるけど、一穂ミチさん、やっぱごっつ巧いやんと改めて思う作品。大阪弁、ええねぇ。はまっとる。

 登場人物をだぶらせながら、どれも全く違うお話。誰もが人の知らないところで苦悩し、もがく。いや諦める。ままならぬ人生。そこから前へ進めるのか。抜け出せるのか。砂嵐の中で希望という星屑を探していく。

 どれもほっとするエンディングに心がなごんだ。最後の章は泣けたね。で、キャラとしては笠原雪乃さん、最高(^o^)

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※筒井康隆(1934年大阪府生まれ。兵庫県神戸市垂水区在住。ホリプロ所属の俳優でもあるらしい。ナンセンス、ブラックユーモアから始まり、実験的な作品も発表。92年「朝のガスパール」で日本SF大賞。「東海道戦争」「48億の妄想」「時をかける少女」「ベトナム観光公社」「アフリカの爆弾」「にぎやかな未来」「家族八景」「虚人たち」(第9回泉鏡花文学賞)「文学部唯野教授」「夢の木坂分岐点」(第23回谷崎潤一郎賞)「ヨッパ谷への降下」(第16回川端康成文学賞)ほか多数。93年に断筆宣言し、96年に執筆再開)



●オレの大好きな火田七瀬はどうした

「時をかける少女」「パプリカ」などの主人公たちが病床の作者を訪れる「プレイバック」ほか、痙攣的笑い、甘美な郷愁、胸熱きわまる感涙等を齎す芳醇無比な掌篇小説25篇。

 ショートショートと掌篇(しょうへん)小説の違いって何だろう。星新一と筒井康隆の違いか。スマートなアイデアと訳の分からぬドタバタの違いか。最後の1行への期待は同じような物だと思うが。それにしてもNHKBSで放送された藤子・F・不二雄SF短編ドラマ「少し不思議な物語」は面白くて仕方なかったが、「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」は今いちだなぁ。録画してまだ途中までしか見てないけど。ところで芳山和子って誰だっけ。えっ? 時をかける少女? ジュビナイルは読まないからなぁ。NHKで見たのなら知ってるぞ。ラベンダーの香りとケン・ソゴル。島田淳子、可愛かったなぁ。映画の原田知世じゃないぞ。え、浅野真弓なの? 名前替えたのか。そりゃ吃驚仰天。富豪刑事なんて読んだ気がするが、すっかり忘れたぞ。唯野教授ははっきり言うが読んでない。あ、パブリカはこの前やっと読んだよ。おい、オレの大好きな火田七瀬はどうした。何で出てこない。あれ、これもNHKでやってたのか。多岐川裕美だって。見たかったなぁ。再放送望む。さてと「日本以外全部沈没」読まなくちゃ。

 出版当時89歳の著者曰く「これがおそらくわが最後の作品集になるだろう」。またまた、ご冗談を(爆)。

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※早見和真(1977年神奈川県生まれ。桐蔭学園高野球部出身。2学年上に高橋由伸がいた。2008年、その野球部時代の体験をもとに執筆した「ひゃくはち」でデビュー。同作は映画化、コミック化されベストセラーとなる。14年「僕たちの家族」が映画化、15年「イノセント・デイズ」が第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞、テレビドラマ化され大ベストセラーに。19年「店長がバカすぎて」が20年本屋大賞ノミネートされロングセラー。20年「ザ・ロイヤルファミリー」が第33回山本周五郎賞およびJRA賞馬事文化賞受賞。ほかに「小説王」「かなしきデブ猫ちゃん」(絵・かのうりん)など)



●添えられた新聞記事が効いている

 ヒーローだけが主人公じゃない。補欠も就活生もお母さんも、誰だって主人公なんだ!  恋愛、友情、嫉妬…。東京六大学野球を題材にしたリアル青春ストーリー。『本の時間』掲載を単行本化。

 タイトルの「6 シックス」は日本最古の大学リーグの東京六大学野球からきている。第1週「赤門のおちこぼれ」は東大、第2週「 苦き日の誇り」は法大、第3週「もう俺、前へ!」は明大、第4週「セントポールズ・シンデレラ」は立大、第5週「陸の王者、私の王者」は慶大、第6週「都の西北で見上げた空は」は早大が舞台。順番が実際の対戦順とほぼ一緒で、六大学出身者としてはすんなりと作品の世界に入っていける。

