犬神スケキヨ~さざれ石

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旧、新憲法 統治と主権(10)

2020-12-15 13:28:00 | 連続
旧新憲法間で天皇の権能にどの様な相違があるでしょうか?

大日本帝国憲法と日本国憲法に於いて実体として天皇の権能の違いと言うものは一体どこにあるのでしょう。

現憲法では第3条で天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負ふとあります。
第4条では天皇はこの憲法に定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しないと規定しています。

そして第6条と第7条で12項目に及ぶ国事に関する行為をあげています。

八月革命説宮澤俊義は「天皇と言う国家機関が何らの実権を伴わない"虚器"的な存在であることを、内閣の助言と承認という制度によって確保しようというのである」
と述べ、第4条について「天皇の有する権能が、この憲法に規定するものに限られること、しかもそれは儀礼的、名目的な性格をもつものであり、統治作用に関する性格をもつものでない事を定める」
この様に述べています。

現憲法では『国政に関する権能を有しない』と規定する天皇と、『統治権の総覧者』と規定する帝国憲法とでは表現上の大きな違いが見受けられます。

帝国憲法に於いては、天皇は統治権の総覧者で、立法・司法・行政など全ての国の作用を究極的に掌握し統括する権限があったと現在では常識的に考えられています。

第一条
大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス
第四条
天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総覧シ此ノ条規ニ依リ之ヲ行フ

確かにこの様に規定されています。

しかし天皇が自らの意志で立法権、司法権、行政権を行使出来たかと言えば、そうではありません。

立法について第六条『天皇ハ法律ヲ裁可シ其ノ公布及執行ヲ命ス』とあり、第七条『天皇ハ帝国議会ヲ招集シ其ノ開会閉会停会及衆議院ノ解散ヲ命ス』と規定されています。
その一方で第五条『天皇ハ帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ』とあり、第三十七条『凡テ法律ハ帝国議会ノ協賛ヲ経ルヲ要ス』とあります。

天皇は帝国議会の協賛(翼賛)がなければ、立法権を行使することが出来ない旨が憲法の条文にはっきりと明記されています。

予算についても第六十四条『国家ノ歳出歳入ハ毎年予算ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ』と予算についても議会の協賛を必要としているのです。

因みに協賛・翼賛とは『同意』のと言う意味です。

これは、予算については議会には発案権はなく唯政府の提案に同意を与えるだけで、立法に対する協賛は単に政府提案に同意するばかりだけでなく、議会側から議案を発する権能を含んでおり、積極的に立法を要求する意思表示であると考えられます。

協賛は議会から政府に対しての意思表示であってこ国民に対する国家の意思表示ではありません。
天皇に法律の裁可を願うのは政府です。
その政府の行為に議会が同意を与える。
これが協賛と言う事です。

第五十七条『司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ』とあります。
これを見れば確かに、司法権は天皇の名に於いて行使されると読めます。

しかし、これは天皇が自由に判決内容に介入出来ると言う意味ではありません。

条文を読めば、司法権を行使する主体は裁判所であって、裁判所が法律に従いこれを行う事を要求するものです。

そして法律は議会が協賛し確定したものです。天皇が自由に作れる法律は一つもありません。
従って、裁判所の判決に天皇が個人的に意思を反映させる余地は全くありません。

第五十五条『国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス』と行政について規定しています。
更に第二項には『凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス』とし、行政権は各国務大臣の輔弼により行われます。それだけではなく、法律や勅令など国務に関する詔勅については国務大臣の副署がなければ効力をもたないと規定されています。
第五十六条『枢密顧問ハ枢密院管制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮問ニ応へ重要ノ国務ヲ審議ス』と、重要な国務については、枢密顧問の諮問を経るべき事も憲法に規定されています。