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オバマ政権-「現実主義の政治哲学」☆WPST掲載論稿紹介

2009年02月10日 09時43分48秒 | 日々感じたこととか


オバマ大統領に対する期待と不安が渦巻いている。少なくとも、日本ではバラク・オバマ氏の若さと経験不足が「変化への期待」と「混乱への危惧」というアンビバレントな感情を人々に抱かせているように思われます。例えば、朝日新聞の社説は「オバマ大統領就任―米国再生の挑戦が始まる」(2009年1月20日)、「オバマ氏と世界―柔らかく、したたかに」(2009年1月21日)と大統領の就任式の前後2日に亘ってオバマ大統領への期待を吐露しており、他方、米国共和党人脈と親しい日高義樹氏は『不幸を選択したアメリカ~「オバマ大統領」で世界はどうなる』(PHP研究所)の中でオバマ大統領とオバマ大統領を選択したアメリカへの不安を率直に語っておられる。

朝日新聞曰く、「オバマ大統領の就任で、米国再生への挑戦が始まる。経済危機やイラク戦争で傷ついた米国を「対話と国際協調」で再建し、「賢い政府」による底上げで、厚みのある中流社会を目指せ」(1月20日)、「オバマ新大統領はイスラム世界に関係改善を呼びかけた。米国がイスラム世界と反目していては、中東和平もない。まずイラクからの米軍撤退を進めて、対米不信を解くべきだ」(1月21日)、と。而して、日高氏曰く、「アメリカは未曾有の危機にある。変わらねばならない」。この言葉によってアメリカ国民は魔法をかけられて、「オバマ大統領」を誕生させてしまった。それは、不幸な選択だったのではないか」、と。

而して、日高氏の主張の通り、(政府財政と貿易収支の)膨大な双子の赤字を抱えるアメリカが、オバマ民主党政権下で更に「公共土木事業」を推進し、「膨大な公的資金を金融界と自動車産業に投入」するならば、アメリカの経済はブッシュ(子)政権の時代よりも「もっと惨めで貧しい状態に落ち込む」可能性もなくはないでしょう。また、米軍の世界、就中、「アジアからの撤退」を志向するオバマ民主党政権によって、世界は「弱肉強食」の不安定な時代に突入する怖れもある。

私は、しかし、オバマ大統領への過度な期待もオバマ大統領のアメリカを絶望視するのも間違いではないかと考えています。畢竟、現代の福祉国家における大衆民主主義下の政治において(行政権の肥大と裏腹に)政治指導者がその個性や資質や哲学に基づき独自性を発揮しうる余地は極小化しているというパラドキシカルな現象が一般的に観察されるからであり、それは強大な大統領権限が憲法によって与えられているフランスやアメリカにおいても例外ではないからです。蓋し、日高氏が不安視する(1)財政と経済の破綻、(2)ハードパワー(軍事的プレゼンス)の縮小は(日高氏も認められる通り)「オバマ大統領」の属性ではなく「2009年ー2013年のアメリカ」の属性であり、(a)緊急避難的な財政出動と「実需要をともなわない投機的な金融商品の開発とその取引を規制する金融ルールの再構築」、(b)軍事的にも政治的にも他国の面倒を見る余裕のない状況下でのアメリカ外交の再編という対処指針の大枠は誰が大統領であっても民主共和のどちらが政権を取ったとしても不変であろうと私は考えています。

では、政治指導者の「顔」は政治的に無意味か? もちろん、それも正しくない認識でしょう。国民と世界に対して自分が実現しようと欲する具体的な政策ビジョンと明確な理念を繰り返し訴えることで、僅かとは言え残されたフリーハンドの余地を最大限に効果的に利用して現実を一歩でも半歩でも変革改善すること。それが大衆民主主義における保守政治の神髄であり、実際、新古典派総合(要は、ケインズ派)の財政緩和の中で行き詰まった福祉国家におけるスタグフレーションの閉塞を打ち破ったものは、サッチャー首相・レーガン大統領・小泉純一郎首相というそのような練達の保守政治家の継続的な努力であったと私は考えるからです。畢竟、総論から各論の時代にアメリカも世界も突入したのではないか。ならば、練達の政治家は現実改革の理念とビジョンのみならず政治を機能させるスキルを持たなければならないのではないか。

敷衍すれば、グリーバリゼーションの深化の中での社会主義の崩壊、そして、グローバリゼーションの一層の昂進の中での「世界の唯一の超大国アメリカ」の普通の大国への大政奉還。この課程の中で世界の政治はイデオロギーがせめぎあう総論の時代からスキルの練度が問われる各論の時代に移行しつつあるのかもしれない。他方、一国レヴェルの政治は「経済成長を前提にできる牧歌的な時代」から「環境との共生をにらんだ伝統的価値と地方の再生が不可避な定常型社会」への移行にともない<イデオロギー=国と社会の形>がそれを具現する政治スキルとともに問われる重層的課題の時代、言わば「両正面作戦」が不可避な時代に入ったのかもしれません。そう私は考えています。

