お父さんのマリポタ日記。
マリノスのこと、ポタリングのこと。最近忘れっぽくなってきたので、書いておかないと・・・
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※青山美智子(1970年愛知県生まれ。横浜市在住。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務の後、出版社で雑誌編集者をしながら執筆活動に入る。2017年「木曜日にはココアを」で小説家デビュー。同作は第1回未来屋小説大賞受賞、第1回宮崎本大賞受賞。21年「猫のお告げの中で」で第13回天竜文学賞受賞。同年「お探し物は図書館で」が本屋大賞第2位。22年「赤と青のエスキース」が本屋大賞第2位。23年「月の立つ林で」が本屋大賞第5位)



●「ああ、いい作品だ」 この一言

 「エスキースとは『下絵』のこと。本番を描く前に、構図を取るデッサンみたいなものだよ。それを見ながら、あらためてじっくり完成させるって。だから1日…半日でもいいよ」。メルボルンに短期留学中で帰国直前だったレイ。「期間限定」で恋愛中のブーに頼まれ、画家の卵のモデルとなる。「青」と「赤」だけで描かれたその絵画が語り出す30年間の物語とは…。書き下ろし連作短篇集。

 ああ、いい作品だ。この一言に尽きる。

 まったく無関係に見えて、全てが見事に繋がっている素晴らしい恋愛の物語。最後の最後に「仕掛け」にようやく気がつかされるが、とっても幸せな気分になれた。清々しい読後感。「赤と青とエスキース」のタイトルはまさに「うんうんその通り」としっくりくる。すべてが分かった上で、もう一度読みたい。

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※西加奈子(1977年、イラン・テヘラン市生まれ。エジプト・カイロ、大阪育ち。2004年に「あおい」でデビュー。「通天閣」で織田作之助賞受賞。「ふくわらい」で河合隼雄物語賞受賞。15年「サラバ!」で直木賞受賞。ほかに「さくら」「きいろいゾウ」「円卓」「舞台」「漁港の肉子ちゃん」「ふる」「i」「おまじない」「夜が明ける」など)



●「死ぬまで生きる」 そんな思いが

 カナダで、がんになった。2021年コロナ禍の最中、滞在先のカナダで浸潤性乳管がんを宣告された著者が、乳がん発覚から寛解までの約8ケ月間を克明に描く。祈りと決意に満ちた初のノンフィクション。

 バンクーバーって大阪弁やったんか! ということにまず驚いた。いや、そんなことはないのだが、大阪弁の人は英語も大阪弁に訳すんかい!というのは、よく考えれば当たり前かもね。そのツッコミどころ満載の大阪弁が、がん闘病という重いストーリーの深刻さを笑いに替え、安心感さえ与えてくれる。大阪弁って便利やね。

 途中で山本文緒さんが亡くなられたことがでてきたことにも驚いた。山本さんは2021年10月13日に永眠。そうか、同じ時期だったのか。山本さんはがんで余命宣告をされ抗がん剤治療を続けたが、副作用のあまりのひどさに緩和ケアを決断した。その様子を遺作となった「無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記」に書き綴った。まさに命をかけた作品だった。

 「人はいつか死ぬ」。健康だとつい忘れてしまう。がん宣告はそのことを唐突に、しかし揺るぎない現実として突きつけてくる。「まさか私が」「なんで私が」。生活が一変し、始まる闘病。それもコロナ禍の上、言葉が通じず、文化も違う海外。書かれていない、もっともっと酷く辛いことがあったに違いない。そして寛解で終わりではなく、治療は続き、人生も続いていく。「本当にこれで終わりなのか」。日常を取り戻したけど「幸せすぎて怖い」。すさまじい。

 「死にたくない。少なくとも『もう死んでいいか』と納得できる日なんて、私には来ない気がする。きっと死ぬ瞬間、最後の最後まで、それはもう、本当にみっともなく、恐がり続けるだろう」。

 「がんになって良かったことは『それの何が悪いねん』、そう思えるようになったことだ。みっともなく震えている自分に『分かるで、めっちゃ怖いよな』、そう言って手を繋ぎ、肩を叩きたくなる」。

