生意気にもみんなと一緒に誰かが決めた方向性で大学に進むのは何となく馬鹿らしいことだと考えていた私は、高校3年生になるといよいよ受験勉強とは関係ないものに一生懸命になり始めた。馬鹿としか言い様が無いが、当時は自分自身の頭がカラッポであることに気づく頭脳も経験も持ちあわせていなかった。ま、最近は少し経験も積んで、過去についても現在についても、自分の馬鹿さ加減が多少わかるようになってきたと感じることもある。まれではあるが。
そんなわけで高3の冬が終わりそうな時期になると、私は早々に就職先を探した。と言っても、根っからの世間知らずだ。やったことと言えば、当時私が住んでいた小さな町の隣町にある、それなりに大きな商店街をぶらぶらして、端から自分を雇ってくれるかどうか聞いてまわることだった。不思議なことだが、探し始めてなんとたった3店目で私を採用してくれる店が見つかった。商店街の入口は大きなパン屋、ここは「間に合っている」と断られた。2点目はジュエリーのお店。ここは店員さんが2人とも女性だったのでダメだろうと思ったが、聞いてみるとやはりダメだった。だが、隣の靴屋なら今若い人を探しているからと親切に教えてくれた。
靴屋の入り口脇に「アルバイト募集」の張り紙があるのが目に留まった。これはいい。私は喜び勇んでその小さな靴屋、正確にはスニーカー専門店の奥に前進した。が、そこにいたのは完全にリーゼントでいやに前傾した暴走族風の金縁メガネをかけ、口を開くとなぜか真っ黒な歯をした年齢不詳の男だった。男は私をギロリと睨みつけた後で、そんなに怖い顔でそんなに優しい声がどこから出るのかというぐらい優しく「いらっしゃいませ」と言った。前進していた私は思わず半歩ほど後退した。その後、兄のように慕うことになったSさんとの最初の出会いである。
Sさんは「俺じゃ決められないから奥さんが来るの待ってな」そう言った。待っていると別にもう1店舗ある総合靴店舗で用事を終えた店の女主人が戻って来た。私の「ここで働かせて貰いたい」という言葉を聞いていくつか質問した後、「いいわよ。採用します。朝10時開店だから、9時30分には来てね、あしたから。明日来る時、いちおう履歴書書いて持って来なさいね。就職活動っていうのは普通は履歴書ってものを書いて持って歩くの。学校の授業はもう無いってことだけど、卒業式にはちゃんと出席すること。それから、来年は大学を受験すること。それが条件だけど、いい?」
その時まで、正直なところ次の年に自分が取るべき行動について、なるようになるさ、ぐらいにしか考えてはいなかった。ところがこの店の女主人の一言で私はなぜか強く、決意した。素直に「はい」と答えていた。
「それからね、うちには今度中学3年になる息子がいるの。運動は大好きで元気が良くていいんだけど、成績がイマイチでね。高校受験が怪しいの。少し勉強見てやってくれる?」これにも素直に「はい」と答えていた。
しかし、息子さんは実は1人でなく、4月に私立の高校に入る長男と中学校に入る3男の3人兄弟であることが、後に判明する。なし崩し的にこの3人の家庭教師の職も引き受けることになってしまったのである。
翌日言われた通り9時半前に店に着いて待っていると、可憐な若い女性に「おはようございます」と声をかけられた。え?え?と思っているところにSさんが現れシャッターの鍵を開け始めた。女性は勝手にどんどん自己紹介をしていく。私と同じように高校3年、卒業を待つばかりで、短大に受かっていること、今日から大学入学式までは、この店でアルバイトをすること、昨日の帰りに店に寄って挨拶した時に私のことを聞いたことなどを快活によくしゃべる。今の私なら負けていないだろうが、当時は押されっぱなしで、気のない返事をすることしかできなかった。いやそれだけでなく、その子に見とれていた、と言ったほうが正しい。可愛い子だった。
この年の春は忙しく楽しく充実していた。その始まりの日の記憶だ。(三)
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そんなわけで高3の冬が終わりそうな時期になると、私は早々に就職先を探した。と言っても、根っからの世間知らずだ。やったことと言えば、当時私が住んでいた小さな町の隣町にある、それなりに大きな商店街をぶらぶらして、端から自分を雇ってくれるかどうか聞いてまわることだった。不思議なことだが、探し始めてなんとたった3店目で私を採用してくれる店が見つかった。商店街の入口は大きなパン屋、ここは「間に合っている」と断られた。2点目はジュエリーのお店。ここは店員さんが2人とも女性だったのでダメだろうと思ったが、聞いてみるとやはりダメだった。だが、隣の靴屋なら今若い人を探しているからと親切に教えてくれた。
靴屋の入り口脇に「アルバイト募集」の張り紙があるのが目に留まった。これはいい。私は喜び勇んでその小さな靴屋、正確にはスニーカー専門店の奥に前進した。が、そこにいたのは完全にリーゼントでいやに前傾した暴走族風の金縁メガネをかけ、口を開くとなぜか真っ黒な歯をした年齢不詳の男だった。男は私をギロリと睨みつけた後で、そんなに怖い顔でそんなに優しい声がどこから出るのかというぐらい優しく「いらっしゃいませ」と言った。前進していた私は思わず半歩ほど後退した。その後、兄のように慕うことになったSさんとの最初の出会いである。
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