ゲーム最終シナリオ当日。
開始直後に「3400GPください」とお小遣いをもらい、一人で船に乗り次元界メカヌスに向かいました。このキャンペーン中にホロブンが我儘を言ったのは、初めてかもしれません。そんな端金は既に分配した財産から出せるよ、とのことでしたが重要なのは「これからアイテム購入する」と周囲に宣言したことです。ピンチ時に後出し設定にならないための布石です。これが当日仕込みの小技。
劇中時間で二週間程ホロブンは留守となり、物語進行に関われませんが、無言地蔵キャラクターが何を今更。
機械次元界メカヌスで船を解体し、強化パーツに組み替えます。その間に再訓練で<騎乗>技能を取り、先の3400GPで「ステッドファスト・サドル」を買いました。これは所謂魔法のシートベルト座席。衝撃受けても振り落とされにくい機能があります。これをコクピットに据えて乗騎完成。
イェーガー「武鉄塊・滅」出撃します。
せっかく派手にお色直ししたので、物語佳境で勿体つけて登場しようとタイミング伺っていたのですが、勢力間調整するでもなく、タラスク襲撃に備えるでもなく、はよ来いや的な雰囲気で前座の戦闘が始まってしまったので、普段通りに戦線に加わりました。4倍も大きくなった巨大サイズボディに対して、他メンバーのコメントも特に無く、むしろ触れるなスルーしろな雰囲気すらありました。それは漠然とした雰囲気ではなく、実際対処に困っていたようで、ホロブンへの完全スルーはシナリオ終了まで徹底されます。写真のアングルにも入らないように撮ってたしな。
しかし、これはある意味で目的達成です。信じて送り出したドワーフが、ファンタジー世界から脱線して巨大ロボットになるなんて……、とドン引きされる程の路線変更を見せつけないと、これから出す高火力の裏付けには足りません。欲しいのは「イイネ!」の称賛ではなく「そこまでやるか……」という呆れと諦観です。これから馬鹿みたいなダイス数を振るのです。何だそれは?と疑問を挟ませず押し切る見た目のインパクトが必要でした。
というか、みなさん素の強さでタラスクに勝つつもりですか。ルールブックの数値見たら、限界突破せずに対抗できるような相手じゃないですよ。
前座戦とはいえ、敵の数も質も揃ってるので楽勝とはいきません。パワー温存して倒すには苦しい戦力でした。この戦闘にも独自ルールが入っていて、各プレイヤーの手順毎にNPCカードを山から引きます。カードにはそれぞれ、今まで登場したNPCと由来した特殊能力が書いてあり、使い捨てのパワーカードとして使えます。そう、使い捨て。常人が世界最終決戦に一仕事こなす代償は大きくて、固有パワー使用と引き換えにそのNPCは死にます。例外が数人いるけど、便利なカードはほぼ死にます。
このカードを最終戦に向けて集めながら戦いました。カード欲しさに戦闘引き伸ばすと何らかのデメリットがあった筈ですが、それなりの頃合いで勝ったので詳細を覚えていません。それは新型ボディの操作に私が慣れておらず、余裕の無い動きだったせいです。いざ普段の倍以上にダイス振るとなると動揺します。手順書作っといて良かった。
破滅招来体先遣部隊を蹴散らした後、この世界にとうとうタラスク本体が出現しました。頭だけ。このタラスクは頭しか無い個体、ではなく、この世界にまだ頭部しか顕現していない状態だそうです。頭だけでもその大きさは桁外れで、フィギュアが実物のフルフェイスヘルメットくらいあります。首から下が出てきたら2メートル超えそうな、コロッサルレッドドラゴンでも構わず一口で喰っちまいそうなサイズ。そこまでやるのか。やるよ、そのためにホロブンだって外見も内面も捨てて来たんだ、やってやんよ。
泣いても笑ってもこれが最終戦闘です。落ち着いていつも通り戦えばきっと勝てるはず。なんて甘い見通しでした。
1ラウンドでパーティーが満身創痍。
理由は単純で、タラスクは範囲攻撃・高威力・複数回行動なので、一気に大ダメージが全員に降り掛かったためです。これはいつも通りに小技搦め手撃ってる暇無いぞ。状態異常だ間合い取りだと手間かけてると、まとめて押し潰される。
