旅行に行く前の話です。
息子は、「人が怖い」「電車に乗るのが怖い」と言って、なかなか登校出来ません。
「クモ男みたいなのが天井から『変な奴がいる』みたいな目で見てくるから、電車に乗るのが怖い!」
と、息子は言うのです。
怖いということの比喩なのか、それとも、本当に息子には見えているのでしょうか?
「そんなのおったら怖いなぁ・・・。
でも、見えてるような気がするだけで、絶対何もしてけえへんで。
もし、見えたらママに言い!
ほんまにおるかどうか確かめたるから!」
そう言って、4~5時間目の「社会と情報」の授業を受けるために二人で学校に向かいました。
けれど、学校に着く前に息子の調子が悪くなってしまったので、授業に出ることは諦め、以前申し込んだままになっていた「割引普通回数券」を買うための学割証明書だけ受け取って帰ろうと思いました。
ところが、受付窓口で、
「授業を受けた後でしか学割証はお渡しできません!」
と、ぴしゃりと断られました。
「授業を受けたくてここまで来たのに、調子が悪くなって授業を受けられなくなって・・・、それなのにもらえないのですか?」
と、私が聞くと、
「規則なんです。
不正に学割証を使うことを防ぐために出席回数と照合して発行しているので、今回の授業を受けてからしかお渡しできないことになっています。」
と・・・。
それを聞いて、息子はパニックになって、
「ふざけんな~!」
と叫んで、窓口に置いてあった学割証受付のバインダーを投げつけ、そのまま学校を飛び出して行ってしまいました。
事務の方も、先生方も、登校してきた生徒さん達も、何が起こったのかと驚いているようでした。
パニックになって怒りだすようなことではないけれど、私には息子の悔しさや苦しさが分かります。
「すみません、すみません。
でも、やっとの思いでここまでたどり着いたんです。
調子が悪くて授業を受けられる状態じゃないのは、どうしようもないじゃないですか!」
謝りながら、私は言いました。
「お母さん、レポートの問題は持って帰られましたか?」
「はい、先日。」
「レポートを持って帰ったり、提出したりでも構わないんです。
特別活動等の受付でも構いません。
規則で、ただ学校に寄っただけではお渡し出来ないのです。」
「今週から受付開始の動物園(特別活動)は申し込むつもりでした。」
「それで学割証の発行をさせていただきます。」
「すみません、息子を探してきますので。」
私が手続きしてもよかったのですが、このままだと息子はこの学校に通えなくなると思いました。
とはいえ、再び息子と会えたのはおよそ1時間後、それからさらに息子の気持ちを落ち着けるまでに30分以上かかりました。
「どんな理由があっても、物を投げつけるのは良くないよな。」
「でも、あいつら、何を言っても聞いてくれへんもん!」
「そんなことないよ。
ママは、気持ちを伝えたよ。
物に当たって、それで誰かや物を傷つけでもしたら、警察ごとやで。」
「それでもいい!」
「いいことない!
あんたが傷つく!
暴力で何も伝われへん!
考えてみてよ。
生徒が学校に来て、『授業受けへんけど、学割証ください。』って言われたら、事務員さんは、『授業受けてからしか渡せません。』って、言わんなしょうがないと思えへん?
でも、〇〇は、死ぬような思いをしてここまで来たのに、悔しいよな。
そのままの言葉で伝えたらいいねん。
規則は変えられへんかもしれへんけど、思いは伝わる。
動物園、申し込むんやろ?
物を投げつけたことは謝っとこう。」
元より素直な子なので、息子は私と一緒に学校に戻りました。
「先ほどは、すみません。」
と、私が窓口に声をかけ、学割証明書の発行と動物園(特別活動)の申込みが始まりました。
チューター(担任)の先生が、
「落ち着いたか~?」
と、声をかけにきてくれたので、息子も、
「ほんま、すみませんでした。」
と、謝ることができました。
帰宅後も息子は調子が悪いままでしたが、仕方がありません。
気持ちを切り替えることが難しいので、どうにもならない思いをひきずったままでした。
息子のことは、先生の間では情報を共有していただいているはずですが、事務員さんはどうだったのでしょうか?
情報を共有していただいていても、一瞬のやり取りの中で息子だと気付くことは無理なことかもしれません。
それでも、親と一緒に登校している時点で事情有りなことを察して、もう少し丁寧な応答をしていただけたらなぁと思いました。
今回のことで、事務の方や先生方にも息子のことがしっかりと知れ渡ることになりました。
もちろん、息子が投げ付けて壊したバインダーは弁償することになりました。