では、オバマ大統領にそのような哲学と資質、イデオロギーとスキルが備わっているか否か。正直、それは現在においては不明としか言いようがない。けれども、リアリズムに立った政権運営のスキルの有無はアメリカ国民のみならず日本を含む世界が新しいアメリカ大統領に関して注目すべきポイントであろう。而して、このような問題意識から参考になる記事を目にしましたので以下紹介します。出典は、Washington Postに投稿されたMax Stier 氏の"Obama Signals Shift in Governing Philosophy," January 26, 2009「オバマ大統領、政府統治指針の変更を示唆」です。





"The question we ask today is not whether government is too big or too small, but whether it works."

With this declaration from his inaugural address last week, President Barack Obama laid out a new governing philosophy, elevating the importance of basic government operations to rival political ideology and policy development. Although this shift may seem innocuous to some, it is potentially radical and could eventually make this line the defining passage of the president's historic speech and a hallmark of his administration.

To appreciate the significance of this statement, one needs to understand two things: the nature of government's operational challenges and Obama's actions that add considerable weight to these words.

The American people are looking to the new administration to rejuvenate our economy, resolve the conflicts in Iraq and Afghanistan, revitalize our schools and repair our environment. On each count, even if Obama gets the policy right, the public's expectations will only be met if these policies are well executed. Without dramatic improvements in the way government does its work, they won't be.

There are some fundamental reasons why our federal government's operational health has been allowed to steadily deteriorate. It's hard to change what you don't measure, and our government operates in an environment with very few meaningful and useful measurements for performance. Perhaps more significantly, it is run by short-term political leadership that has little incentive to focus on long-term issues.


「我々が今日問うている問題は、政府が大きすぎるか小さすぎるかなどではなく、政府が機能しているかどうかである」

先週の【2009年1月20日の】就任演説の中のこの宣言をもってバラク・オバマ大統領はそれにより政府を運営する新しい統治指針を提示した。すなわち、政府の基本的な機能を重視して、政治イデオロギーや政策立案にはあまり重きを置かないという姿勢を明らかにしたのだ。この政府運営の指針転換はそう大した影響はないように見えるかもしれない。けれども、この指針転換は潜在的には抜本的な方針転換であり、歴史的な大統領就任演説をこの線で解釈するべきガイドラインであり、而して、オバマ政権が本格的な改革派政権であることの証左となるものだ。

この宣言が帯びる意味の重大さを認識するためには二つのことを理解することが必要である。一つは、政府の機能が変化するということ自体の理解であり、他の一つは、これらの言葉に極めて重要な意味を付加するオバマ氏の行動の理解である。

アメリカ国民は 新政権がアメリカの経済を回復させ、イラクとアフガニスタンにおける紛争を解決すること、アメリカの教育を再活性化、そして、アメリカにおける環境破壊を治癒すること期待している。これらの諸論点に関して、オバマ大統領が正しい政策を選択したとしても、それら選択された政策がきちんと実行された場合にのみ大衆の期待に応えたことになるだろう。つまり、これらの諸論点において政府が問題を解決する方法において劇的な改善なしには政策は実行されたことにはならないだろう。

アメリカ連邦政府の作用の健全性が今まで悪化するがままになってきたについては幾つかの根本的な理由がある。測定されない事柄を変革することは誰に取っても困難であり、その活動に対して意味があり使い勝手のよい測定基準がほとんど存在しない状況でアメリカ連邦政府は活動してきたのだ。蓋し、もっと率直に言えば、アメリカ連邦政府は長期的に取り組むべき課題に焦点を当てる動機をほとんど持っていない短期間の政治的指導力によって運営されてきたのである。




A typical presidential appointee stays in government for roughly two years and is rewarded for crisis management and scoring policy wins. These individuals are highly unlikely to spend significant energy on management issues, when the benefits of such an investment won't be seen until after they are long gone.

To be clear, previous administrations have launched serious efforts to improve government operations, leading to limited, but not insignificant, improvements. But Obama's approach appears to be significantly different. He is not just saying we need to improve government operations. He's saying we need to put this issue front and center. We need to commit as much energy to policy execution as we do to policy development. This interpretation is based not on wishful thinking, but on the president's actions.

Start with the transition. Despite criticism that it was presumptuous, the Obama team heeded the advice of experts and began planning the transition to power months in advance of the election. The result: it was able to fill key White House posts and identify Cabinet nominees faster than any administration in history.