これまでの戦闘は全て、各メンバーが連携を取り、戦場操作で優位な状況を固めていき、順にトドメを刺していく流れでした。私は戦況が整ったところを最後に詰めるだけの仕事です。ぶっちゃけ全く頭を使わないので、簡単操作だけど重要度は低い役割でした。タイミング指示されるだけで、自分が戦術決める場面など今まで無かったのです。
「いつラッシュ撃てばいい?」
「私達がラッシュに合わせる。いつ撃てる?」
最後の最後に来ました。ホロブン自身が考えて決める戦闘。後詰めじゃないぞ。ミス出来ないぞ。確実に当てて倒すために何が必要か。
難しい話ではありません。瞬間火力特化型の私が高火力出せるのは1ラウンドだけです。このラウンドに間合いを詰めて、次ラウンドで全弾発射します。
だから2ラウンドの間、私が倒れないように援護ください。次ラウンドにフィーバータイムを合わせてください。
安全装置解除、フォローアップブロウ・スタート。
いくぞ。
2ラウンド開始。周囲が牽制と援護に廻る中、このラウンド内に接敵します。フォローアップブロウを構え、移動、足りない距離をトプリングラッシュ(攻撃前に移動する技)で詰めました。
この接敵距離が次ラウンドまで維持できれば良いが、おそらく……。
タラスクの攻撃が1段、2段、と重なって来ますが問題はこの後。一際でかい火炎ブレスと爆風が吹き飛ばし効果を仕掛けてきました。
リング・オブ・エンデュアリングアース(指輪)起動。強制移動効果無視。
その場に張り付き、間合いを維持出来ました。
3ラウンド。おそらく皆がさらに援護・牽制をしていた筈。私に周囲を観察している余裕はありませんでした。手番が来るまであと僅か。しかしタラスクの攻撃がキツい。火炎放射が2発、3発。立て続けの高熱と爆風を受けてHPが半分を切りました。暴れるゴジラの至近距離に張り付いてたら、まあそうなるな。
底力使用、続けてさらに使用。
エネルギータンク、パージ。背中のタンクを両方切り離しました。
この時点で使いたくはない保険でした。ラッシュ反動で自分に入る自壊180ダメージから立て直すための回復機能だったのです。もう次ラウンドのタラスク攻撃を耐えきれません。
そこに火炎放射がさらに追い打ち。今度のは大きい。大爆発と吹き飛ばし効果。
ステッドファスト・サドル(座席)起動。強制移動効果無視。
この時のために3400GPでシートベルト付けといたんだ。タラスクの間合い突き飛ばしは、おそらく1回じゃ済まないと備えておいたのです。間合い維持。
そして私の手番が来ました。
先程受けた火炎放射ダメージが響いてます。どう計算しても次ラウンドの体力が足りない。このラッシュで自分も力尽きる。それがどうした、だからなんだ。フルパワーラッシュ撃つためにここまで来たのです。ルール上考えられる限り、最強の武器と最強の技と最強の体格を得て、最強の敵と正面から戦うために来たのです。最高の晴れ着メカだって用意しました。全てはこの瞬間のために積み上げてきたのだ、躊躇などするものか。
ライド・ザ・ジャイアントダウン。
巨人殺しクラスの固有技、自分より大きな相手に駆け上り、マウントを取る移動スキルです。ルール上で最大ユニットになる「巨大サイズ」のフィギュアに変えたから、通常なら「自分より大型」条件に引っかかるけれど、これだけ大きいタラスク相手だと杞憂で済みました。命中修正+2の有利。これが効いてなくても先にクローク・オブ・ドゥームという技で命中+2は稼げてるので、保険と演出です。
アクションポイント。アーマースプリンター。
巨人殺しアクションと合わせて初弾命中修正は+6。この初撃が当たるかどうかで次のラッシュ起動条件が変わります。ここだけは絶対外せない最重要起点。
なのでNPCカードを使用します。隣のラックルの手札内に、命中をクリティカルにするカードがありました。それ使います。
しかし、ラックルが渋りました。
は?私は一瞬彼が何を言ってるのかわかりませんでした。
