※柴田哲孝(1957年東京都武蔵野市生まれ。日本大学芸術学部写真学科中退。フリーのカメラマンから作家に転身し、フィクションとノンフィクションの両分野で活動。2006年「下山事件」で日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、日本冒険小説協会大賞(実録賞)、07年「TENGU」で大藪春彦賞を受賞。「下山事件 暗殺者たちの夏」「GEQ 大地震」「リベンジ」「殺し屋商会」など。1986年から1990年のパリ・ダカールラリーにドライバーとして参戦したほか、南米のアマゾン川に世界最大の淡水魚ピラルクーを釣りに行った冒険旅行記なども出版している。モータージャーナリストとしても活動
●なるほどと思わせる〝陰謀論〟
2022年7月に起きた安倍晋三元首相銃撃事件をモチーフにしたサスペンス。至近距離にいてすぐに逮捕された男の単独犯ではなく、〝組織〟が周到に準備し、その命を受けた影のスナイパーが放った特殊な銃弾が元首相の息の根を止めた。男はジョン・F・ケネディ大統領を暗殺したオズワルドの役割を果たしていただけだった。
実在の人名が次々と出てくるのでどこがノンフィクション(真実)で、どこがフィクション(妄想)なのか分からなくなる。逆にすべてが真実にも思えてくる。後方の警備が甘すぎたこと、救命医と司法解剖の結果に大きな齟齬(そご)があったこと、特に後者の謎解きは興味深い。なるほどと思わせる〝陰謀論〟だった。
面白く読み進めたが、後半の雑誌記者が真相に迫っていくシーンはちょっとすごみが足りない気がした。スクープを狙う契約記者では迫力が足りない。何というか、追及にもっと義憤とか正義感といったインパクトが欲しかったかな。同僚の女性記者の身体を張った取材は逆に意外な感じがした。
「安倍元首相撃たれ死亡」。翌日の全国紙朝刊のメイン見出しが一言一句同じだったことが話題となった。各社申し合わせがあったり、どこからか指示があったのか。暗殺、テロ、銃殺をなぜ見出しに取らないのかなどという声があった。新聞整理の経験からいうと見出しに申し合わせや外部から云々ということはない。これだけ衝撃的なニュースをどう分かりやすく伝えるか。独自性を出す必要もこねくり回す必要もない。暗殺、テロに関しては事件直後でその背景も動機も不明だったため選ぶことはできない。「撃たれ死亡」はまさに直球ど真ん中で、これしかない見出しだったと思う。
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