こんな報道が「外国人地方選挙権」を巡って話題になっているようです。
●外国人参政権 付与許容説の学者が誤り認める 反対集会で日大教授が明かす
千代田区永田町の憲政記念館で25日に開かれた「永住外国人地方参政権付与に反対する国民集会」。国会議員、地方議員や識者らがげきを飛ばす中、日大の百地章教授(憲法学)が、国内で最初に付与許容説を唱えた学者が自説の誤りを認めたことを明らかにした。
百地氏によると、外国人の参政権について「国政は無理でも地方レベルなら認めていこう」とする部分的許容説は昭和63年に中央大学の教授が初めて提唱。追随論が噴出し、平成7年の最高裁判決の傍論もこの説に影響を受けたとされている。
昨年、百地氏が著書をこの教授に送ったところ、「外国人参政権は、地方選でも違憲と考えます」と書かれた年賀状が送付されてきた。本人に電話で確認したところ、「修正する論文を発表する」と明言したという。
百地氏は「外国人参政権が憲法違反であると、とうとうわが国最初の提唱者にさえ否定されたことは極めて注目すべきこと」と強調。
さらに「わざわざ憲法を持ち出すまでもなく、わが国の運命に責任を持たない外国人を政治に参加させることは危険すぎてできない」と述べた。(引用終了:産経新聞・2010/01/26)
この記事に関して3名のファンの方から問合せがありました。コメント欄にも書きましたが、結構、大切なことだと思い返し、記事にしてアップロードすることにしました。
而して、質問とは次の二つ。
[質問]
この中央大学教授とは誰ですか?
[回答]
おそらく「違憲ではないとの判決の傍論の元になった中央大の教授」とは、長尾一紘さんのこと。而して、(この百地さんの学説史理解は必ずしも正確ではないですが)「部分的許容説は昭和63年に中央大学の教授が初めて提唱」とは、
・「外国人の人権一選挙権を中心として」(『憲法の基本問題-別冊法学教室』:1988)
のことだと思います。尚、この論点に関する長尾さんの見解は、
・「外国人の選挙権」(法学教室54号・1985)
が一般には初見であり、また、
「外国人の選挙権論についての一考察」法学新報第106巻五・六号(1999年)
が更に彫琢を加えたもの。而して、著書の
・『外国人の参政権』(世界思想社・2000年)
そして、最新の論稿
・「永住外国人の地方参政権―現状と課題」『都市問題』92巻4号(2001年)
が現在の所の長尾説の集大成だと私は考えています。
ただ、国立国会図書館の次の調査文献(P172の注8)にも明らかなように、上の最新の論稿でも長尾さんは、外国人の「地方議員の選挙権について、憲法解釈上は許容説を採るが、立法政策論上は否定説を採用」しているわけであり、今般、長尾さんがこの「許容説-立法政策的には不適当」という政治的な主張を越えて、憲法論的にも「違憲説-立法政策的にも不適当」の立場に説を改められたのかどうかは今のところ不明としか言いようがないと思います。
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2008/20080128.pdf
[質問]
外国人参政権反対派のブログでは「日大の百地章教授の地道な啓蒙活動により、自説を撤回した」とか書いている人もいますが、憲法学界全体の様子はどうなのでしょうか?
[回答]
もし、長尾さんが「国政否定-地方要請説」または「国政否定-地方容認説」から「国政否定-地方否定説」に説を本当に変えられるのだとすれば、それに対して影響があったと思われるのは、百地さんの啓蒙活動とともに、この分野の第一人者・青柳幸一(筑波大学)と憲法学の第一人者・長谷部恭男(東京大学)の両氏が、許容説から一歩(しかし明確に)距離を置くことを表明されたことだと思います。
すなわち、
「外国人選挙権・被選挙権と公務就任権」(ジュリスト・2009年4月1日号)。
特に、このジュリスト所収の対談記事で、青柳さんが、1995年最高裁判決傍論の「外国人に対する地方選挙権の付与を憲法が禁じているわけではなく、それは立法政策の問題である」というのは現在の所、(それ以後の判例を拘束する)最高裁の先例とは言えないと明確に語られたのは(そして、その対談に同席されていた長谷部さんがこの青柳発言に特に反論していないことは)、他の憲法研究者に対して極めて大きい影響を及ぼしたのではないか。
蓋し、このジュリストの特集記事は地味だけど許容説には破壊的なものになったの、鴨。と、そう私は考えています。
ということで、
外国人地方選挙権の粉砕まで、もう一歩です。
油断することなく、これからも頑張りましょう。
[備考]
外国人地方選挙権に関する憲法論としては下記拙稿をご参照ください。要は、このイシューに関しては百地さんの主張も厳密に言えば間違いであり、失礼ながらその程度の杜撰な「違憲論」では、民主党系の御用学者に論破される恐れがなくもないということ。
尚、第二の記事が第一の記事のダイジェストになっています。而して、結論だけ知りたい向きは第二の記事だけで十分、鴨(笑)
・外国人地方選挙権を巡る憲法基礎論覚書(壱)~(九)
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/58930300.html
・「もしも外国人地方参政権が成立したら?」の誤謬と真実
http://blogs.yahoo.co.jp/kabu2kaiba/59103437.html