城台山日記

 城台山の麓で生まれ、毎日この山に登り、野菜・花づくり、読書、山登りをこよなく愛する年寄りの感動と失敗の生活日記です。

なぜ日本の労働生産性は低いのか 19.7.19

2019-07-19 19:41:35 | 面白い本はないか
 1990年代以降日本の経済がさえないのは、一体どこに原因があるのだろうか。おじさんが、20年来抱いている疑問である。最初は不良債権の速やかな処理に失敗したとの言説が多かったような気がする。さらには、インフレターゲット論者の主張するように日銀の供給するマネー量が少ないためにデフレとなっているとの主張が出てきた。さらには日本の労働生産性が低い結果、賃金が上昇しないために、需要不足となっているという主張もある。

 90年代以降、企業は不況に対処するため、あるいは銀行の貸し渋りに懲りて、正規労働者を非正規にするなどして人件費を減らし、内部留保を積みました。もちろん、外国人による株式の所有が増えたことによる配当金の増額(株価対策)にこたえるためでもあった。しかし、日本の企業の多くが賃金を押さえたため、いわゆる「合成の誤謬」の結果消費が盛り上がらなくなり、当然企業の売り上げも減り、積極的な設備投資もできないまま、追い打ちを掛けるような人口減に直面し、景気がいつまでたっても盛り上がらないというのがおじさんの見立てである。吉川洋さんあたりは、デフレの原因は賃金が上がらないからであると主張していた数少ない論者であった(単におじさんが読んでいないだけかもしれないが)。

 デービッド・アトキンソン著「日本人の勝算」を読んだ。彼の本は既に何冊か読んでいるが、いつもながらわかりやすくしかも説得力がある。もともとアナリストであるが、今や文化財の修復(小西美術工藝社社長)、インバウンドに対する提言は政府を動かす。その彼が、日本の生産性の低さとその引き上げを提言するのは、「新・所得倍増論」、「新・生産性立国論」に続いてである。特に今回、日本の最低賃金が低すぎることに多くのページを割いている。

 おじさんも日本の最低賃金が低すぎると思っていた。しかし、最低賃金を上げると失業者が増えるという反論がすぐに出てくる。では本当にそうなのかと言えば、イギリスでは90年代に最低賃金制が導入され、毎年少しづつあげられている。それでイギリスの失業者が増えたかというとむしろ減った。今やイギリスの最低賃金は9.38ドル(購買力平価)となり、日本の6.50ドルより44%も高い。(ちなみに韓国は7.36ドル)

 なぜ最低賃金を上げるのか。日本は人口が減少する、現在の国民の生活、社会保障を維持するためには、労働生産性を格段にあげることが必要となる。少し前に新聞でも出たが、日本の労働者の質はOECD諸国の中で4位、ところが労働生産性は世界28位。日本では、労働者は優秀であるのに、それに見合う賃金が払われていないことになる(この本では経営者が優秀でないことを指摘している。昔の軍隊でも言われたし、戦後の会社も同じことが言われていた。)著者の言うところは、企業に任せていても労働生産性は上がらない。むしろ外国人労働者を使って人件費を抑えるぐらいしかしない。そこで、政府が最低賃金を計画的に上昇させることが必要となってくる。企業には生産性を上げる動機付けが強く働くことになる。

 さらに、日本の生産性が低い理由として、小さい規模の企業が多すぎること、企業同士の競争が激しすぎること、日本の労働者は歳をとるに従って、勉強=自己のスキルアップのための研修(特に経営者が勉強しない)をしない、輸出をしない(国内相手よりもはるかに努力しなければならない)、女性の活用ができていないことを指摘している。 

 日本の最低賃金は東京が最も高く985円、鹿児島が最も低い761円。1日8時間、月22日働くとすると東京で月173,360円、年間208万円、鹿児島では133,936円、161万円となる。これでまともな暮らしができるか疑問となるような額である。これでは生活保護(医療費、税金がかからない)を引き下げる圧力が出てきても不思議ではない。ちなみに日本では最低賃金制の所管は厚生労働省、イギリスは日本の経産省に相当する省が担当している。社会政策の日本と経済政策のイギリス、この違いは大きいと感じる。

 先日出た個人演説会でも話題は大野インターと冠峠トンネルなど公共事業の話ばかり。そろそろ労働生産性とか最低賃金制の問題について、きちんとした議論が聞きたいものである。
 
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