曰く、このNPCは大きな領土を治める統治者で、この戦いが終わった後の世界復興に重要な人物だそうです。それがどうした、だからなんだ。ここでタラスク大暴れしてる最中から戦後の段取りか。もう勝った気でいやがる、ならば今から教育か、今からすんのか。
あんたら元々は出会った相手を一人残らず皆殺し行脚続けた虐殺軍団だっただろが。出て来るNPC片っ端から襲って殺したから、キャンペーン前半の人脈まったく広がらなかっただろが。昔の血生臭い行状を忘れたようなキレイ事を……そういやあの頃まだラックルいなかったわ。
それはともかく、今更NPCの1枚程度をなぜ惜しむのかわかりませんが、私以外は皆カード使用には気が乗らない様子。おかしい。いや、おかしくない。私のほうがおかしいのだ。皆は今まで必死こいて危機を打ち払いながら守った世界に愛着がある。そこに住んでるNPC達にだって愛着も湧いて、できれば全員無事に帰してあげたい。
私にはそんなの興味無いことでした。何もかも全て火力リソースにぶっ込んでいて、もはや自分の生死すらどうでも良いのです。自分の命が軽く、他人の命などなおさら軽い。しかし、ここで私は皆を説得する根拠が出せませんでした。「俺のために死ね」がなぜおかしいのか理解出来ませんでした。皆死ぬんだよ。同じだよ。
私は死ぬと凄いラッシュが撃てる。こいつが死ぬと必ずクリティカルが出る。だからカードを切ります。そして勝てます。2人コストは必要過程じゃないのか。
ここで急いで確定クリティカルを狙わなくとも、命中判定を足せる方法は他にもあります。まずはダイスを振って、その目を確認してから決めようと意見がまとまりました。では振ります。
クリティカル。
自前で出せました。NPCを犠牲にしなくて良かったな。ここでクリティカルが出たことにより、次から命中修正がさらに+4増えます。そういう技なのです。全部込みで+10。ホロブンは攻撃命中ダイスが1でもファンブルせず、振り直しです。そういうクラスなのです。この時点で攻撃命中修正値がタラスクの防御値を上回り、どうサイコロ振っても命中します。そしてクリティカルが出たので、このラウンド内に行動が1回増えます。そういうアイテムを装備しているのです。
つまり、ここからタラスクはおおよそ4D10+25程のダメージで20回殴られることが確定しました。
アーマースプリンターが2発。
ブレードカスケードが5発。
サークリングカスケイドが3発。
旧式フォローアップブロウでそれぞれ追加の10発。全部で20発。
随分長くお待たせしちまったけど、ここがクライマックスだよ。
旧式二刀流レンジャー・30レベルヴォーパルウェポン・巨大ドワーブンウォーアクス20連ラッシュ。最高状態に仕上げたので、是非あなたに受け止めて欲しい、タラスクさん。
まず20面ダイスを振ります。アーマースプリンター分の残り3発。技1段階づつダメージ算出します。被ダメージ量でタラスクが段階アクションを取るので、順を追って処理するそうです。
当時のメモを見ても、数字の山で具体的ダメージ量がいくつだったか正確には覚えていません。しかし、さらに2発クリティカルが加わり、総計100個以上の10面ダイスを振ったダメージが、600、700という、通常出てこない数値を連発していたのは事実です。
4桁のダメージを受けたタラスクが数度反撃に出て、至近距離から熱線放射を浴びましたが、ラッシュは止まりませんでした。ブレードカスケードを撃ち込まれ、14発被弾した時点でタラスクの体力が尽きました。2500ダメージくらい叩き込んでやったわ。
やった、倒した。
戦闘終了ですが、ラッシュ反動で自分も自壊ダメージを受けます。蓄積ダメージと合わせて体力はマイナス、気を失ったホロブンはタラスク上から転落しました。
アダマント・リカバリ。予備電源起動。体力が0以下になった場合に、HP10で自動的に起き上がる非常用保険機能です。なんとか歩いて帰るくらいは出来そうです。
しかし、ここでタラスクが逃走開始しました。こいつは「殺せない存在」なのでHP0になっても穴掘って逃げてしまうのです。まだ終わってなかったわ。既にHP0相手に物理攻撃は無効です。もう私の仕事は終わったから放置してても良いのだけど。だけど。
