コロナ「抗体検査」の意味は 民間で実施している医師が解説
>抗体があるうちは、2回目に罹った際に重症化する可能性は低くなると考えられます。医療関係者をはじめ、自身の仕事に取り組むうえで、抗体の有無という参考情報があることの意味は大きいのではないか
新型コロナウイルスの感染拡大と外出制限に伴う経済的な打撃に、世界各国が苦しんでいる。そうしたなかで注目を集めているのが、本人が知らないうちに新型ウイルスに感染し、体内に抗体ができているかどうかを調べる「抗体検査」だ。米国で最も感染者の多いニューヨーク州では、すでに大規模な検査体制が組まれているが、この検査によって何が、どこまでわかるのか。日本でも個人に対して抗体検査を提供するクリニックが出てくるなか、私たちはどのように理解すればいいのか。
* * *
「今日のご予約は、抗体検査のご希望でよろしかったですか?」
東京・新宿にあるナビタスクリニック新宿の受付を訪れる人のなかには、数人にひとり程度の割合で、新型コロナウイルスの「抗体検査」を予約した人がいた。同院では4月27日から一般向けの抗体検査の提供を始めた。採血を受け、スタッフが検査キットに血液を垂らすと15分程度で結果が判明。医師から結果の説明を受ける。費用は5500円(税込、自由診療)だ。
PCR検査が、新型コロナに「いま感染しているか」を調べる検査なのに対し、このクリニックで行なっている抗体検査は「過去に感染したかどうか(抗体の有無)」を調べるものだ。
25万人を超える新型コロナ感染者を出した米ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は「経済活動の再開はデータに基づいて判断すべきだ。抗体検査がカギとなる」と発言。抗体を持つ人の割合を把握した上で外出制限を緩めていくことで、感染拡大のリスクを抑えながら経済活動の再開を目指せるのではないかと期待を寄せている。
ナビタスクリニック新宿の上昌広医師は、同院が提供する抗体検査についてこう説明する。
「病原ウイルスが体に侵入すると、排除しようと免疫反応が起こります。発熱や喉の痛みは、この免疫反応がきっかけとなって発生する現象です。排除する際に、病原ウイルスを捕捉する役割を持つたんぱく質が抗体です。こうした免疫反応の過程で現われる抗体を測定し、病気にかかったかどうかを推測するのが抗体検査になります。抗体には様々な種類があり、ウイルス感染症の場合は主に、感染早期に現われる『IgM』と、遅れて現われて長期間にわたって出現し続ける『IgG』の2種類の抗体があります。現在、当院で行なっている検査は『IgG』が体内にあるかどうかを見ています」
新型コロナは感染しても無症状、あるいは軽い症状だけの人も少なくないことが明らかになっているが、「当人が知らないうちに一度感染し、すでに新型ウイルスへの抗体が体内にある」というケースを見つけられる可能性がある検査というわけだ。
こうした抗体検査には期待が集まる一方で、その位置づけについて専門家から警鐘も鳴らされている。
WHO(世界保健機関)は「現時点では新型コロナウイルスに1度感染して抗体のある人が再び感染しない証拠はない」と発表。検査で陽性となった人が“抗体があるから安心”と考えて行動することが、かえって感染を広げかねないという指摘がなされている。そうした状況を踏まえ、上医師はこう話す。
「新型コロナウイルス感染症に関しては、わかっていないことが多く、抗体の意義もまだはっきりしていません。抗体検査の意味というのは病気によって違い、風疹や麻疹ならば、抗体があるのは免疫を獲得していて感染症から守られていることを意味します。つまり“抗体があれば生涯安心”ということです。一方、HIV感染症や慢性C型肝炎のように、抗体があるかどうかを調べることで、罹患しているかどうかのスクリーニング検査になるケースもある。
コロナなどの抗体の場合、免疫の“記憶”が残っている間は、同じウイルスに感染しても症状が出なかったり、軽くなったりすると考えられています。ただ、新型コロナの場合、その記憶がどれだけ長くもつかがまだわかっていません。それゆえ“抗体があったからもう心配ない”とは喜べないところではあります」
では、抗体検査を受ける意味はどこにあり、受けた人たちは、その結果をどう受け止めればいいのか。上医師は「個人個人が自身の行動を考え直す機会とするのがいい」と言う。
「抗体があるうちは、2回目に罹った際に重症化する可能性は低くなると考えられます。医療関係者をはじめ、自身の仕事に取り組むうえで、抗体の有無という参考情報があることの意味は大きいのではないか。ただし、重症化率がどのくらい低下するかは判明していないので、陽性で抗体があったからといって、“自分はもう大丈夫”と過信するのはよくない。また、2回目以降の感染で、自分には症状がないまま他の人にうつしてしまう可能性は残っていることにも注意が必要です
現状の検査キットの精度の問題もある。すでに体内に抗体ができているにもかかわらず「陰性」と出てしまう「偽陰性」の可能性があることに加え、構造がよく似た他のウイルスに対する抗体を検出する可能性も否定できないという。日本赤十字社も、献血血液で新型コロナウイルスに対する抗体検査に使用する測定キットの信頼性を評価する研究を実施すると発表した。5月1日にも、最初の調査結果が公表される予定だ。
そうした検証を受け、検査キットもこれから改良が重ねられ、より感度の高いものが出てくるだろうと前出の上医師は言う。
「感度が高くなり、保険適用され金銭的な負担も軽くなれば、定期的に受けることが有力な選択肢になるのではないか。また、体調を崩したなど体に異変があった時に、PCR検査を受けられなかったとしても、少し時間が経ってから抗体検査を受けるという選択肢もあります」
人類が新型ウイルスと対峙するうえで、抗体検査は今後、どのような役割を果たしていくことになるのか。