 がんになることで見えなかったものが見えてくる。「死ぬまで生きる」。闘病記を読むといつもこう思い知らされる。幸いにしてがんは宣告された翌日に死ぬことはなく、猶予期間が少なからずある。そこで何をするか。どう生きるか。自分の身体のボスは自分。自分で決められる状態なら自分で決めていきたい。先のことは神のみぞ知る。今日と同じ明日が来るとは限らないのだ。

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※川上未映子(大阪府生まれ。2008年「乳と卵」で芥川賞、09年詩集「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」で中原中也賞、10年「ヘヴン」で芸術選奨文部科学大臣新人賞および紫式部文学賞、13年「愛の夢とか」で谷崎潤一郎賞を受賞。19年「夏物語」で毎日出版文化賞。同作は40カ国以上で刊行が進み、「ベヴン」の英訳は22年ブッカー国際賞の最終候補に選出された。23年「すべて真夜中の恋人たち」の英訳が全米批評家協会の最終候補にノミネート)




●ラストシーンではモヤモヤ感

 惣菜店に勤める花は、ニュース記事で黄美子が若い女性の監禁・傷害の罪に問われているのを見つけた。20年前花は、黄美子と少女たち2人と疑似家族のように暮らしていて…。『読売新聞』連載を書籍化。2024年本屋大賞6位。謳い文句は「善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作」。

 600ページ近い大作。比喩がちょっと分かりづらく、くどい部分もあったが、独特の語り口調とあまりの物語の凄さに引き込まれた。ただねぇ、ラストシーンではモヤモヤ感も残ったかなぁ。黄美子さんの事件がすっきりこない。

 「私がいないと生きられない」(と花が思っている)黄美子さんや、同じように親ガチャで住むところや居場所のない蘭や桃子を支え、彼女ら疑似家族と生きていくため、懸命にもがき苦しみながらカード詐欺で金を稼いでいく主人公の花には共感を覚えた。というより、あまり悪には感じなかった。善のための悪だったからかな。奪ったのは富裕層からだし、貯めたお金も結局、吐き出す羽目になるしね。

 冒頭に出てきて花を救った黄美子さんが、あれこんな人だっけ? と頼りなくなっていくのは何となく違和感を感じたが、「おまえの人生どうなんだって訊かれたら」と苦悩する花に対し、「誰がそんなこと訊くの? 誰も訊かなくない? じゃあいいじゃんか」と答えるのは、目から鱗。肩の荷が下りるね。とらえどころのないような、いい味出してる。

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※原田ひ香(1970年神奈川県生まれ。05年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。ほかに「三人屋」「ランチ酒」シリーズ、「東京ロンダリング」「母親ウエスタン」「一橋桐子(76)の犯罪日記」「三千円の使い方」「DRY」「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」「古本食堂」など)



●もしかして続編ある?(^o^)

 亡くなった作家の蔵書が集められた「夜の図書館」をSNSで知った乙葉。実在の本に登場する料理がまかないとして出てくる夜の図書館で、本好きの同僚に囲まれながら働きはじめるが…。『WEB asta*』連載を加筆修正。

 「古本食堂」が良かったので期待したのだが、あれ?っという印象。前作の料理はどれも自然な流れで出てきていて、思わず食べてみたくなったのだが、今回はなんとなくとってつけたような感じがする。夜の図書館という設定は面白く覆面作家の章などはそれなりに読ませてくれるのだが、謎解きはもう少しひねりを効かせてほしかったし、終盤は淡々とした説明調になってしまっている。終わりも中途半端だし、ちょっと残念…あれ? もしかして続編ある? そのための伏線?

