醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1217号   白井一道

2019-10-16 12:11:52 | 随筆・小説



    徒然草45段 『公世の二位のせうとに、』



 公世(きんよ)の二位(にゐ)のせうとに、良覚僧正(りやうがくそうじやう)と聞えしは、極めて腹あしき人なりけり。

 従二位藤原公世(ふじわらのきんよ)の兄、良覚僧正(りやうがくそうじやう)と言われた方は、極めて腹を立てる方であった。

 坊の傍に、大きなる榎の木のありければ、人、「榎木僧正(えのきのそうじょう)」とぞ言ひける。この名然るべからずとて、かの木を伐られにけり。その根のありければ、「きりくひの僧正」と言ひけり。いよいよ腹立ちて、きりくひを掘り捨てたりければ、その跡大きなる堀にてありければ、「堀池僧正」とぞ言ひける。

 良覚僧正の僧房の傍らに榎の大木があったので、人々は「榎木僧正」と呼んでいた。この綽名はけしからんと言って榎の大木を切り倒した。その榎の根があったので人々は「切り株の僧正」と言った。いよいよ良覚僧正は腹を立て、切り株を掘り起こし、捨てるとその跡に大きな堀ができた。すると「堀池僧正」と人々は言うようなった。

 庶民は誰を笑ったのか。それは権力者を民衆は笑った。政治権力と結びついた仏教寺院の僧正たちを庶民は笑った。
教室で偉そうなことを言っている教師が権力者の前で、ペコペコ頭を下げている。この教師を見て、教師の名を呼び捨てにして馬鹿にする高校生がいる。
 日本国民は権力者安倍晋三首相を笑う。国会見学ツアーに参加した小学生が安倍首相に質問した。
「安倍さんはどうして政治家になったんですか」
「父も祖父もこの仕事をしていたので、この職に就いたんですよ」と安倍首相は答えたという。
「福島原子力発電所から出ている汚染水の影響は完全にアンダーコントロールされています」
「完全にアンダーコントロールされているのは自由な報道です」
「福島汚染水の状況はコントロールできており、東京には何の影響も与えない状況になっています」
「コントロールされているのは、マスコミです」
「日本の原発技術は世界一安全です。福島原発事故をコントロールしたのですから」
「世界中に原発輸出の訪問販売をしました」
「世界中どこの国も日本の原発を買ってくれる国はありませんでした」
「安倍首相は世界中で一番アメリカ大統領からの信頼が厚い首相です」
「トランプアメリカ大統領は安倍首相には一言も 文在寅韓国大統領と一緒に板門店に行くと言う話をすることなく、日本を去って行った」
「外交の安倍といわれています。ロシア大統領プーチンとは20数回も会談をしています」
「20数回も安倍首相はプーチンロシア大統領と会談をしているにもかかわらず、歯舞色丹島すら返還されることはありませんでした」
「安倍首相はトランプアメリカ大統領と会談し、ウィンウィンの貿易交渉を実現しました」
「日本政府はアメリカ産大豆、中国への輸出ができなくなった大豆を買わせられる羽目になりました」
 安倍晋三氏を笑い倒そうというコメディアンがいる。松元ヒロさんである。昭和の終盤、『歌舞音曲の自粛』によって仕事が全部キャンセルになったんです。『ご時勢ですから』の一言で片付けられるにはおかしいという不満が転じて、時事ネタを扱うコント集団『ザ・ニュースペーパー』を仲間たちと旗揚げしました」集団から独立後も、一貫して権力者を揶揄し続けてきた。初の著書でも、安倍政権に抗議の声を上げる。「最近、政治ネタがよくウケるんですよ。今の世の中、閉塞感がただよっていて、軍国化していきそうなこわばりがある。そこから解放してくれるのが笑い。お客さんが拍手して笑うことで、『もっと言ってくれ!』と要求するのを感じますと松元ヒロさんは述べている。
ヒロさんは「何を、誰を笑うのか」という基準は「笑いの矛先を自分よりも弱者に向けてはいけない。抗う術がないものにむけてはいけない。相手の尊厳を貶め、いたずらに人を傷つけるものであってはいけない。理不尽な社会に対する武器なんだと思っていないと、暴力装置になってしまう」と言っている。
庶民の笑いは暴力でもあるということを松元ヒロさんは自覚している。弱者を笑う演芸は真の演芸ではないのだろう。