英語と書評 de 海馬之玄関

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アメリカ大統領選挙に見る「United States」としてのアメリカ

2008年10月26日 16時36分02秒 | 日々感じたこととか


◆2008年アメリカ大統領選挙の趨勢

2008年のアメリカ大統領選挙もその趨勢がほぼ見えてきたようです。New York Timesなどは、実質、民主党のオバマ上院議員に「当確」を打ったほどですから(下記URL参照)。

http://www31.ocn.ne.jp/~matsuo2000/08uspelmaplast.html

http://elections.nytimes.com/2008/president/whos-ahead/key-states/map.html

けれど、アメリカの大統領選挙は「Winner Takes All」システム。要は、人口比に基づき各州毎に割り当てられた大統領選挙人を、その州(+Washington D.C.)の選挙投票で一票でも上回った候補がすべていただく仕組み。州の人口にかかわらず各州に2名ずつ割り当てられる連邦上院議員の制度と同様、この大統領選挙人の配分におけるこの「州毎の勝者総取り方式」はアメリカが「アメリカ合州国」であり独立性の高い諸州の連邦であること、正に、United States に他ならないことを痛感させるものだと思います(アメリカ合衆国憲法1条3節1項。ちなみに、下院議員の定数は10年ごとに行われる人口調査に基づき人口比によって州毎に割り当てられています)。

而して、オバマ候補断然有利とは言え、現在も激戦が伝えられているネバダ・ミズーリー・インディアナ・オハイオ・ノースカロライナ・フロリダの6州(この6州に配分された大統領選挙人は選挙人総数全538名中の89名)、また、マケイン候補の逆転の可能性が皆無ではないとされるコロラド・アイオワ・ミネソタ・ニューハンプシャー・ニューメキシコ・ペンシルバニア・バージニア・ワシントン・ウィスコンシンの9州(この9州に配分された大統領選挙人は90名)の結果次第ではマケイン共和党の逆転サヨナラ勝利の芽もなくはない。すでにマケイン&ペイリンの共和党チケットが固めた大統領選挙人は163名と報じられていますから、それにこれら179名を加えれば大統領選挙で勝利するための選挙人の過半数270名に届くことも、少なくとも数字の上では可能なのですから。

而して、11月4日の大統領選挙の投票日に「やはり黒人の大統領はお断りだ!」「宗教心に疑問のある、都会に住む黒人のエリート夫妻には自分の子供の将来を任せられない!」と魂の叫びを上げて共和党のマケイン候補に土壇場で投票先を鞍替えする民主党の白人層とヒスパニック層、就中、民主党予備選挙でヒラリー・クリントン女史を勝たせた、白人人口比率もしくはヒスパニック人口比率の高い諸州、例えば、マサチューセッツ・ニューハンプシャー・ニューメキシコ・ニューヨーク・ペンシルバニア・ロードアイランド、そして、カリフォルニアの諸州で「オバマ→マケイン」の地滑り的な投票先の変更が起きれば、今回、2008年の大統領選挙は歴史に残る大逆転が起こった選挙としてアメリカの政治史に記録されることになるでしょう。

実際、労働者階級をその金城湯池とする民主党、富裕層とキリスト教右派をその支持母体とする共和党というかっての構図とは異なり、オバマ候補のその怜悧さに皮膚感覚で自分達との距離を嗅ぎ取っている白人貧困層は少なくないと報道されている。ならば、ペンシルバニア・ウィスコンシン・バージニアの3州の結果は、世論調査で予想するには限界があり投票箱が閉じられるまでは誰もわからないというのが正直な所かもしれないのです。

朝日新聞はさる9月18日の朝刊一面で「来月26日総選挙へ-3日解散自公合意」と報じました。今日はその10月26日。つまり、今日は朝日新聞の大誤報が確定した日なのですが、New York TimesやWashington Postを始めオバマ候補に当確を打ったアメリカのメディアはマケイン逆転勝利となれば世界的な大誤報を流したことになる。けれども、大統領選挙の世論調査、および(毎回大統領選挙と同時に行われる)全下院議員と三分の1の上院議員の改選に関する各州の世論調査の結果からはマスメディアは「オバマ当確」を打つしかないのであって、その結果が外れるとすればそれは「世論調査の手法には馴染まない投票先決定要因」が作用したことになる。畢竟、New York TimesやWashington Postの「オバマ当確」が結果的に誤報になったとしてもそれは仕方のないことであり、それは、「10月26日総選挙」や所謂「従軍慰安婦」なるものの存在を報じた朝日新聞の誤報のような「嘘」ではなかったと言うべきだと思います。


◆アメリカ政治は州の独立性の理解なしには理解できない

それにしても、アメリカは「United States」の国。大統領選挙の結果も、(ニューヨークとカリフォルニアだけをアメリカと考えるような)金太郎飴的な理解では到底予測は不可能。そして、これはアメリカ憲法に根ざしアメリカ政治の日常風景に垣間見えることなのです。

例えば、1787年制定の合衆国憲法を支持する連邦派(フェデラリスト:ワシントンを頭領に戴きハミルトンとアダムス率いる中央集権派)とこれに批判的な反連邦派(アンチ・フェデラリスト:ジェファーソン率いる州権擁護派)の二つがアメリカ建国後最初の政治的党派。一応、前者が今日の共和党、後者が民主党の源流とされますが、最初期には反連邦派が自派をリパブリカン(共和派)と名乗ったのでややこしい。また、フランクリン・ルーズベルト大統領(民主党)以降は、民主党が大きな政府による福祉国家を、共和党が小さな政府による自己責任の原則が貫徹する自由な国家を標榜しており、「州権の擁護-連邦政府の権限拡大」という軸でアメリカ政治史を鳥瞰することは現在でも有効であるものの、共和党と民主党の政治的立場は歴史的には「あざなえる縄の如き様相を呈してきた」と言わざるを得ないと思います。

