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>共通点は、高齢者の就業率にある
---------- 刊行する「老年本」が次々ベストセラーランキング入りを果たす精神科医の和田秀樹さん。長年の臨床経験に裏付けられた“具体的提案”が読者の心を摑んでいるという。このたび新著『70歳から一気に老化する人しない人』を上梓した和田さんに、「元気な長寿」を実現するために注目したい“ある要因”についてお話しいただいた。
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「使い続ける習慣」づくりが重要
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70代の時期に脳機能も身体機能も意識して使い続けていれば、80代、90代になって要介護になる時期を遅らせることができます。
まずは、活動レベルを落とさないよう、「意欲の低下」を避け、前頭葉と男性ホルモンの活性化を促す必要があります。そのためにも、使い続ける「習慣づくり」が大切です。
多くの人は、70歳前後で仕事からリタイアします。すると、これといって体を動かしたり、頭を使ったりする理由がなくなってしまいます。
つまり、この時期から、意図的に脳を使おう、体を動かそうと習慣化しないと、脳機能も運動機能も使い続けることはできないということです。
70代に身につける習慣が「その後の人生」を救う
また、もうひとつ、70代の習慣づくりが大事な理由があります。
それは、70 代で始めた習慣は80代以降も生涯にわたって続くということです。
たとえば、70代で日ごろから歩こうと心がけて散歩の習慣がついた人は、それを80歳になっても続けているものです。
「水泳をしよう」「山登りをしよう」と70 代のときに決めて習慣化した人は、80歳になっても、体力のある限りは続けるでしょう。
山登りができなくなっても、それに代わる何かをやって、体を動かそうという心がけだけは生涯続くに違いありません。
運動だけでなく、観劇や絵画、囲碁・将棋、俳句などの趣味の活動でも、70代で習慣化しているものは、80代になってそれをやめるということはなかなかありません。
ゴルフ好きサラリーマンは「引退」してはいけない
70代のうちに何もしなかった人が、80代になってから新たな習慣を作ることは、かなり難しいと思います。
身体機能は70代のころよりも落ちていますし、新しいことを始めようという意欲の面でも減退しているからです。
だからこそ、現役時代に近い身体機能や意欲のあるうちに、よい習慣を身につけることが大切です。
会社勤めをしていたときはゴルフをしていたが、定年退職をしたら自腹では行けないのでやめようと考えている、というような人がいます。
体を動かすよい習慣がすでにあるなら、それは70代になってもできるだけ続けたほうがいいのです。別に、お金をかけてゴルフに行かなくても、やれることはいくらでもあるはずです。
70代の人たちは、放っておけば何もせず、すぐに老け込んでいく危険性があります。だからこそ、機能維持のために意図的に振る舞うことが大切です。このタイミングで、意識してよい習慣をつけることで、80代になっても元気な状態を保つことができるのです。
興味深い長野県の平均寿命データの推移
老年になっても脳や身体の機能をしっかり使い続けるということで、私がもっとも注目しているのは「働くこと」です。
働き続けることが、私たちの老化を遅らせ、いつまでも若々しくいさせてくれることは、データでも裏づけられています。
長野県はかつて、都道府県の中でも平均寿命のデータが下位に位置していました。
ところが、1975年に男性が全国4位となり、その後上昇し始め、1990年代以降、全国1位を何度も記録しています。
女性においても、2010年の調査で第1位となり、男女共に平均寿命の都道府県ナンバーワンになりました。
厚生労働省の2015年の調査結果でも、男性が81.75歳で全国第2位、女性が87.68歳で第1位です。
「働く」ことは、老化防止の最高の薬
和田秀樹『70歳から一気に老化する人しない人』
なぜ、近年長野県がこれほどまでに長寿になったのか、さまざまな推測がなされました。長野県には、イナゴや蜂の子などの昆虫を食べる習慣があるからだとか、地形的に山間部が多く、山道をよく歩いて足腰が鍛えられるからだといった理由が挙げられたこともあります。 和田秀樹『70歳から一気に老化する人しない人』
しかし、最近では昆虫を食べることも減ってきていますし、自動車の普及が進み、山道を歩くことも少なくなってきていますので、この仮説にはあまり説得力がありません。
私は、本当の理由は、長野県の高齢者の就業率にあるのではないかと考えています。というのも、長野県はこれまで、高齢者就業率において都道府県ナンバーワンを何度も記録しているからです。
総務省統計局のデータでも、2017年10月1日現在で、長野県の高齢者就業率は、男性が41.6%、女性も21.6%で、男女ともに第1位でした。
家にこもることなく、積極的に外に出て働くことが運動機能、脳機能の老化を遅らせ、寿命を延ばしているのだと考えます。
沖縄の「男女格差」を生んだ要因
このことは、沖縄の平均寿命と就業率の関係からも見て取れます。
沖縄県はかつて長寿県のようなイメージがありました。ところが現在は、女性は長寿ですが、男性の平均寿命が全都道府県中30位以下になっています。
先の厚生労働省の2015年調査でも、男性は全国36位という下位に……。その一方で、女性は全国7位につけているのです。
なぜ、沖縄の男性と女性は、ほぼ同じような遺伝子を持ち、同様の気候風土の中で生活しているにもかかわらず、これほどまでに平均寿命に差がついたのか。私はその理由も、就業率に隠されているのではないかと考えています。
実は、沖縄県の男性高齢者の就業率は全国最下位なのです。このことが、男性の平均寿命を下げている要因ではないかと見ています。
女性の場合は若いときから専業主婦の人もいますし、高齢になっても家事を一手に担っている場合もあるので、就業率自体が男性ほど寿命に影響を及ぼさないのかもしれません。しかし男性においては、働いているかどうかが、平均寿命の長さに影響しているのではないか──。
長生きを実現し、人生が豊かになる「働き方」を
長野県では高齢者一人当たりの医療費が、全国最低レベルという調査結果もあります。つまり、歳をとっても元気な人が多いのです。
「働き続ける」ということは、高齢になっても活動レベルを落とさない手っ取り早い方法なのです。そのことが、身体や脳の老化を遅らせることに役立ち、元気な70代、80代を可能にしてくれます。
ただし、歳をとってからの働き方は、若いときとは変えるべきだと私は思います。
お金や効率だけを求めるような働き方から、自分の経験や知識を生かして、誰かを助け、社会の役に立つことに、より価値を置いてもいいのではないでしょうか。
年をとったら「役に立つ」ために働く
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お金ばかり求めていても、歳をとれば若いときのような成果を得ることはだんだん難しくなっていきます。思ったように働けないことも増えてきます。
そんなとき、自分が無価値な存在になってしまったと落胆する人も出てきます。
しかし、どれくらい稼ぐかとか、どれくらいの成果を上げるかといったことは、「働く」という行為の一面にすぎません。
高齢になれば、自分の経験や知識を誰かのために生かすという働き方もあるのです。どれくらい社会の役に立っているかといった価値観に軸足を移して働いてもいいと私は考えます。
老化防止の最良の薬
どんなことでもいいから、ほんの少しでも社会に関わったり、何かの役に立ったりすることは、誰にでもできるはずです。
そのことに価値を見出し、高齢になっても働き続ける。それが、老化防止の最良の薬になるのではないでしょうか。
和田 秀樹(精神科医)