どこの街に住むかの選択は、仕事やプライベートに大きな影響を与える。さらに家賃が家計支出の大きなウェイトを占めることを考えると、居住地は資産形成までも左右するといえる。総合的に考えて住みやすい街はどこなのだろうか?
20代後半から30代前半の単身会社員の住み心地を考えていこう。今回取り上げるのは、東武鉄道伊勢崎線の「獨協大学前」。

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「マンモス団地推し」から「大学推し」の駅名へ
松原団地と東武鉄道伊勢崎線
「獨協大学前」は埼玉県草加市に位置する、東武鉄道伊勢崎線の駅。1日の乗降者数は6万人弱です。 駅は1962年、「松原団地」として開業。その由来は、東洋最大規模といわれた「草加松原団地」です。高度成長期で東京の住宅不足が深刻化するなか、次々と郊外にマンモス団地が誕生しました。そのひとつが「草加松原団地」で、第1期780戸の募集に対して10,725件の応募があるなど、大変な人気を誇りました。
団地はA~D地区の4つに分けられていました。各地区には商店街が設けられ、活気あふれる団地だったといいます。しかし、現在各地で問題になっている郊外ニュータウンの高齢化に関しては、この街も例外ではありませんでした。商店街では閉店する店が目立つようになり、街のにぎわいは減少の一途をたどります。 そこで2003年から都市再生機構が団地の建替え事業を開始し、名称も草加松原団地から「コンフォール松原」と変わりました。駅前には30階建のタワーマンションが建つなど、往時の面影は消えつつあります。
駅名になっている獨協大学ができたのは、1964年のこと。獨協大学は4学部を有する大学で、8,000人近くの学生が在籍しています。そんな大学名を冠した駅名に変わったのは、2017年のこと。「若い人が多い街」というイメージ効果を狙ったものでした。
また駅名には「草加松原」という副駅名がつけられています。これは、駅東口の旧日光街道、綾瀬川沿い1.5キロに渡って続く草加松原、別名、千本松原が、国指定の名勝地「おくのほそ道の風景地」に指定されてのこと。観光面でのアピールも期待されています。
駅周辺をみていきましょう。学生の駅らしく、駅前にはカラオケやボーリングなど、若者向けの娯楽施設が多く、また居酒屋チェーン店など飲食店も充実しています。東口は低層マンションやアパートが多く、その外郭には一戸建てを中心とした住宅街が広がります。
一方、コンフォール松原やタワーマンション、獨協大学があるのが駅西口です。駅から国道4号線に挟まれた地域で再開発が進んでいますが、なかでも注目されているのが、駅から8分ほど、1万2,000㎡の土地に計画されている、地上2階建てのショッピングモール。2022年度開業予定で、物販店舗(生鮮三品他)、飲食店舗、サービス店舗が入るという程度の情報しか発表されていませんが、街の魅力を向上させる施設として、期待が集まっています。
チェーン店主流で没個性だが、暮らしやすさは二重丸
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[図表1]「獨協大学前」駅周辺の平均家賃 出所:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ(7月15日時点)※単位は万円
[図表2]20代後半、30代前半の平均月給 出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査 」※10名以上の企業対象※数値は所定内給与額※単位は万円
駅周辺の家賃水準をみていきましょう。駅から徒歩10分圏内の1Kの平均家賃は4.45万円、11分を超えると4.21万円(図表1)。同条件の草加市の家賃水準は、駅10分圏内で4.65万円、11分を超えると4.42万円。「獨協大学前」駅周辺は、草加市の平均値に近い家賃水準のエリアです。
厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、都内勤務の男性会社員の平均月給は、25~29歳で27.5万円、30~34歳で34.1万円、埼玉県勤務で25~29歳で24.8万円、30~34歳で28.6万円となっています(図表2)。企業規模によって平均給与は異なりますが、そこから住民税や所得税などを差し引いた手取り額の1/3以内を適正家賃と考えると、都内勤務20代後半は6.9万円、埼玉県勤務は6.2万円、都内勤務30代前半は8.5万円、埼玉県勤務は7.1万円となります。 「獨協大学前」駅周辺は、20代会社員でも十分に検討できる家賃水準です。
大手ポータルサイトで20代適正家賃内、駅チカ10分圏内といった条件で検索すると、多くの物件が見つかります。築年数の内訳を見てみると、4割が築30年以上の築古物件、3割が築20~30年の物件です。
一方で新築の供給も多いエリアで、条件内の1割の物件は築5年以内の築浅物件。また学生ターゲットの物件が多いので、オートロックや独立洗面台、浴室乾燥機など、イマドキの若者のニーズに応える設備を備えた、居住性の高い物件が揃っています。
交通面はどうでしょうか。「獨協大学前」から「北千住」14分、「上野」は34分、「銀座」53分、「六本木」65分。「北千住」で東京メトロ千代田線乗換えで、「大手町」47分、「赤坂」57分、「表参道」62分(所要時間は「獨協大学前」を平日8時に出発した場合の目安)。東京・大手町エリアあれば、40~50分程度でアクセスできます。
買い物環境はどうでしょうか。東口には「マルエツ」、100円ショップの「ファーストワン」、西口には「東武ストア」。大手ドラッグストアも多数点在し、最寄り品の購入で困ることはありません。 飲食店はどうでしょうか。学生の街だけあって、ファストフードやファミレス、牛丼店、定食店など、単身者でも入りやすい大手飲食チェーン店が揃っています。地元密着型の個性的な飲食店は少なく、ファミリー層もターゲットとしたチェーン店が主流です。面白味は少ない分、外食がメインの人でも困ることはなさそうです。
また国道4号線など、幹線道路沿いにはロードサイド型の店も多いので、自動車があれば、さらに生活の幅が広がります。 駅名変更で若者の街へのイメージチェンジを図る「獨協大学前」。歴史が浅く、学生をターゲットとするチェーン店が主流のため、街の個性は正直強く感じることはありません。その分、単身者であれば誰でも安心して住むことのできる雰囲気が漂っています。
駅名が変更されてまだ日が浅いですが、その効果は絶大で、若者が集う街というイメージは浸透しつつあるよう。今後、学生を中心とした若者を狙った店や施設の拡充が期待されます。
GGO編集部