而して、上で記した大統領選挙における「勝者総取り方式」(Winner Takes All)は「不合理とも見える結果」をしばしば引き起こすことで、外国のメディアからは「民主主義に反するルール」として評判が悪いのですがそれはアメリカの政治文化に根ざしている。

例えば、ブッシュ前テキサス州知事とゴア副大統領の間で争われた2000年の大統領選挙では、総得票数ではゴア候補がブッシュ候補を上回りながらもこのルールのために涙を飲みました。逆に、言えば、2000年も前回の2004年の大統領選挙でも共和党は全米の30余州で勝利しており、民主党は割り当てられた選挙人数の多いカリフォルニア州やニューヨーク州で効率よく選挙人を積み上げるのがいつものパターンと言える。

2008年の大統領選挙で最大の選挙人数を割り当てられているのは55人のカリフォルニア州ですが、それ以下は、テキサス(34)、ニューヨーク(31)、フロリダ(27)、ペンシルバニア(21)、オハイオ(20)、ミシガン(17)と続きます。この上位7州だけで全選挙人数の38%を占めている。他方、選挙人割当が最低の3人の州が7州(憲法で最少の州より多い選挙人を持てないことになっているワシントンD.C.を含む)、4人が4州、5人が5州。これら割当の少ない15州とD.C.を併せても選挙人は57人であり、これはほぼカリフォルニア1州と互角なのです。

では、なぜ「勝者総取り方式」(Winner Takes All)はアメリカの政治文化に根ざしていると言えるのか。それは、アメリカ憲法の解釈改憲によって漸次連邦政府の権限が強まってきているとはいえ、歴史的にも憲法的にも現在に至るもアメリカは独立性の高い「諸国」が連合した連邦国以外の何ものでもないからです。

よって、日本では親米派に対して「そんなにアメリカの<ポチ>になりたかったら51番目の州にでもしてもらえれば」と揶揄されることもままあるけれども、日本が51番目の州になった場合(2003年の人口統計では)538人の選挙人の160人が日本に割り当てられることになる(この場合、カリフォルニア州は55人→45人に削減)。畢竟、既存の州の政治的な影響力を著しく減じるこの結果を鑑みれば、政治力学的な観点からはアメリカが日本の州としての加盟を認めるはずがないことは自明なのです。

アメリカは地方自治どころかやはり連邦制の国であり、アメリカの政治指導者はこのアメリカ政治の原理を体得した人物にしか務まらない。よって、フランクリン・ルーズベルト大統領から現在のブッシュ大統領まで、第二次世界大戦以降の12人の歴代アメリカ大統領の中で州知事経験者は5名と41.6%を占めていることも偶然ではないと思います。


アメリカ政治は諸州と地域に根ざしている。ある意味、本当のアメリカの心性はニューヨークやカリフォルニアの浮ついたリベラルな表層ではなく、中西部から南部を大河のように貫く大平原地域にこそ横たわっている。まだ、インターネットが普及していなかった15年以上前に私はこのことを体感しました。

1980年代半ば、無線を使った遠隔地教育のあり方を見学させていただいていた中西部はミネソタ州のある大学のディスタンスエデュケーションの光景が今でも目に浮かぶ。ちょうど、3月頃のこと、それこそ隣家まで車で30分という大平原に住んでいる高校生から「HarvardとUniversity of Chicagoからどちらも奨学金付きでアドミッション(合格通知)が来ました」と無線が入ったとき、そのデパートメントの全スタッフが歓声をあげた光景をです。

世論調査の結果通り今回の大統領選挙はオバマ候補の圧勝で終るのかもしれない。しかし、マケイン候補の逆転の可能性も真面目にゼロではない。世論調査を超越したこの状況の背景にある「地域に根ざしたUnited States」としてのアメリカという現象に思いを馳せる時、私はこのミネソタ州の片田舎で立ち会った、自己責任の原則と隣人愛の精神に価値を置くアメリカの人々の心性の発露を連想せざるをえない。地平線を望む大平原にいながらも、国家レヴェルの競争に参加して能力開発を怠ることのない、健全な野心と潔い自己責任の姿勢に満ちた1人の女子高校生をアメリカという社会は応援し誇りに感じる。それは貧困や自己実現が思うようにいかない現状を連邦政府の無策に帰してこと足れりと考えるリベラルなsomethingとは好対照をなしている。

而して、そのような「保守主義の粋が息づく社会」は日本の社会統合の理念とも極めて整合的ではないでしょうか。ならば、アメリカが世界唯一の超大国から極普通の世界一の大国になりつつある現在、他方、日本がその安全保障においても国際政治・経済においてもアメリカとの枢軸関係に頼らざるをえない現在においては、畢竟、日本はアメリカに何かを期待することはそろそろ止めて、政治的価値と社会的価値を共有するこの唯一の同盟国のために何が貢献できるかということこそを考えるべきである。大統領選挙の投票日を10日後に控えて、また、大統領選挙の結果の如何にかかわらず私はそう考えています。

尚、アメリカ大統領選挙に関しては、私が作成した下記の「Yahoo検定」をご参照くだされば嬉しいと思います。



・アメリカ大統領選挙観戦資格検定(四級)(五級)(六級)
 http://minna.cert.yahoo.co.jp/ormh/cert_list?order=0



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