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※一穂ミチ(2007年「雪よ林檎の香のごとく」でデビュー。劇場版アニメ化もされ話題となった「イエスかノーか半分か」などボーイズラブ小説を中心に作品を発表して読者の絶大な支持を集める。初の単行本一般文芸作品「スモールワールズ」が本屋大賞第3位、吉川英治文学新人賞を受賞したほか、直木賞、山田風太郎賞の候補に。本作も本屋大賞第3位、直木賞候補作)



●一穂ミチさん、やっぱごっつ巧いやん

 旬も過ぎ、社内不倫の“前科”で腫れ物扱いの40代独身女性アナウンサー。娘とは冷戦状態、同期の早期退職に悩む50代の報道デスク…。一見華やかなテレビ局。そこで働く、真面目で不器用な人たちの物語。

 うん? 何やねんこれ? と4つある物語のどれもが絶妙のイントロで、あっという間に引き込まれる。表現力も豊かで巧み。そうくるかとちょっと笑わせてもくれる。たまに訳分からんこともあるけど、一穂ミチさん、やっぱごっつ巧いやんと改めて思う作品。大阪弁、ええねぇ。はまっとる。

 登場人物をだぶらせながら、どれも全く違うお話。誰もが人の知らないところで苦悩し、もがく。いや諦める。ままならぬ人生。そこから前へ進めるのか。抜け出せるのか。砂嵐の中で希望という星屑を探していく。

 どれもほっとするエンディングに心がなごんだ。最後の章は泣けたね。で、キャラとしては笠原雪乃さん、最高(^o^)

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※筒井康隆(1934年大阪府生まれ。兵庫県神戸市垂水区在住。ホリプロ所属の俳優でもあるらしい。ナンセンス、ブラックユーモアから始まり、実験的な作品も発表。92年「朝のガスパール」で日本SF大賞。「東海道戦争」「48億の妄想」「時をかける少女」「ベトナム観光公社」「アフリカの爆弾」「にぎやかな未来」「家族八景」「虚人たち」(第9回泉鏡花文学賞)「文学部唯野教授」「夢の木坂分岐点」(第23回谷崎潤一郎賞)「ヨッパ谷への降下」(第16回川端康成文学賞)ほか多数。93年に断筆宣言し、96年に執筆再開)



●オレの大好きな火田七瀬はどうした

「時をかける少女」「パプリカ」などの主人公たちが病床の作者を訪れる「プレイバック」ほか、痙攣的笑い、甘美な郷愁、胸熱きわまる感涙等を齎す芳醇無比な掌篇小説25篇。

 ショートショートと掌篇(しょうへん)小説の違いって何だろう。星新一と筒井康隆の違いか。スマートなアイデアと訳の分からぬドタバタの違いか。最後の1行への期待は同じような物だと思うが。それにしてもNHKBSで放送された藤子・F・不二雄SF短編ドラマ「少し不思議な物語」は面白くて仕方なかったが、「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」は今いちだなぁ。録画してまだ途中までしか見てないけど。ところで芳山和子って誰だっけ。えっ? 時をかける少女? ジュビナイルは読まないからなぁ。NHKで見たのなら知ってるぞ。ラベンダーの香りとケン・ソゴル。島田淳子、可愛かったなぁ。映画の原田知世じゃないぞ。え、浅野真弓なの? 名前替えたのか。そりゃ吃驚仰天。富豪刑事なんて読んだ気がするが、すっかり忘れたぞ。唯野教授ははっきり言うが読んでない。あ、パブリカはこの前やっと読んだよ。おい、オレの大好きな火田七瀬はどうした。何で出てこない。あれ、これもNHKでやってたのか。多岐川裕美だって。見たかったなぁ。再放送望む。さてと「日本以外全部沈没」読まなくちゃ。

 出版当時89歳の著者曰く「これがおそらくわが最後の作品集になるだろう」。またまた、ご冗談を(爆)。

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※早見和真(1977年神奈川県生まれ。桐蔭学園高野球部出身。2学年上に高橋由伸がいた。2008年、その野球部時代の体験をもとに執筆した「ひゃくはち」でデビュー。同作は映画化、コミック化されベストセラーとなる。14年「僕たちの家族」が映画化、15年「イノセント・デイズ」が第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞、テレビドラマ化され大ベストセラーに。19年「店長がバカすぎて」が20年本屋大賞ノミネートされロングセラー。20年「ザ・ロイヤルファミリー」が第33回山本周五郎賞およびJRA賞馬事文化賞受賞。ほかに「小説王」「かなしきデブ猫ちゃん」(絵・かのうりん)など)



●添えられた新聞記事が効いている

 ヒーローだけが主人公じゃない。補欠も就活生もお母さんも、誰だって主人公なんだ!  恋愛、友情、嫉妬…。東京六大学野球を題材にしたリアル青春ストーリー。『本の時間』掲載を単行本化。

