今年は珍しく、津軽に旅をする機会に二度も恵まれた。津軽鉄道に乗りながら、太宰の「津軽」を読む。そんな念願の贅沢な読書の旅を満喫することもできた。読後にバスに乗りながら、疲れていたからだろうか、太宰が語り掛けているように感じた。
「お前の津軽は、どこだ?」
東京・新宿。
笑わせようとしているわけではない。ここが私の「津軽」であり、「第二の故郷」と呼ぶ場所である。高校時代からこの街で青春を謳歌してきた私にとって、彼にとっての金木は新宿御苑であり、岩木山は東京都庁である。太宰は書いている。
「金木は、私の生れた町である。津軽平野のほぼ中央に位し、人口五、六千の、これといふ特徴もないが、どこやら都会ふうにちょっと気取つた町である。善く言へば、水のやうに淡泊であり、悪く言へば、底の浅い見栄坊の町といふことになつてゐる。」
これに倣うとすれば、私の新宿はこのようになる。
「新宿は私を育ててくれた街である。武蔵野台地の東側に位置し、年間10億人以上がこの街の駅で乗り降りしている。その駅の人混みをかき分けて改札を出ても人混みしかなく、その向こうに小さな空と主に見える風景は、出口によって街の表情を変えてしまう。善く言えば、豚骨スープのように濃厚であり、悪く言えば、節操のない、この街に住み着く人を体現している街ということになっている。」
この夏休みは、拠所無い事情で、わが第二の故郷に通うこととなった。母校の茶道部の師匠が倒れ、力不足ながら当面の代役を仰せつかったのだ。十名余りの浴衣姿の女子高生に囲まれて、というと、華やかなイメージを思い浮かべる向きが多いだろうが、稽古の手つきやお点前の出来からすると、心がときめく前に指導の声をかけることに専念せざるを得ない。鼻の下を伸ばすなり、いかがわしいことを考える余裕は、まったくない。ただ一つの役得は、師匠が当時の私に指導してくれた声が、その場から聞こえてくるように感じたことである。
お華の世界でもそうであるように、お茶の世界では得てして、下手が上手の業を見比べても、何が違うかわからないものである。小学生が中学生と教授の点前を見ても、「お茶を点てている」という共通項しか見いだせないものだ。上手が下手の業を見れば、どこまでの修行で何ができ、何ができないかを瞬時に見抜くことができる。私が上手なわけではないが、さすがに長年ついた師匠が、高校生たちにどのレベルを要求し、どのように指導してきたのかは、手に取るようにわかる。それが「受け継ぐ」ということであり、自分自身が「初心に帰る」瞬間でもあると強く感じることができた。機会を得なければできないことで、ありがたいことである。
太宰は「津軽」で旧い友人・知人との旧交を温め、自分の本質と成り立ちを、自ら喝破した。大作家の向こうを張るようで恐縮だが、私もこの夏の経験から、昔の自分を見つめ直すことができた。そう、熱いこと、真っ直ぐなことがよいと信じ、楽しいこと、楽しませることを一生懸命にやっていたあの頃を思い出し、師匠から教わった最も大切なことを思い返す。そうした貴重な時間をもらったのだ。利休居士の教えを歌にしたという「利休百首(利休道歌)」の第一番にこうある。
その道に入(い)らんと思ふ心こそ我身ながらの師匠なりけれ
利休居士が亡くなって425年、太宰が「津軽」を著して、72回目の夏が過ぎていく。(啓)
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製品開発(monipet)、それに農業も手がけるIT企業
「お前の津軽は、どこだ?」
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笑わせようとしているわけではない。ここが私の「津軽」であり、「第二の故郷」と呼ぶ場所である。高校時代からこの街で青春を謳歌してきた私にとって、彼にとっての金木は新宿御苑であり、岩木山は東京都庁である。太宰は書いている。
「金木は、私の生れた町である。津軽平野のほぼ中央に位し、人口五、六千の、これといふ特徴もないが、どこやら都会ふうにちょっと気取つた町である。善く言へば、水のやうに淡泊であり、悪く言へば、底の浅い見栄坊の町といふことになつてゐる。」
これに倣うとすれば、私の新宿はこのようになる。
「新宿は私を育ててくれた街である。武蔵野台地の東側に位置し、年間10億人以上がこの街の駅で乗り降りしている。その駅の人混みをかき分けて改札を出ても人混みしかなく、その向こうに小さな空と主に見える風景は、出口によって街の表情を変えてしまう。善く言えば、豚骨スープのように濃厚であり、悪く言えば、節操のない、この街に住み着く人を体現している街ということになっている。」
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太宰は「津軽」で旧い友人・知人との旧交を温め、自分の本質と成り立ちを、自ら喝破した。大作家の向こうを張るようで恐縮だが、私もこの夏の経験から、昔の自分を見つめ直すことができた。そう、熱いこと、真っ直ぐなことがよいと信じ、楽しいこと、楽しませることを一生懸命にやっていたあの頃を思い出し、師匠から教わった最も大切なことを思い返す。そうした貴重な時間をもらったのだ。利休居士の教えを歌にしたという「利休百首(利休道歌)」の第一番にこうある。
その道に入(い)らんと思ふ心こそ我身ながらの師匠なりけれ
利休居士が亡くなって425年、太宰が「津軽」を著して、72回目の夏が過ぎていく。(啓)
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