渾身の全力アタックで叩き潰した相手なのに、最後に逃げ切られたら癪だな。
アクションポイントがまだ残っていました。タラスクがラッシュ途中で倒れたせいで、不発に終わったサークリングカスケイド分のを使って標準アクションを行います。
タラスクに組み付き。力のルーン<大腕力>筋力判定に+20。
結果はそれでも失敗です。STR元値が違いすぎるので勝ち目はありません。そうじゃないんだ。これは時間稼ぎだ。こいつが潜るまであと数秒間に誰かが仕留めてくれればいい、もうタラスクの体力は無いんだ。今ならやれるんだ。
ガンダルーブが即動き、タラスク牽制に出ました。続いて死神リリィがトドメ。
上出来です。何者であろうと絶対死させる死のルーンのパワーが刺さり、タラスクは息絶えました。
勝利した皆は凱旋を祝い、それぞれの生活に戻ったようです。
私はそこに含まれていません。
タラスクに組み付きを振りほどかれた後、ホロブンはその場に膝を着き機能停止しました。誰もそれを顧みず、初めからそこにそうあった物のように無視して帰還していきました。
何度も高熱に炙られたコクピットハッチが剥がれ、中からのっぺらぼうの人型をしたものが転げ出し、そのままタラスクの開けた次元の虚無の穴に落ちていきました。重心バランスが崩れた機体も同じように転げ落ち、虚空に消えました。
その穴もやがて小さく閉じていき、もう跡には何も残っていません。
破滅の先触れは、それに相応しく惨たらしい最期を遂げました。これが記事冒頭で書いた、誰とも人間関係を築けず一人で迎えたバッドルートの顛末です。
他人どころか自分までがんがん切り捨て続けただけでなく、最後にやりたい放題やったので「関わらんどこ」と放置されたのでしょうが、物語の結びとしては大変気に入っている展開です。元々私は全てキレイに収まるハッピーエンドより、多少苦いトゥルーエンドを選ぶ性分です。これだけ暴れた後を残り平穏に生きるとか都合良すぎると考えるので、どこかで派手に死なせるつもりでした。先にまともな死に方させないとも書きました。
開始直後に「3400GPください」とお小遣いをもらい、一人で船に乗り次元界メカヌスに向かいました。このキャンペーン中にホロブンが我儘を言ったのは、初めてかもしれません。そんな端金は既に分配した財産から出せるよ、とのことでしたが重要なのは「これからアイテム購入する」と周囲に宣言したことです。ピンチ時に後出し設定にならないための布石です。これが当日仕込みの小技。
劇中時間で二週間程ホロブンは留守となり、物語進行に関われませんが、無言地蔵キャラクターが何を今更。
機械次元界メカヌスで船を解体し、強化パーツに組み替えます。その間に再訓練で<騎乗>技能を取り、先の3400GPで「ステッドファスト・サドル」を買いました。これは所謂魔法のシートベルト座席。衝撃受けても振り落とされにくい機能があります。これをコクピットに据えて乗騎完成。
イェーガー「武鉄塊・滅」出撃します。
せっかく派手にお色直ししたので、物語佳境で勿体つけて登場しようとタイミング伺っていたのですが、勢力間調整するでもなく、タラスク襲撃に備えるでもなく、はよ来いや的な雰囲気で前座の戦闘が始まってしまったので、普段通りに戦線に加わりました。4倍も大きくなった巨大サイズボディに対して、他メンバーのコメントも特に無く、むしろ触れるなスルーしろな雰囲気すらありました。それは漠然とした雰囲気ではなく、実際対処に困っていたようで、ホロブンへの完全スルーはシナリオ終了まで徹底されます。写真のアングルにも入らないように撮ってたしな。
しかし、これはある意味で目的達成です。信じて送り出したドワーフが、ファンタジー世界から脱線して巨大ロボットになるなんて……、とドン引きされる程の路線変更を見せつけないと、これから出す高火力の裏付けには足りません。欲しいのは「イイネ!」の称賛ではなく「そこまでやるか……」という呆れと諦観です。これから馬鹿みたいなダイス数を振るのです。何だそれは?と疑問を挟ませず押し切る見た目のインパクトが必要でした。
