明治一五〇年に思う⑱
句郎 先日、仲間の市議会議員さんが落選してしまった。商店街を基盤にして市会議員五期の実績を持つ議員さんだったんだ。
華女 一緒に唎酒を楽しんでいる人ね。
句郎 そうなんだ。彼の商売は古着屋だったから。アメリカから着古しのジーパンを輸入して、手広く商売していた。
華女 商店街が賑わっていたころのことね。
句郎 一九七〇年代から八十年代が最も彼の商売が儲かっていたころのなのかな。
華女 ケイさんとの付き合いも二十年近くになるんじゃないの。
句郎 そんなになるかな。
華女 なるんじゃないの。唎酒の会を始めて二十年以上になるんじゃないの。ずっとケイさんは参加していたんでしょ。
句郎 うん。そうだな。
華女 商店街も寂れてしまったからなんじゃないの。
句郎 そうだと思う。商店街が活況を呈していたころが日本の資本主義が全盛のころだったんじゃないかと思うんだ。
華女 バブルの頃が全盛だったんじゃないのかしら。
句郎 もうバブルの頃は衰退の現れだったのかもしれないな。
華女 何か、享楽的な雰囲気が充満していたような気がするわ。
句郎 そんな気がするな。だから仲間に言ったんだ。大学の講義で初めて『西洋の没落』を第一次世界大戦後、ドイツの哲学者シュペングラーが書いているという話を聞いた。さらにホイジンガーの『中世の秋』を読んだ話をしたんだ。今、日本は「近代の秋」、「日本の没落」の時代を生きているのではないかとね。ケイさんの落選は商店街の衰退の結果なんじゃないのかとね。
華女 市役所が新開地に移転してしまったので今まで市の中心だった商店街から人がいなくなってしまったんじゃないの。
句郎 郊外には大きな大きなショッピングセンターがいくつもできた。大きな大きな駐車場を完備しているから駅から遠くても何の障害もない。ただ大きな道路とつながっていればお客さんは集まってくるみたいだ。
華女 そうなのよ。車の運転が難しい老人たちが買い物難民になっているのよ。老人にとっては、身近なところにある商店街が便利だったのに。
句郎 ヨーロッパ中世の秋は同時に封建反動の時代だったんだ。
華女 封建反動とは、どんなことを言うの。
句郎 封建領主の収入が減ってくると領民への収奪が厳しく、税金が高くなっていくというようなことを封建反動というんだ。日本でも江戸時代、町人の台頭によってお武家さんの収入が厳しくなっていったということがあるじゃない。
華女 大きなショッピングセンターのようなものができるということは、ある意味経済の発展なんじゃないの。
句郎 大きな資本の出現は中小の資本の没落につながるからね。大きな資本と一緒に中小の資本も同時に発展していくということはないようだ。
華女 大きな資本が儲かれば、そこからしたり落ちてくるというトリクルダウンということが言われたが、そんなことはなかった。中小の資本はつぶされただけのようだ。
句郎 資本の規模が大きくなればなるほど資本主義経済は衰退していくような気がしてならないんだ。
華女 アイロニーね。
句郎 矛盾かな。今、資本主義反動の時代だと思っているんだ。ヨーロッパにおける中世の秋は封建反動の時代だった。この時、アジアから持ち込まれたネズミが媒介したペストの大流行があり、ヨーロッパの人口の三分の一くらいが亡くなってしまったと言われている。ヨーロッパにおけるペストの流行はアジアとの交易の発展の結果だった。今気候変動は経済活動の隆盛の結果なのかもしれない。気候変動が山火事、台風、大雨、熱波などで世界中が苦しんでいる。