街の医院にて
今日(八月三日)、かかりつけの医院に家内の薬をもらいに行った。開院は九時。私は九時五分に医院に入った。すでに十四、五人の患者が診察を待っていた。全員が老人だった。朝の明るさの中で事務の女性の華やかな声だけが待合室に響いていた。
待合室の真ん中にある背もたれのない椅子を見つけ備え付けの読売新聞を取り、読み始めた。二面の下の方に目を向けると長谷川櫂氏の俳句のコラム欄が目に留まった。
「祖母背負い押しつぶされし啄木忌」鈴木凛
この句について長谷川櫂氏のコメントが載せてある。
「たはむれに母を背負ひてそのあまり軽さに泣きて三歩歩まず」石川啄木
長谷川櫂氏は石川啄木の歌を紹介していた。私はこの石川啄木の歌を読み、待合室で一人微笑んだ。現代に生きるおばぁーちゃんは重いんだ。この重さに現代社会に生きる人間が表現されているんだ。ここに現代の俳句があるんだなと感じた一瞬だった。俳句は現代にあっても基本は笑いなんだ。この笑いに庶民の生活がある。ここに活力がある。ここに生きる力がある。鈴木凛さん、私はあなたのファンになりました。
医院の待合室で一人ニコニコして一時間半の待ち時間がとても短かかった。