というか、みなさん素の強さでタラスクに勝つつもりですか。ルールブックの数値見たら、限界突破せずに対抗できるような相手じゃないですよ。
前座戦とはいえ、敵の数も質も揃ってるので楽勝とはいきません。パワー温存して倒すには苦しい戦力でした。この戦闘にも独自ルールが入っていて、各プレイヤーの手順毎にNPCカードを山から引きます。カードにはそれぞれ、今まで登場したNPCと由来した特殊能力が書いてあり、使い捨てのパワーカードとして使えます。そう、使い捨て。常人が世界最終決戦に一仕事こなす代償は大きくて、固有パワー使用と引き換えにそのNPCは死にます。例外が数人いるけど、便利なカードはほぼ死にます。
このカードを最終戦に向けて集めながら戦いました。カード欲しさに戦闘引き伸ばすと何らかのデメリットがあった筈ですが、それなりの頃合いで勝ったので詳細を覚えていません。それは新型ボディの操作に私が慣れておらず、余裕の無い動きだったせいです。いざ普段の倍以上にダイス振るとなると動揺します。手順書作っといて良かった。
破滅招来体先遣部隊を蹴散らした後、この世界にとうとうタラスク本体が出現しました。頭だけ。このタラスクは頭しか無い個体、ではなく、この世界にまだ頭部しか顕現していない状態だそうです。頭だけでもその大きさは桁外れで、フィギュアが実物のフルフェイスヘルメットくらいあります。首から下が出てきたら2メートル超えそうな、コロッサルレッドドラゴンでも構わず一口で喰っちまいそうなサイズ。そこまでやるのか。やるよ、そのためにホロブンだって外見も内面も捨てて来たんだ、やってやんよ。
泣いても笑ってもこれが最終戦闘です。落ち着いていつも通り戦えばきっと勝てるはず。なんて甘い見通しでした。
1ラウンドでパーティーが満身創痍。
理由は単純で、タラスクは範囲攻撃・高威力・複数回行動なので、一気に大ダメージが全員に降り掛かったためです。これはいつも通りに小技搦め手撃ってる暇無いぞ。状態異常だ間合い取りだと手間かけてると、まとめて押し潰される。
これまでの戦闘は全て、各メンバーが連携を取り、戦場操作で優位な状況を固めていき、順にトドメを刺していく流れでした。私は戦況が整ったところを最後に詰めるだけの仕事です。ぶっちゃけ全く頭を使わないので、簡単操作だけど重要度は低い役割でした。タイミング指示されるだけで、自分が戦術決める場面など今まで無かったのです。
「いつラッシュ撃てばいい?」
「私達がラッシュに合わせる。いつ撃てる?」
最後の最後に来ました。ホロブン自身が考えて決める戦闘。後詰めじゃないぞ。ミス出来ないぞ。確実に当てて倒すために何が必要か。
難しい話ではありません。瞬間火力特化型の私が高火力出せるのは1ラウンドだけです。このラウンドに間合いを詰めて、次ラウンドで全弾発射します。
だから2ラウンドの間、私が倒れないように援護ください。次ラウンドにフィーバータイムを合わせてください。
安全装置解除、フォローアップブロウ・スタート。
いくぞ。
2ラウンド開始。周囲が牽制と援護に廻る中、このラウンド内に接敵します。フォローアップブロウを構え、移動、足りない距離をトプリングラッシュ(攻撃前に移動する技)で詰めました。
この接敵距離が次ラウンドまで維持できれば良いが、おそらく……。
タラスクの攻撃が1段、2段、と重なって来ますが問題はこの後。一際でかい火炎ブレスと爆風が吹き飛ばし効果を仕掛けてきました。
リング・オブ・エンデュアリングアース(指輪)起動。強制移動効果無視。
その場に張り付き、間合いを維持出来ました。
3ラウンド。おそらく皆がさらに援護・牽制をしていた筈。私に周囲を観察している余裕はありませんでした。手番が来るまであと僅か。しかしタラスクの攻撃がキツい。火炎放射が2発、3発。立て続けの高熱と爆風を受けてHPが半分を切りました。暴れるゴジラの至近距離に張り付いてたら、まあそうなるな。
底力使用、続けてさらに使用。
エネルギータンク、パージ。背中のタンクを両方切り離しました。
