現在進行中の新型コロナウイルス感染者増とともに懸念されているのが、より感染が広がりやすいと考えられる秋から冬にかけての「第3波」「第4波」だ。深刻な影響が出かねないのが、毎年2月に本番を迎える中学受験である。
すでに大学入試ではセンター試験に代わって今年度から導入される共通テストで「第2日程」や「特例追試」が設けられることが決まったが、中学受験はもともと“日程の組み方”が複雑極まりなかったため、影響がより大きいとみられているのだ。
約30年前に中学受験を経験した都内在住の40代会社員Aさんは、小学6年生の娘を進学塾に通わせるなかで、受験日程を組む上での前提が大きく変わっていることに驚いたという。
「私が受験した頃は、2月1~3日に1日1校ずつ試験を受けるだけで、併願する3校を選べばよかった。ところが今は『1月入試』や『午後入試』『複数回受験(同じ学校を何度も受けられる)』が増えた上に、当日中の合格発表やネットで前日出願ができるようになったため、2月1日の結果次第で2日目以降の受験校を変えることまで可能だというのです。
合否によって併願パターンをいくつも考えなくてはならないと聞いて、正直戸惑いました」
東京・神奈川の中学入試は2月1日に本格スタートするが、1月中に試験が行なわれる埼玉・千葉の中学校で“練習”するのが近年は常識だという。また、20年ほど前から登場した「午後入試」が中学入試のスケジュール感を一変させた。大手進学塾関係者が説明する。
「午後入試は、少子化のなかで学校側が受験生を集めるために広がっているものです。上位校は昔と同じように入試を午前中に実施し、中堅校以下が午後入試の日程を組む傾向がある。受験生にとっても上位校へのチャレンジがしやすくなるメリットがあります」
ただ、2月1~3日に5回も試験を受けなくてはいけない子供も出てくるので、身体的・精神的な負担は大きい。さらに、同じ日に2校の試験を受けるので、移動にかかる時間など“地理的要因”も含めて併願パターンを考えなくてはならないのだという。
「たとえば男子御三家の麻布(東京・港区)を2月1日午前に受験する生徒は、同日午後の広尾学園(東京・港区)の第2回試験が受けやすい。両校は徒歩で10分ほどの距離ですから。
同じ御三家でも、開成(東京・荒川区)が第1志望であれば、JR山手線で西日暮里駅から大塚駅まで移動するだけの巣鴨(東京・豊島区)の算数選抜の入試が2月1日午後にあるので、併願先の有力な選択肢になる。女子も2月1日午前に東洋英和(東京・港区)を受けて、午後は近くにある東京女学館(東京・渋谷区)の第2回試験を受けるといった併願戦略の生徒は多いですね」(同前)
もちろん、理念や校風などが志望校を決める大きな要因であるのは変わりないが、同じ日に2つ試験を受けるために「立地」という要素が絡んでくるわけだ。そうした併願戦略を複数パターン用意する上で、親の負担も決して少なくない。小学6年生の娘の第1志望校が女子御三家の女子学院(東京・千代田区)だという前出・Aさんはこう話す。
「2月1日に行なわれる女子学院の入試は、午前に筆記試験があった後、午後に面接があります。その面接の時間帯が、受験番号によって変わってくるのです。早い時間帯の受験番号がゲットできれば、午後に広尾学園などの第2回試験が受けられるようになる。だから、妻には今から、願書を出す当日は始発で学校に向かうように指示されています」
複雑なパズルのようになっている中学入試の併願校選び。それが仮に新型コロナの感染拡大局面で入試シーズンを迎えることになれば、日程変更など各校の対応にバラツキが出る可能性がある。そうなると、複雑なパズルをさらに組み替える必要に迫られるのだ。
来年2月の中学受験について、近著『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』が話題の教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏はこう指摘する。
「感染予防策を講じなければいけないなかで、大人数の受験生が会場に集まる入試が例年と同じようなかたちで実施できるのか、不透明な部分は多い。各学校が入試日程を変更すれば、混乱は大きいでしょう。例年と倍率が変わるなど、進学塾などの出している偏差値があてにならなくなる可能性もあります。親が子供をサポートする上では、過去の偏差値や日程だけを見て併願校を絞るのではなく、オンライン説明会などの機会をフル活用してその学校が子供を送り出すに足る学校なのかをよく考えることが必要でしょう」
ただでさえ小学6年生には大きなプレッシャーとなる中学受験だが、来年2月の試験は例年以上に重圧の大きいものとなるのかもしれない。