 タイトルの「6 シックス」は日本最古の大学リーグの東京六大学野球からきている。第1週「赤門のおちこぼれ」は東大、第2週「 苦き日の誇り」は法大、第3週「もう俺、前へ!」は明大、第4週「セントポールズ・シンデレラ」は立大、第5週「陸の王者、私の王者」は慶大、第6週「都の西北で見上げた空は」は早大が舞台。順番が実際の対戦順とほぼ一緒で、六大学出身者としてはすんなりと作品の世界に入っていける。

 ちなみに開幕戦は前シーズンの優勝校と最下位校が対戦するそうだ。そういえば、リーグ初戦は東大戦、立大戦が多かった。

 東大がベンチ入りできない補欠、法大がケガをしてマネージャーとなった甲子園のスター選手が主役だったので哀れな野球選手ものが続くかと思ったが、明大から流れがガラリと変わる。でも期待を裏切らない面白さ。大学時代がいろいろと思い出され、第6週では涙を誘われた。もちろんしっかりと笑える場面が随所にある上に、各週に添えられた新聞記事がぴりりと効いている。ニヤリとしたり「なるほどねぇ」と驚かされることも。第6週にないのは残念。そこをぜひ読みたかった。まあ、決めつけず、読者に想像させるのが狙いなんだろうけどね。

 読み進むうち、早見さんはきっと早大出身なんだろうねと勝手に想像していたが、ウィキペディアによると国学院大だそうだ。

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※恩田陸(1964年宮城県生まれ。91年、第3回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となり、「六番目の小夜子」でデビュー。05年「夜のピクニック」で第26回吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞受賞。07年「中庭の出来事」で第20回山本周五郎賞受賞。17年「蜜蜂と遠雷」で第156回直木賞、第14回本屋大賞受賞。主な著作に「ネバーランド」「黒と茶の幻想」「上と外」「ドミノ」「ドミノ in 上海」「チョコレートコスモス」「私の家では何も起こらない」「失われた地図」など)



●第1作もただただ笑って読みましたよ

 1億円の契約書を待つ生保会社のオフィス。下剤を盛られた子役の麻里花。推理力を競う大学生。別れを画策する青年実業家。間違えられた「どらや」の紙袋を巡って昼下がりの東京駅で繰り広げられる、ノンストップハチャメチャドタバタ喜劇。見知らぬ者同士がなぜか絡み合い、運命のドミノが倒れてゆく!

 続編「ドミノ in 上海」を先に読んでしまい「最悪のことが最悪のタイミングで起こる」展開はそれなりに予想できたのだが、それでも理屈抜きで面白い。続編も抱腹絶倒だったが、20年前に書かれた第1作も色あせない「大傑作」。27人と1匹と多すぎる登場人物もそれぞれの個性が強烈過ぎ、「誰だっけ?」なんてことにはならない。すべて頭にすんなり入ってくる。描写も分かりやすくスピーディー。まるで映画のようにそのシーンが想像できてワクワクする。いや、映画化しなかったの? 恩田さん、やっぱり巧い! 第1作もただただ笑い、夢中になって読みましたよ♪

 冒頭にあった「人生における偶然は、必然であるーーー」。まったくその通り。

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※辻村深月(1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年に「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年「ツナグ」で第32回吉川英治文学新人賞、2012年「鍵のない夢を見る」で第147回直木賞、2018年「かがみの孤城」で第15回本屋大賞受賞)



●意表を突かれた展開に「やられた」

 39歳で独身だった西澤架(かける)は婚活で知り合った33歳の真美(まみ)と2年つき合い、ある事を契機に同棲。ようやく結婚を決断して式場も予約した、その矢先に彼女がこつ然と姿を消した。婚約者の居場所を探すことは彼女の過去と向き合うことでもあった。『週刊朝日』連載を単行本化。

