2021
イギリスの高級紙「タイムズ」に3月3日付で、今夏の東京五輪・パラリンピックを中止するべき、と提言するリチャード・ロイド・パリー同紙東京支局長のコラムが掲載された。
【画像】「今年の五輪を中止する時が来た」と題された英「タイムズ」紙のコラム
「スーパー・スプレッダー・イベント」に
コラムは、顔写真付きで約900ワード。「今年の五輪を中止する時が来た」、「日本のみならず世界へのリスクが大きすぎる、東京の今夏のスーパー・スプレッダー・イベント」と見出しが付けられている。 冒頭でパリー支局長は、イギリスで50年の歴史を誇り、約15万人を動員する野外音楽祭「グラストンベリー・フェスティバル」が2年連続で中止された出来事に言及。 一方で、東京五輪については、200ヵ国以上から1万5000人以上が参加し、その数倍の数の審判、スポンサー、ジャーナリストなどが来日し、チケット販売数は1100万枚以上、と数字を列挙。
これらのイベントを対比させ、「はるかに小規模で短期間のフェスティバルが犠牲になるならば、世界最大の都市で4週間にわたって開催される大規模なイベントも中止されるべきであることは明らか」とキッパリと述べた。
少ないコロナ被害、無駄にする?
続いてパリー支局長は「厳しい真実」を次々と列挙。 菅義偉首相は1月の施政方針演説で、「夏の東京オリンピック・パラリンピックは、人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいと思います。感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現するとの決意の下、準備を進めてまいります」と述べた。
パリー支局長はこの菅首相の発言を一部引用し、五輪開催支持者は、勇気や人間性、抽象的な美徳を語るのを好むが、本当に開催したい理由はそれより実務的だ、と記す。
その理由とは、すでに投入された莫大な資金と密接に絡み合った威信や権力だ。東京大会は史上最高額の夏季五輪になる見通しの上、延期でコストも増大している。また中止すれば、五輪スポンサーである世界の大企業に損害があり、何年もかかる法的な議論になるだろう、としている。 こうして何が何でも五輪開催へと向かおうとする様子を「止まらない暴走列車」と、例えた。
さらに「日本の新型コロナウイルスによる被害が他の先進国と比べて小規模なのは、衛生状態が良く、外国人訪問者の入国を禁止したため」だが「今、政府は金と名声のためにこれらの成果を犠牲にしようとしている」と指摘した。 日本政府と国際オリンピック委員会(IOC)は感染防止措置を可能な限りとるとしているが、これについても「リスクを排除することなく、五輪の楽しみを奪い、スーパー・スプレッダー・イベントとなるだろう」と反論した。
病人や死者が出るだろう
同紙のウェブサイトによると、1995年から東京に住むパリー支局長は、感染防止のための厳しい規制をし、大会開催ができる国があるとすれば「日本しかない」と認める。
だが、パンデミックの今後の状況について確証はなく、新たに変異ウイルスが急増し、五輪が感染源となって世界に数週間、数ヵ月間の停滞をもたらすかもしれない、と最悪の事態も予想。 何よりも、中止すべき決定的な理由は、一般の日本人の意見とし、個人ばかりか、企業も今夏開催を反対する声が多数だという、世論調査の傾向を挙げた。 そしてどんな予防措置がとられようと、東京五輪が開催されれば、病人や死者が出るだろうとし、「そうした代償は誰も負わされるべきではない」とコラムを結んでいる。
パリー支局長は「クーリエ・ジャポン」の寄稿者でもある。今年1月には、日本政府が新型コロナウイルスのために東京五輪中止を非公式に決定したとする「東京五輪中止記事」を同紙に出したが、IOCと日本政府は否定した。
コメントも続々、日本に思いやりも
このコラムに対し、同紙のウェブサイトには「開催しても良いが、非公開で。陽性反応が出た選手は出場停止にしたらいい」、「コロナ完全排除の大会なんてあり得ない、もう1年待つべきだ」、など100件を超えるコメントが寄せられた。
「五輪は大好きだし、2012年には何度かスタジアムで観戦した」という投稿者は「選手の前で観客の前で競技をする重要性もわかっている」としつつ、開催すれば、観戦時、そして五輪のために渡航した人たちが帰国した時と、2度、感染拡大が起きる可能性がある、と記した。
「パリを2028年などに延期して、東京大会は2024年にするべき。日本に損失を被らせるのは不公平だ」などと、日本の立場を思いやるコメントもあった。