はじまり

　プールの縁と深い所を行ったり来たりするスイマーのように潜って来ては休みを繰り返した末、ある時ふっと力強く泳ぎ出して母はそのまま戻らなかった。まだ聞こえているかもしれないと何度か呼んでみたが無駄であることは十分わかっていた。
　
　昭和と平成を生きて来たと言う意味では私と母は大きく変わらない。ただ大きく変わるのは母が小学生の時期に第二次世界大戦が勃発した、ということだ。
　
　母が生きてきた戦後のこの70年、振り返れば世界は科学技術に支えられて急速に変化してきた。しかし、母のリアルの中にコンピュータやスマートフォンが入り込むことはついに無かった。まだまだ非効率な、勘だけで生きることが許された、のんびりした時代だったのである。
　
　だが2015年の今、こと日本に限れば戦後日本の牽引役だった団塊の世代の多くはPCもスマホも自在に操り、彼らの孫の世代は歩きスマホでゲームをしながらLINEに返信する。ビッグデータを利用して精度が高くなった予測に従えば勘を働かせなくても効率的な行動を取ることが出来る。システム化された社会が現実となりつつある。
　
　視点を世界に向けると貧富の格差はますます広がり、生命に関わる情報すら享受できない人々は増え続けている。温暖化の問題もすでに限界だろう。貧困と人口は同時に増加し先進諸国が株価と為替変化に四苦八苦している最中に、気がつけば取り返しがつかない食料と水不足それに新手の伝染病によるパンデミックが迫って来ていても何ら不思議はない。格差に苦しむ人が増えれば増えるほどテロも増加するだろう。日本に視点を戻しても大規模な地震とそれに続く火山の噴火、海洋温度の上昇による夏冬を問わない巨大低気圧の襲来、温暖化により北上する南方の伝染病媒介の昆虫や動物、少子化による地方の消滅などバラエティーに富んだリスクは数え切れない。
　
　技術の進歩がもたらすシステム化された効率性は今のところまだ人口増加や温暖化による自然破壊などが予見させる暗い未来を払しょくすることなく、やがて機械化されていく世界に対する深い不安を煽る。その上、スピードを増す世界の動きに取り残される恐ろしさを多くの人に感じさせないではおかない。
　
　これまでもそうであったわけだが2015年以降は今までに以上に自分自身を保つ術、コンピュータが模倣しようとしても出来ない領域の技術を磨いて行くことが求められるだろう。おそらくひとりきりでこの不安と戦うのは難しい。ジェイエスピーはただの小さな企業にすぎないが、この不安な社会の中で自分であり続けようとしてもがく仲間を支え合って生きている。あくまで前向きに、そして小さなことにも心を配って、やみくもに早く回ろうとする外界の時間ではなく自分達の時間を大切にして歩んでいる企業だと思っている。この連中なら大丈夫だろう。さあ仲間たちと2015年の一歩を始めよう。（三）
　
　
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