 自分の結婚は32歳の時。20代だった昭和のうちにはできず、平成に少し入った年で、同級生の中では遅いほうだった。もちろん婚活なんて言葉は当時はなかったが、結婚、家族、進学、就職などそれぞれのエピソードは共感することばかりで、心に染み入ってくる。身につまされる思いで読み進んでいると、「えぇっ?!」と意表を突かれた展開となり、後半は一気読み。面白く、巧みに構成された物語で「あちゃー、やられた」という感じ。「あ、こういう人いるいる」という人物描写も絶妙で、自然と物語の世界に入っていけた。

 傲慢と善良は紙一重なのかな。ちょっと強引な部分もあるけどね。

 それにしても主人公の名前の「真美」はこんがらがるのでやめて欲しかった。どうしても「しんじつ」と読んでしまうからねぇ。

 第7回ブクログ大賞を受賞。発行部数は100万部を突破し2023年に最も売れた小説となった。藤ヶ谷太輔と奈緒のW主演で映画化され、2024年9月27日から公開されている。

 「知りたくなかった過去」は誰にでもあるよね。妻にもあったのかな。もう知るよしもないけど。

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※原田ひ香(1970年神奈川県生まれ。05年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。ほかに「三人屋」「ランチ酒」シリーズ、「東京ロンダリング」「母親ウエスタン」「一橋桐子(76)の犯罪日記」「三千円の使い方」「DRY」「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」など)



●勘違いした読者を引き込んだか

 いまは亡き天才建築家が設計した、通称「おっぱいマンション」に重大な問題が発覚。建て替えるべきか残すべきか、勃発した改修騒ぎは、住民たちの人生を、秘密を、理想を呑み込んで…。『小説新潮』掲載を大幅に加筆・修正。

 「おっぱいマンション」というタイトルに惹かれ(^_^;、思わず手に取った。もちろん、安易に連想するようなコトが起きたりはしないが、いろんな事が凝縮していてそれなり面白くほぼ一気読み。

 1960年代から70年代の高度経済成長時代に流行ったメタボリズム。メタボというと生活習慣病しか思いつかなかったが、さいころを積み重ねたようなデザインの建築をそう呼ぶそうだ。まるで細胞のようにメタボ(新陳代謝)を繰り返して有機的に成長するという意味。そういえば、昔、そんなマンションや建造物を見かけることがあったなぁ。「変だなぁ」としか思わなかったけど。

 代表的なものは黒川紀章さん設計の中銀カプセルタワー。銀座の繁華街に立つコンテナユニット型マンションで72年に竣工したが、2022年に解体された。この作品はこれをモデルにしているようだが、タイトルを「メタボマンション」としなかったことで、勘違いした読者を引き込むことに成功した…かな。

 老朽化したマンションの建て替え問題はこれから増えてくるんだろうね。人ごとじゃないし。タワマンとか将来はどうなるんだろう。

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※凪良ゆう(1973年滋賀県生まれ。京都市在住。2007年にBLジャンルの初著書を刊行しデビュー。ボーイズラブ(BL)作家として活躍し『美しい彼』シリーズ(2014年〜)は2021年にドラマ化され2023年4月には映画化。2017年には初の文芸小説『神さまのビオトープ』を刊行。2019年の『流浪の月』で本屋大賞を受賞し、2022年に実写映画化。2020年の『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。直木賞候補、吉川英治文学新人賞候補にもなった『汝、星のごとく』で恩田陸以来2人目の2度目の本屋大賞受賞)



●最後は素直になっていくんだね

 1ヶ月後に小惑星が衝突し、地球は滅びる。SF映画のような設定だが、映画ではないのでそれを救ってくれるヒーローは現れず、アメリカも小惑星を爆破してくれず、死がすべての人に同じ瞬間に平等に訪れることになる。誰も逃れることはできない。学校でいじめを受ける友樹、人を殺したヤクザの信士、恋人から逃げ出した静香。そして…。「人生をうまく生きられなかった」4人が最期の時までをどう過ごすのか。

 現実的には小惑星が追突とすればもっと前から分かるだろう。しかし、それが1ヶ月前となると、残された時間でやることは限られてくる。自分だったどうするか。恐竜が絶滅したように、いやもっと壊滅的で人類の歴史も生きてきた痕跡も何もかも宇宙の塵と消えてしまうのだ。逃げ出すところもない。もう何をしても仕方ないと諦め、最後の瞬間まで普通に過ごすか。あるいは家族と過ごすか。そう思う中で、作品に出てくる4人の気合のある過ごし方に引き込まれた。「地球を爆発して人類を滅亡させて下さい」と祈り死にたいと思っていたのに、その通りになったら「もう少し生きてみたい」なんて…。最後は素直になっていくんだね。