この時点で使いたくはない保険でした。ラッシュ反動で自分に入る自壊180ダメージから立て直すための回復機能だったのです。もう次ラウンドのタラスク攻撃を耐えきれません。
そこに火炎放射がさらに追い打ち。今度のは大きい。大爆発と吹き飛ばし効果。
ステッドファスト・サドル(座席)起動。強制移動効果無視。
この時のために3400GPでシートベルト付けといたんだ。タラスクの間合い突き飛ばしは、おそらく1回じゃ済まないと備えておいたのです。間合い維持。
そして私の手番が来ました。
先程受けた火炎放射ダメージが響いてます。どう計算しても次ラウンドの体力が足りない。このラッシュで自分も力尽きる。それがどうした、だからなんだ。フルパワーラッシュ撃つためにここまで来たのです。ルール上考えられる限り、最強の武器と最強の技と最強の体格を得て、最強の敵と正面から戦うために来たのです。最高の晴れ着メカだって用意しました。全てはこの瞬間のために積み上げてきたのだ、躊躇などするものか。
ライド・ザ・ジャイアントダウン。
巨人殺しクラスの固有技、自分より大きな相手に駆け上り、マウントを取る移動スキルです。ルール上で最大ユニットになる「巨大サイズ」のフィギュアに変えたから、通常なら「自分より大型」条件に引っかかるけれど、これだけ大きいタラスク相手だと杞憂で済みました。命中修正+2の有利。これが効いてなくても先にクローク・オブ・ドゥームという技で命中+2は稼げてるので、保険と演出です。
アクションポイント。アーマースプリンター。
巨人殺しアクションと合わせて初弾命中修正は+6。この初撃が当たるかどうかで次のラッシュ起動条件が変わります。ここだけは絶対外せない最重要起点。
なのでNPCカードを使用します。隣のラックルの手札内に、命中をクリティカルにするカードがありました。それ使います。
しかし、ラックルが渋りました。
は?私は一瞬彼が何を言ってるのかわかりませんでした。
曰く、このNPCは大きな領土を治める統治者で、この戦いが終わった後の世界復興に重要な人物だそうです。それがどうした、だからなんだ。ここでタラスク大暴れしてる最中から戦後の段取りか。もう勝った気でいやがる、ならば今から教育か、今からすんのか。
あんたら元々は出会った相手を一人残らず皆殺し行脚続けた虐殺軍団だっただろが。出て来るNPC片っ端から襲って殺したから、キャンペーン前半の人脈まったく広がらなかっただろが。昔の血生臭い行状を忘れたようなキレイ事を……そういやあの頃まだラックルいなかったわ。
それはともかく、今更NPCの1枚程度をなぜ惜しむのかわかりませんが、私以外は皆カード使用には気が乗らない様子。おかしい。いや、おかしくない。私のほうがおかしいのだ。皆は今まで必死こいて危機を打ち払いながら守った世界に愛着がある。そこに住んでるNPC達にだって愛着も湧いて、できれば全員無事に帰してあげたい。
私にはそんなの興味無いことでした。何もかも全て火力リソースにぶっ込んでいて、もはや自分の生死すらどうでも良いのです。自分の命が軽く、他人の命などなおさら軽い。しかし、ここで私は皆を説得する根拠が出せませんでした。「俺のために死ね」がなぜおかしいのか理解出来ませんでした。皆死ぬんだよ。同じだよ。
私は死ぬと凄いラッシュが撃てる。こいつが死ぬと必ずクリティカルが出る。だからカードを切ります。そして勝てます。2人コストは必要過程じゃないのか。
ここで急いで確定クリティカルを狙わなくとも、命中判定を足せる方法は他にもあります。まずはダイスを振って、その目を確認してから決めようと意見がまとまりました。では振ります。
クリティカル。
自前で出せました。NPCを犠牲にしなくて良かったな。ここでクリティカルが出たことにより、次から命中修正がさらに+4増えます。そういう技なのです。全部込みで+10。ホロブンは攻撃命中ダイスが1でもファンブルせず、振り直しです。そういうクラスなのです。この時点で攻撃命中修正値がタラスクの防御値を上回り、どうサイコロ振っても命中します。そしてクリティカルが出たので、このラウンド内に行動が1回増えます。そういうアイテムを装備しているのです。