 ちなみに開幕戦は前シーズンの優勝校と最下位校が対戦するそうだ。そういえば、リーグ初戦は東大戦、立大戦が多かった。

 東大がベンチ入りできない補欠、法大がケガをしてマネージャーとなった甲子園のスター選手が主役だったので哀れな野球選手ものが続くかと思ったが、明大から流れがガラリと変わる。でも期待を裏切らない面白さ。大学時代がいろいろと思い出され、第6週では涙を誘われた。もちろんしっかりと笑える場面が随所にある上に、各週に添えられた新聞記事がぴりりと効いている。ニヤリとしたり「なるほどねぇ」と驚かされることも。第6週にないのは残念。そこをぜひ読みたかった。まあ、決めつけず、読者に想像させるのが狙いなんだろうけどね。

 読み進むうち、早見さんはきっと早大出身なんだろうねと勝手に想像していたが、ウィキペディアによると国学院大だそうだ。

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※恩田陸(1964年宮城県生まれ。91年、第3回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となり、「六番目の小夜子」でデビュー。05年「夜のピクニック」で第26回吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞受賞。07年「中庭の出来事」で第20回山本周五郎賞受賞。17年「蜜蜂と遠雷」で第156回直木賞、第14回本屋大賞受賞。主な著作に「ネバーランド」「黒と茶の幻想」「上と外」「ドミノ」「ドミノ in 上海」「チョコレートコスモス」「私の家では何も起こらない」「失われた地図」など)



●第1作もただただ笑って読みましたよ

 1億円の契約書を待つ生保会社のオフィス。下剤を盛られた子役の麻里花。推理力を競う大学生。別れを画策する青年実業家。間違えられた「どらや」の紙袋を巡って昼下がりの東京駅で繰り広げられる、ノンストップハチャメチャドタバタ喜劇。見知らぬ者同士がなぜか絡み合い、運命のドミノが倒れてゆく!

 続編「ドミノ in 上海」を先に読んでしまい「最悪のことが最悪のタイミングで起こる」展開はそれなりに予想できたのだが、それでも理屈抜きで面白い。続編も抱腹絶倒だったが、20年前に書かれた第1作も色あせない「大傑作」。27人と1匹と多すぎる登場人物もそれぞれの個性が強烈過ぎ、「誰だっけ?」なんてことにはならない。すべて頭にすんなり入ってくる。描写も分かりやすくスピーディー。まるで映画のようにそのシーンが想像できてワクワクする。いや、映画化しなかったの? 恩田さん、やっぱり巧い! 第1作もただただ笑い、夢中になって読みましたよ♪

 冒頭にあった「人生における偶然は、必然であるーーー」。まったくその通り。

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※辻村深月(1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年に「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年「ツナグ」で第32回吉川英治文学新人賞、2012年「鍵のない夢を見る」で第147回直木賞、2018年「かがみの孤城」で第15回本屋大賞受賞)



●意表を突かれた展開に「やられた」

 39歳で独身だった西澤架(かける)は婚活で知り合った33歳の真美(まみ)と2年つき合い、ある事を契機に同棲。ようやく結婚を決断して式場も予約した、その矢先に彼女がこつ然と姿を消した。婚約者の居場所を探すことは彼女の過去と向き合うことでもあった。『週刊朝日』連載を単行本化。

 自分の結婚は32歳の時。20代だった昭和のうちにはできず、平成に少し入った年で、同級生の中では遅いほうだった。もちろん婚活なんて言葉は当時はなかったが、結婚、家族、進学、就職などそれぞれのエピソードは共感することばかりで、心に染み入ってくる。身につまされる思いで読み進んでいると、「えぇっ?!」と意表を突かれた展開となり、後半は一気読み。面白く、巧みに構成された物語で「あちゃー、やられた」という感じ。「あ、こういう人いるいる」という人物描写も絶妙で、自然と物語の世界に入っていけた。

 傲慢と善良は紙一重なのかな。ちょっと強引な部分もあるけどね。

 それにしても主人公の名前の「真美」はこんがらがるのでやめて欲しかった。どうしても「しんじつ」と読んでしまうからねぇ。

 第7回ブクログ大賞を受賞。発行部数は100万部を突破し2023年に最も売れた小説となった。藤ヶ谷太輔と奈緒のW主演で映画化され、2024年9月27日から公開されている。

 「知りたくなかった過去」は誰にでもあるよね。妻にもあったのかな。もう知るよしもないけど。

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