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※スペンサー・ジョンソン 医学博士、心理学者。心臓のペースメーカー開発にも携わる。大学や研究機関の顧問を務め、シンクタンクに参加。著書に「1分間意思決定」など



●年相応に新しいチーズを探そう

 2匹のネズミと2人の小人が迷路の中でやっと見つけたチーズ。毎日ごちそうに舌鼓を打ち、生活は安泰だと思っていたが、ある朝、行ってみるとチーズがなくなっていた。まさに青天の霹靂。2匹のネズミと2人の小人がとった行動とは…。

 「チーズ」とは我々が人生で求めるもの、つまり仕事、家族、財産、健康、精神的な安定などの象徴。「迷路」とはチーズを求める場所、つまり会社、地域社会、家庭などの象徴で、時代や状況の急激な変化にいかに対応すべきかということが説かれている。世界のトップ企業が研修テキストに採用している寓話。

 今日と同じ明日が来るという保証は何もない。いや、もっとポジティブに今日と違う明日にしよう。定年退職した身だが、そう思って行動している。いや、しようと思っている。変化に備えたいし(主に体の衰えかな)、新しいことにも挑戦し、違う景色を見てみたい。でもこれがなかなか難しい。やはり変化のないほうが安心だもんねぇ。昔話も好きだし(^_^; ま、年相応の新しいチーズを見つけていくとしましょうかね。もっと若い時に読めば良かったなぁ。

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※稲垣えみ子(1965年、愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒。朝日新聞社で大阪本社社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員を務め、2016年に50歳で退社。以来、都内で夫なし、子なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしのフリーランス生活を送る。「魂の退社」「もうレシピ本はいらない」(料理レシピ本大賞料理部門エッセイ賞受賞)「一人飲みで生きていく」「老後とピアノ」など)



●「老後を救う」よね。確かに

 「永遠の敵」「この世からなくなればいい」と思っていた「家事」。ところが「ラクしてお金の心配もせず生きていきたい」という夢みたいなことをかなえてくれたは、なんとその「家事」だった。朝日新聞社を思うところがあり50歳で退社。人生初の「給料をもらえない生活」になり、高級マンションから収納ゼロの老朽ワンルームへ。掃除機、炊飯器、電子レンジ、ついでに冷蔵庫も捨て、お風呂は銭湯。するとあのメンドクサイ家事が消えた!?

 実体験をもとに、家事をすることで最低限のお金でラクに豊かに暮らす方法を紹介する。cakes連載に大幅に加筆修正し再構成。

 「老後を救う」よね。確かに。最後は一人だし、少しでも長く、自分のことは自分でやっていきたい。となれば、こういうミニマル生活になるのか。自分の今の年代だとここまでは無理だけど、徐々に近づけていきたいとは思うかな。でも冷蔵庫も電子レンジも、洗濯機も捨てられないなぁ。

 「江戸の貧乏長屋はミラクル物件」、「修道女は100歳を超えても頭が冴え渡っている」のくだりはなるほどと思ったねぇ。

 妻が亡くなって12年。冷蔵庫へビールを取りに行く時しかキッチンに入ったことがなかった自分が、今や毎日自炊するまでに成長した。後は断捨離かな。残す基準は「それがないと死ぬかどうか」だそうだが、思い出がね、捨てられないのよ。特に妻の分が。

 ところで、熱帯夜や極寒の冬はどうしてるんだろう?。江戸時代と気温は変わっていると思うのだが。あぁ、そういえば学生時代に過ごした下宿は洗面とトイレが共同、お風呂は銭湯。押し入れはあったけど万年床。もちろん冷房なんてなく、冬はコタツだけでしのいだんだっけ。

