会社の窓から遠く丹沢の山並みを眺めることが出来る。8月も後半に入るとさすがに空気も少し澄んで山の端もくっきりしている。吹き飛ばした煙草の煙のような雲が青い空に浮いている。まだこれだけ暑いのに目から「秋が近い」という感覚が入り込む。
この「秋が近い」という感覚で思い出すのは夏休みの宿題だ。秋が近い時期になってくると、ああそろそろやらないとなぁとジワジワ追い詰められて来たものだった。毎年早めに片付けて、さっぱりした気持ちで夏休みを過ごした人もいたようだが、私は宿題を後回しにしてしまう一派に属した。
自由研究の類で忘れられないのは、母方の祖父と一緒に作った帆船の模型だ。物置で眠っていた材木を削って丸みを帯びた船体を作り、箸を舳先やマストに取り付け、タコ糸で帆を繋いで30センチほどの立派な船を作った。
祖父は太い指で版画用の彫刻刀を器用に操って材木を削りだし、船体を作った。その際中に色々話しをしたのだろうが、思い出すのが難しい。祖父はずいぶん訛っていて、私は申し訳ないとも思わずに何度も聞き直していたことだけはうっすら覚えている。
祖父が作ってくれた船体に、祖父の指示に従って先が細い丸い箸を突き立てて3本のマストにした。父の古くなったワイシャツから切り出した白い布の端を縫い、割り箸を丸く削った帆桁に取り付けて帆に見立て、箸のマストに括りつけた。プラモデル屋で買ってきたラッカーで船底から喫水線までを赤く塗り、喫水線から上を白く塗った。実際にはほとんど祖父がやったのだが、出来上がった時にはなぜかたいそう褒められた。いい船が出来た、いい船が出来た、何度もそう言って喜んだ。
乗せられるといい気なものになる癖は当時も今も変わらない。祖父に褒められた余勢をかって、両親に自慢し、学校に持って行って自慢した。祖父はその夏、自宅のある気仙沼大島という小さな島から遠方に住む孫の顔を見るために1人でやってきて何日か娘夫婦や孫達と暮らし、私の中にしっかりと思い出を残して帰っていった。
当時住んでいたわが家の縁側からも丹沢の山並みを眺めることが出来た。その縁側に座って祖父は船にする材木を削った。手を休めてキセルにタバコを詰めて吹かすこともあった。大きくなったら何になりたいのか、そんなことを聞かれたかもしれない。母を大事にするように、と言われたような気もする。大切なことをさりげなく伝えたかったのかもしれないが、そのたび孫が聞き直すので、仕方なく何度も噛んで含んで話さなければならなかったろう。
祖父の子供たちのうち息子2人は戦争に行って帰らなかった。一番遠い所に嫁いだ娘が母だった。久しぶりに会った娘から、息子の夏休みの宿題が終わっていないので手伝って欲しいと頼まれたのかもしれない。あの夏に限って言えば、宿題を後回しにしておいたのは幸運だった。あくる年の秋、祖父は永眠した。元気に過ごせた最後の夏に一緒に夏休みの宿題ができて本当に幸運だった。(三)
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株式会社ジェイエスピー
横浜に拠点を置くソフトウェア開発・システム開発・
製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業
この「秋が近い」という感覚で思い出すのは夏休みの宿題だ。秋が近い時期になってくると、ああそろそろやらないとなぁとジワジワ追い詰められて来たものだった。毎年早めに片付けて、さっぱりした気持ちで夏休みを過ごした人もいたようだが、私は宿題を後回しにしてしまう一派に属した。
自由研究の類で忘れられないのは、母方の祖父と一緒に作った帆船の模型だ。物置で眠っていた材木を削って丸みを帯びた船体を作り、箸を舳先やマストに取り付け、タコ糸で帆を繋いで30センチほどの立派な船を作った。
祖父は太い指で版画用の彫刻刀を器用に操って材木を削りだし、船体を作った。その際中に色々話しをしたのだろうが、思い出すのが難しい。祖父はずいぶん訛っていて、私は申し訳ないとも思わずに何度も聞き直していたことだけはうっすら覚えている。
祖父が作ってくれた船体に、祖父の指示に従って先が細い丸い箸を突き立てて3本のマストにした。父の古くなったワイシャツから切り出した白い布の端を縫い、割り箸を丸く削った帆桁に取り付けて帆に見立て、箸のマストに括りつけた。プラモデル屋で買ってきたラッカーで船底から喫水線までを赤く塗り、喫水線から上を白く塗った。実際にはほとんど祖父がやったのだが、出来上がった時にはなぜかたいそう褒められた。いい船が出来た、いい船が出来た、何度もそう言って喜んだ。
乗せられるといい気なものになる癖は当時も今も変わらない。祖父に褒められた余勢をかって、両親に自慢し、学校に持って行って自慢した。祖父はその夏、自宅のある気仙沼大島という小さな島から遠方に住む孫の顔を見るために1人でやってきて何日か娘夫婦や孫達と暮らし、私の中にしっかりと思い出を残して帰っていった。
当時住んでいたわが家の縁側からも丹沢の山並みを眺めることが出来た。その縁側に座って祖父は船にする材木を削った。手を休めてキセルにタバコを詰めて吹かすこともあった。大きくなったら何になりたいのか、そんなことを聞かれたかもしれない。母を大事にするように、と言われたような気もする。大切なことをさりげなく伝えたかったのかもしれないが、そのたび孫が聞き直すので、仕方なく何度も噛んで含んで話さなければならなかったろう。
祖父の子供たちのうち息子2人は戦争に行って帰らなかった。一番遠い所に嫁いだ娘が母だった。久しぶりに会った娘から、息子の夏休みの宿題が終わっていないので手伝って欲しいと頼まれたのかもしれない。あの夏に限って言えば、宿題を後回しにしておいたのは幸運だった。あくる年の秋、祖父は永眠した。元気に過ごせた最後の夏に一緒に夏休みの宿題ができて本当に幸運だった。(三)
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