「僕はヒロウ体質なんです」と最初に聞いた時には、あぁ疲れ易い体質なんだなと思ったものだったが、まさか、落し物をよく拾う体質なんだとは思いもしなかった。財布、定期、手袋、マフラー、ハンカチ。今週はもうこれぐらいは拾っている、と彼は言う。小銭は特に多く、なぜか彼の目の前で小銭が床にばらまかれることがよくあるらしい。コロコロ転がる小銭を追って買い物の列を離れざるを得ないことが日常的に発生するという。そう言いながら、居酒屋の椅子の背から落ちていた私のコートを拾いあげてくれた。
「このあいだ、困った物を拾ってしまいましてね」と彼が話し始めたのは、小学6年生の男の子が落としたノートを拾った話しだった。朝の通勤通学時間帯にバサリと音がするので振り返って見ると少年が転んでいる。起き上がって歩き出した少年の足元に1冊のノートが落ちているのを見つけたヒロウ体質の彼は、駆け寄って「落としたよ」とノートを拾い上げて差し出したそうだ。その彼に対し、振り向いた少年は「いらない」という鋭い言葉を返して走り去ってしまったらしい。それまで拾ったものを渡すたび軽い感謝の言葉が返って来ることに慣れてしまった彼にとっては大変なショックで、その場に少しの間凍り付いてしまったそうだ。
「ですが、我に返って、拾ったノートを何の気なしにパラパラとめくって見た時のショックはそれ以上でしたね。見るに堪えないような罵詈雑言がノートの至る所に書かれていたんです。な、なんだこれは、と思いましたよ。よく見ると本人が書いたものじゃないことはすぐわかりました。誰かがノートの持ち主に向けて書いたんです。それもおそらく1人じゃない。」
このままではいけない、拾った物をこのままにしておく訳にいかないし、ノートの持ち主も、このノートに書き込んだ者たちもこのままではいけない、彼はそう考えてどうすべきか数日悩んだと言う。「いらない」と言ったあの少年のノートなのか別の誰かのノートなのか分からなかったが、ノートの裏には持ち主の学校名、学年、氏名が書いてある。ならばと、2通の手紙を添えてノートを学校に届けたそうだ。1通は担任の先生に。1通はノートの持ち主に。
担任の先生には、このノートを拾った経緯と、このノートの持ち主を救ってやって欲しい、という強い気持ちを書き、もう1通、ノートの持ち主宛の手紙も書いたのでそれを読んで本人に渡すかどうか先生に決めて欲しいと書いたという。本人宛の手紙には「負けないで欲しい、そしてどうかゆるしてやって欲しい、と書きました」と居酒屋の喧騒の中で聞き取れないぐらいの静かな声で彼は言った。
「ゆるしてやって欲しいですか。小学生には大変な言葉ですね」と私が言うと「そう。僕の願いというか祈りというか、それを言葉にするとそうなりました」彼はそう答えた。「ゆるすには勇気がいるでしょ。それに、勇気を持てば希望が見えてくると思うんです」。
その夜は忘年会のはずだったが忘れてはいけない気がする夜になった。会が終わって店を出ると冷え込んで冷たい風が強く吹いていた。だが勇気と希望という言葉が私から寒さを遠ざけていた。(三)
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製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業
「このあいだ、困った物を拾ってしまいましてね」と彼が話し始めたのは、小学6年生の男の子が落としたノートを拾った話しだった。朝の通勤通学時間帯にバサリと音がするので振り返って見ると少年が転んでいる。起き上がって歩き出した少年の足元に1冊のノートが落ちているのを見つけたヒロウ体質の彼は、駆け寄って「落としたよ」とノートを拾い上げて差し出したそうだ。その彼に対し、振り向いた少年は「いらない」という鋭い言葉を返して走り去ってしまったらしい。それまで拾ったものを渡すたび軽い感謝の言葉が返って来ることに慣れてしまった彼にとっては大変なショックで、その場に少しの間凍り付いてしまったそうだ。
「ですが、我に返って、拾ったノートを何の気なしにパラパラとめくって見た時のショックはそれ以上でしたね。見るに堪えないような罵詈雑言がノートの至る所に書かれていたんです。な、なんだこれは、と思いましたよ。よく見ると本人が書いたものじゃないことはすぐわかりました。誰かがノートの持ち主に向けて書いたんです。それもおそらく1人じゃない。」
このままではいけない、拾った物をこのままにしておく訳にいかないし、ノートの持ち主も、このノートに書き込んだ者たちもこのままではいけない、彼はそう考えてどうすべきか数日悩んだと言う。「いらない」と言ったあの少年のノートなのか別の誰かのノートなのか分からなかったが、ノートの裏には持ち主の学校名、学年、氏名が書いてある。ならばと、2通の手紙を添えてノートを学校に届けたそうだ。1通は担任の先生に。1通はノートの持ち主に。
担任の先生には、このノートを拾った経緯と、このノートの持ち主を救ってやって欲しい、という強い気持ちを書き、もう1通、ノートの持ち主宛の手紙も書いたのでそれを読んで本人に渡すかどうか先生に決めて欲しいと書いたという。本人宛の手紙には「負けないで欲しい、そしてどうかゆるしてやって欲しい、と書きました」と居酒屋の喧騒の中で聞き取れないぐらいの静かな声で彼は言った。
「ゆるしてやって欲しいですか。小学生には大変な言葉ですね」と私が言うと「そう。僕の願いというか祈りというか、それを言葉にするとそうなりました」彼はそう答えた。「ゆるすには勇気がいるでしょ。それに、勇気を持てば希望が見えてくると思うんです」。
その夜は忘年会のはずだったが忘れてはいけない気がする夜になった。会が終わって店を出ると冷え込んで冷たい風が強く吹いていた。だが勇気と希望という言葉が私から寒さを遠ざけていた。(三)
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