大統領に任命される政府スタッフは通常は約2年間そのポストに留まり、指名された対価として危機管理に従事し政策的な成功を収めることに邁進する。而して、彼等がそのポストを離れるまで投資のご利益がほとんど見られない以上、これらの大統領に任命されたスタッフ諸個人が経営管理的な事柄にかなりのエネルギーを割くなどということはほとんどありそうにないことである。

白黒はっきり言えば、これまでの政権も政府機能を向上させるために極めて真剣に努力してきものの、限られた、しかも、大して意味のない成果を出すにとどまってきた。しかし、オバマ大統領のアプローチはこれらとは根本的に異なるように見える。オバマ大統領は、単に政府の機能を向上させる必要があると述べているのではない。彼はこの論点を中心的で主要な争点にする必要があると述べているのだ。我々は今まで政策立案に割いてきたのと同じ熱意と労力を政策の遂行に注ぐ必要がある。この言葉の解釈は希望的観測に基づくものではなくオバマ大統領の行動から導き出されたものである。

政権の移行期から話しを始めよう。僭越との批判にかかわらず、オバマ氏のチームは専門家の助言に留意しながら、大統領選挙に先立つ数ヵ月前から政権移行の計画を立て始めた。而して、その結果、歴代のどの政権よりも早くホワイトハウスの枢要なポストを埋め、また、政権の閣僚候補を絞り込むことができたのである。



Look at the people the president appointed and their confirmation hearings. Time and again, they were willing to get into the weeds and talk about the importance of management issues to agency success.

Hillary Clinton described the State Department's career employees as "unsung heroes," adding that "they need and deserve the resources, training and support to succeed."

Office of Management and Budget Director Peter Orszag said, "We need to make government work better and smarter; [that] means restoring the prestige and building the capability of the federal workforce."・・・


大統領が指名した人士と彼等の指名を承認する公聴会を想起していただきたい。何度も繰り返し、彼等、指名された候補者は難局に喜んで立ち向かう意思を表明して、而して、彼等が任せられる官庁の成功のためには経営管理的な諸問題が重要であることを自ら進んで述べたではないか。

ヒラリー・クリントン女史は国務省のキャリア職員を評して「縁の下の力持ち的な英雄」と述べた。「彼等は成功するための研修と支援を必要としており、また、それらに値する人々である」とも。

大統領府行政管理予算局のピーター・オルスザグ局長は、「我々【オバマ政権の幹部スタッフ】は政府をより良くかつより洗練された形で動くようにしなければならない。而して、このことは連邦政府の職員の声望を回復させ彼等の職務遂行能力を構築することを意味する」と語った。(中略)



Less than 24 hours after being sworn in, President Obama issued his first two Executive Orders, both of which focused on government operations. One will make government more open and transparent, helping to improve public trust in government. The other raises the ethical and professional standards for those who will serve in his administration, assuring the public that those who work on their behalf will be highly qualified and committed to public service, not their private enrichment.

On day two, he traveled to Foggy Bottom to speak to career employees at the State Department, a powerful acknowledgment of perhaps the most fundamental tenet of effective federal organizations: good government starts with good people.・・・

Barack Obama didn't campaign the past two years to pass legislation. He did it to achieve a set of ambitious goals. That requires not only approving policies, but implementing them. All indications are that our new president understands the importance of government operations. But making government work won't be quick. It won't be easy. But it must be done. Nothing less than the president's pledge to bring real change to America is at stake.


大統領就任の宣誓から24時間以内に、オバマ大統領は彼にとって最初の二本となる大統領令を発行した。而して、それらは両方とも政府の運営に焦点を当てたものだった。すなわち、その一つは政府をより開かれた透明性の高いものにする大統領令であり、政府に対する公衆の信頼を増進することを助けることになろう。他の大統領令は、彼の政権を担うスタッフの倫理的と専門的な行動基準を高い水準に設定するもの。それにより、彼等のために働く職員が上司たる彼等のためではなく公的な職務に邁進できることを国民に対して保障するものである。

就任二日目、オバマ大統領は【国務省のある】フォギー・ボトムに足を延ばして国務省のキャリア職員に話しかけた。それは、効率的な連邦政府組織に関するおそらく最も基本的な考えを述べた力強い表明だった。すなわち、政権の上首尾な始動は士気の高い有能な人々にかかっている、と。(中略)

バラク・オバマ大統領は過去2年間立法活動に指導力を発揮することはなかった。その代わり、彼はより野心的な目的を達成することに注力してきた。而して、それは政策評価のみならず政策の実現をも要求するものだ。蓋し、あらゆる徴候を鑑みるに、我々の新しい大統領は政府機能の重要性を理解している。もちろん、政府を機能させるためには時間が必要であろうし、それは容易なことでもあるまい。けれども、それは必ずや成し遂げられるに違いない。アメリカに真の変化をもたらすという大統領の誓いは何ものにも妨げられるはずはないからである。


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1 コメント

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2009-04-02 13:48:49
「僅かとは言え残されたフリーハンドの余地を最大限に効果的に利用して現実を一歩でも半歩でも変革改善する」と言っておきながら、結論は「アメリカに真の変化をもたらすという大統領の誓いは何ものにも妨げられるはずはない」ですか???
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