つまり、ここからタラスクはおおよそ4D10+25程のダメージで20回殴られることが確定しました。
アーマースプリンターが2発。
ブレードカスケードが5発。
サークリングカスケイドが3発。
旧式フォローアップブロウでそれぞれ追加の10発。全部で20発。
随分長くお待たせしちまったけど、ここがクライマックスだよ。
旧式二刀流レンジャー・30レベルヴォーパルウェポン・巨大ドワーブンウォーアクス20連ラッシュ。最高状態に仕上げたので、是非あなたに受け止めて欲しい、タラスクさん。
まず20面ダイスを振ります。アーマースプリンター分の残り3発。技1段階づつダメージ算出します。被ダメージ量でタラスクが段階アクションを取るので、順を追って処理するそうです。
当時のメモを見ても、数字の山で具体的ダメージ量がいくつだったか正確には覚えていません。しかし、さらに2発クリティカルが加わり、総計100個以上の10面ダイスを振ったダメージが、600、700という、通常出てこない数値を連発していたのは事実です。
4桁のダメージを受けたタラスクが数度反撃に出て、至近距離から熱線放射を浴びましたが、ラッシュは止まりませんでした。ブレードカスケードを撃ち込まれ、14発被弾した時点でタラスクの体力が尽きました。2500ダメージくらい叩き込んでやったわ。
やった、倒した。
戦闘終了ですが、ラッシュ反動で自分も自壊ダメージを受けます。蓄積ダメージと合わせて体力はマイナス、気を失ったホロブンはタラスク上から転落しました。
アダマント・リカバリ。予備電源起動。体力が0以下になった場合に、HP10で自動的に起き上がる非常用保険機能です。なんとか歩いて帰るくらいは出来そうです。
しかし、ここでタラスクが逃走開始しました。こいつは「殺せない存在」なのでHP0になっても穴掘って逃げてしまうのです。まだ終わってなかったわ。既にHP0相手に物理攻撃は無効です。もう私の仕事は終わったから放置してても良いのだけど。だけど。
渾身の全力アタックで叩き潰した相手なのに、最後に逃げ切られたら癪だな。
アクションポイントがまだ残っていました。タラスクがラッシュ途中で倒れたせいで、不発に終わったサークリングカスケイド分のを使って標準アクションを行います。
タラスクに組み付き。力のルーン<大腕力>筋力判定に+20。
結果はそれでも失敗です。STR元値が違いすぎるので勝ち目はありません。そうじゃないんだ。これは時間稼ぎだ。こいつが潜るまであと数秒間に誰かが仕留めてくれればいい、もうタラスクの体力は無いんだ。今ならやれるんだ。
ガンダルーブが即動き、タラスク牽制に出ました。続いて死神リリィがトドメ。
上出来です。何者であろうと絶対死させる死のルーンのパワーが刺さり、タラスクは息絶えました。
勝利した皆は凱旋を祝い、それぞれの生活に戻ったようです。
私はそこに含まれていません。
タラスクに組み付きを振りほどかれた後、ホロブンはその場に膝を着き機能停止しました。誰もそれを顧みず、初めからそこにそうあった物のように無視して帰還していきました。
何度も高熱に炙られたコクピットハッチが剥がれ、中からのっぺらぼうの人型をしたものが転げ出し、そのままタラスクの開けた次元の虚無の穴に落ちていきました。重心バランスが崩れた機体も同じように転げ落ち、虚空に消えました。
その穴もやがて小さく閉じていき、もう跡には何も残っていません。
破滅の先触れは、それに相応しく惨たらしい最期を遂げました。これが記事冒頭で書いた、誰とも人間関係を築けず一人で迎えたバッドルートの顛末です。
他人どころか自分までがんがん切り捨て続けただけでなく、最後にやりたい放題やったので「関わらんどこ」と放置されたのでしょうが、物語の結びとしては大変気に入っている展開です。元々私は全てキレイに収まるハッピーエンドより、多少苦いトゥルーエンドを選ぶ性分です。これだけ暴れた後を残り平穏に生きるとか都合良すぎると考えるので、どこかで派手に死なせるつもりでした。先にまともな死に方させないとも書きました。