(TechinsightJapan編集部 MasumiMaher
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東京オリンピックの選手村を改装後、マンションとして販売する「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」の入居延期が決まった。既に900戸ほどが契約済みとのことだが、今回の延期による影響はどのようなものが挙げられ
るのだろうか? 完全に切り離すことはできないのだが、そもそも、晴海フラッグを購入する個人が直面する影響と、晴海フラッグプロジェクト全体が直面する影響とが考えられる。その線引きをイメージしながら、選手村跡地に生まれる街の未来を、不動産業界に身を置く筆者が推測してみた。
資産価値への影響はほとんどない?
まず、引き渡し時期が先に延びることで、購入者個人が直面する想定リスクには金利上昇が挙げられる。しかし「ゼロ金利の現状、4年後には上昇している可能性が極めて高い」というのは既に決まり文句であり、1年延びたところで、ある程度は織り込み済みではないだろうか。
もともとの竣工が2022年秋、契約時から見ても実質的な入居可能時期は4年後であったのだから、これを承知して購入したはずであり、それほど影響があるとは思えない。経済全体はさておき、借入金利については、手を出していない人が揶揄することではないだろう。
同様に、購入者個人が直面するリスクには、ライフステージに関するものが挙げられる。現状が借家であれば、更新やそれに伴う保険の加入は必要になるし、持ち家であれば、手放す時期に絡む査定価格の変動や手間、短期の住まいの手配など諸々のコスト増は避けられない。
しかし、これもあくまでも個人の負担の話であり、晴海フラッグの資産価値に直結するわけではない。補填が出るとは思えないが、購入者当事者ができることは、デベロッパー側とやりとりをする程度であろう。また、コスト増として直接的に表せないものとして、子供の進学時期の計画変更や転校の問題があるが、これも、飲み込めるかどうかは、その人の人生における価値観によるところが大きく、街や建物の資産価値という点には直結しないものと言える。
つまり、購入者個人のライフステージには多少影響があるが、晴海フラッグの資産価値自体へのダメージはほとんど無いとも言えるのである。
では、オリンピックが中止になった場合はどうなるか?
オリンピック中止でメリット多数?
まず「選手村跡地」というフレーズが消えてしまうわけだが、これに重きをおいた個人がどれほどいるであろう。選手村の跡地という歴史が生活に直結する経歴でないことは明らかで、これ自体に資産価値があるとは思えない。開発が発表された際に、オリンピック開催の熱量と相まって前面に押し出されていただけで、その機能は「販売促進用のブースター」とでも言おうか、いずれにせよ新築販売時に特化したものであろう。
モデルルームを訪れて購入に至る間に、背中を一押しする力があったとしても、このフレーズを購入の決め手にした人が果たしているのだろうか。将来的に、中古物件として流通する際にも同様のことが当てはまりそうだ。
そもそも中止になった際に(選手村仕様に一旦は完成させるのかどうかは不明だが)、居住用に向けた改装工事が、極めてスムーズに施工されるという恩恵があると思われる。当初の引き渡しを前倒しすることは考えづらく、前もって確保しておいた職人の方々をもって、しっかりと工事期間を用いて改装にあたるというのは、品質的にきちんとしたものが作られると考えてよいだろう。
また、当初より懸念のひとつであり資産価値に大きく影響を及ぼしそうなBRT(バス高速輸送システム)についても、中止の際には稼働と検証が前倒しできる可能性が出てくることも好条件ではないだろうか。最寄り駅からの表記では不利な物件であるため、稼動したBRTの有用性が広まれば、晴海フラッグの弱みはひとつ解消されるに違いないし、将来的に他の物件への展開にも大きく寄与する可能性が見込まれる点ではある。
晴海フラッグのプロジェクト自体は、その眺望(公式では「超望」とさえ表記されている)や、商業施設はもちろん、保育施設・介護施設(介護住宅)が盛り込まれた全体を指し示すものである。選手村跡地というフレーズにとらわれず、今一度原点に立ち返られてはどうだろう
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