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※益田ミリ(1969年大阪府生まれ。イラストレーター、エッセイ、マンガを手掛けるほかに、ふとした日常のつぶやきを五七五にした「つぶやき川柳」でも知られる。夫なし男なし三十路半ばの「すーちゃん」の日常を淡々と描いた異色四コマ漫画「すーちゃん」「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」はじわじわ人気を呼び、ベストセラーとなっている。朝日新聞朝刊土曜日付にエッセイ「オトナになった女子たちへ」を漫画家の伊藤理佐さんと隔週で連載中)



●心にしみる言葉と共感できる思い

 がん末期という告知を受けた益田ミリさんのお父さんの亡くなる前、亡くなった時、そして亡くなった後の思いを綴った書き下ろしエッセイ。

 「何かを処分したところで思い出は失われないのだと思った」。「悲しみには強弱があった」。そんな心に染みるたくさんの言葉、そして両親と妻を亡くしている僕にとって共感できる思いの数々。父親の死をみつめた、一生に一度、最初で最後のシーンを、いつもの語り口で綴る。それが時に心を揺さぶる。「新境地」と言われるのもうなずける作品だ。

 サイクリングをしている時、ふと腕を見ると虫がくっついていて、そのまま離れないことがよくある。もしかして妻が虫に生まれ変わって心配して来てくれてるんだろうか。寄り添ってくれているのだろうか? もっと一緒に走りたかったよね。そんな思いがよぎり、追い払うこともなく走り続ける。「大切な人がこの世界から失われてしまったとしても、『いた』ことを私は知っている。知っているからいいのだ」。心の中で妻は永遠に生き続ける。まあ、虫が寄ってくるのは山の中が多いんだけどね(^_^; どう思おうと勝手だからね。

 「父が最後に買ってくれたのはセブンイレブンのおでんだった」。そう、帯に大々的に書かれているのだが、これが最後と思って買うわけではないからね。それが人生。ちなみに僕が妻と最後に一緒に食べたのは駅前のスーパーで買った「おこわ弁当」だった。

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※早見和真(1977年神奈川県生まれ。桐蔭学園高野球部出身。2学年上に高橋由伸がいた。2008年、その野球部時代の体験をもとに執筆した「ひゃくはち」でデビュー。同作は映画化、コミック化されベストセラーとなる。14年「僕たちの家族」が映画化、15年「イノセント・デイズ」が第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞、テレビドラマ化され大ベストセラーに。19年「店長がバカすぎて」が20年本屋大賞ノミネートされロングセラー。20年「ザ・ロイヤルファミリー」が第33回山本周五郎賞およびJRA賞馬事文化賞受賞。ほかに「小説王」「かなしきデブ猫ちゃん」(絵・かのうりん)など)



●一番おバカなのはやっぱり谷原京子さん?

 山本猛(やまもと・たける)元店長が、3年ぶりに吉祥寺本店に店長として復帰した。張り切る店長だが、相変わらず、人を苛立たせる天才だ。しかし谷原京子(たにはら・きょうこ)は、心の中で「お帰りなさい」とつぶやき…。『ランティエ』連載を加筆し書籍化。

 「店長がバカすぎて」の続編。帰って来た山本店長、小柳さん、磯田さん、石野恵奈子(大西賢也)さん、京子の親父さんらのおなじみメンバーに新キャラも加わった。ただ前作ほどの衝撃はなく、店長に前作ほどのキレ(馬鹿さ加減)もない気がした。笑わせるシーンも出てくるが、やはり前作の「つぐない」ほど腹を抱えるほどではないかな。作品中に「多くの小説の続編が蛇足と断じられ、成功した一作目に傷を負わせてしまう」という表現が出てくるが、自虐かと思ったほど。

 そのせいもあって中盤は少しだるい気がしたが、第五章で「あれ? どうなってんねん?」と驚かせた後は最終章まで息をつかせぬ展開が続く。で、結局、やっぱり面白かった(^o^) もしかしたら「谷原効果」だったかもね。「おもしろい」とハードルを上げすぎてしまうと「それほどでもない」ってことになり、「つまらない」とハードルを下げておくと「意外とおもしろかった」となる。図書館で予約してからだいぶ待ったので期待も大きかったからなぁ。

 それにしても一番おバカなのはやっぱり谷原京子さん? 「店バカ 3」が楽しみだ。

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