不安と勇気

　明日どうなるかわからないばかりか、１０分後すらどうなるかしっかりわかっている人はいない。ただ漠然と楽しかったり悲しかったり忙しかったり退屈だったり、そんな今の現実が、この先も何となく続いていくのではないかと思うだけだ。その現実が引き起こす気分の中で、最も厄介なのが「不安」というやつだろう。
　
　未来のことなどさっぱりわからないはずなのに、悪いことだけが起きて良いことは起きないという確信のような未来予想がモクモクと心のなかに拡大する。「不安」は具体的で詳細な未来予想とは異なる。より具体的なイメージを描くことができると「不安」は縮小していくから不思議だ。はっきりした方向性が無く、抽象的で漠然としたイメージしか思い描けないと「不安」は大きくなるばかりだ。
　
　この黒い雲のような重いおもりのような「不安」に負けないで自分をコントロールし、周囲があっと驚くような未来を切り開いてしまう人達がいる。私たちは、そういう人達の中に「勇気」という言葉を見つける。「勇気」をもって「不安」を克服した人だけが世界を前に進めているのではないかと思うこともある。立ちふさがる大きな壁を乗り越えるためには、壁以上に大きな「勇気」を持たなければならない。そして成功する具体的で詳細なイメージを持っている。さらに彼らは、そのイメージは成し遂げられるものだと強く信じている。
　
　「不安」を克服して成功した人たちの話を聞くと、彼らまたは彼女らは、決まって自分は一人ではない、ということを言う。「不安」はひとりでも育つが「勇気」はひとりでは育ちにくいものらしい。もちろん「社会不安」という言葉がある通り「不安」は多くのゆるい人のつながりの中で急拡大するものでもある。
　「勇気」はオリンピックの聖火リレーのように、アフリカの大地で進化した勇気ある誰かから何万年の時代を経てずっと受け継がれて来た、人が人に受け渡すべき力の源であるような気がしている。強い「勇気」は強い「勇気」を持った誰かから渡され、周囲の多くの人から力を得てさらに強くなって行くのだろう。そこに未来へのより具体的なイメージがあれば成功は遠いものではない。「不安」に苦しむ必要がなくなる。具体的な未来のイメージに向かって勇気を持って、コツコツと前に進めば良いだけだ。
　
　東日本大震災後、日本人の多くは、よりよい日本の姿やよりよい世界の姿を震災前に比べるとずっと具体的にイメージするようになったのではないかと思う。人と人の連帯が人に「勇気」を与えることも知った。
　円高が止まらずアメリカ経済が失速して、株価が急落しても、総理大臣周辺がわけのわからない駆け引きばかりに明け暮れていても、大型台風が来たり大雨で洪水になったりしても、今の日本人の多くは昨日今日のアメリカやヨーロッパの人達以上に落ち着いているような気がしている。
　
　今「不安」に苦しめられている人がいるなら、周囲の近しい人に自分の不安を打ち明けて「勇気」をもらおう。できれば何にしくじりそうなのか一緒に具体的に考えてもらうといい。どうすれば乗り越えられるか、見えて来るだろう。ここは「勇気」ある人が住むいい国だ。なんだか最近その思いが強い。世界が日本の円を買う理由もあながち間違ってはいないのではなかろうか。胸を張ってまっすぐ前を向いて進もう。そうすれば、きっといい結果がついて来る。（三）


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