醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1207号   白井一道

2019-10-06 10:59:31 | 随筆・小説



    徒然草35段  『手のわろき人の、はばからず』



 「手のわろき人の、はばからず、文書き散らすは、よし。見ぐるしとて、人に書かするは、うるさし」。

 筆で書く文字の下手な人が、遠慮なく手紙をどんどん書くことは良いことだ。みっともないと思って代筆させることは嫌味なものだ。


 38文字で立派な文章を兼好法師は書いている。兼好法師自身は能筆だったのか、それとも悪筆だったのだろうか。能筆な者は字が下手だということなど取るに足りないことだと言うことはたやすいことだろう。悪筆な者が悪筆だということを全く気にすることなく、正々堂々と悪筆な手紙を出すことには笑いを禁じ得ない。
 悪筆な文章の読解に苦しんだ話をyou tube で聞いた。日本共産党中央委員会社会科学研究所は新日本出版社から『新版 資本論』を出版した。このことを記念して不破哲三氏が記念講演をした。この講演の中でマルクスは大変な悪筆だったことを不破氏は述べていた。自分で書いた文字をマルクスは読むことに苦労していた。マルクスの書いた文字を読むことができたのはマルクス夫人と友人のエンゲルスのみだったと不破氏は話していた。マルクスの文字が悪筆だったため、『資本論』第三巻「恐慌論」を編集したエンゲルスは草稿を十二分に検討することなく、まとめてしまったのではないかということを不破氏は述べていた。マルクスの「恐慌論」をまとめた草稿を丹念に調べ直して新しい「恐慌論」を『新版資本論』として出版することができたと不破氏は話していた。 悪筆、マルクスの話は面白かった。