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懐かしい英語教材(11)☆松本圭子『TOEICテスト実戦シリーズ』

2006年01月16日 17時08分15秒 | 英語教材の話題

TOEIC(Test of English for International Communication)は今年平成18年5月実施の第122回公開テストから新形式に移行します。昨年末にはオフィシャルガイドも新形式対応版『TOEIC®テスト新公式問題集』が出版され、そろそろ巷の書店には「新TOEIC対応!」を謳った参考書や問題集が溢れてきました。これは教材の作り手側に関しては商魂たくましいというか研究熱心さの表れなのでしょうが、何よりもそれは日本人の英語教育好き/英語テスト好きの反映だと思います。


今回紹介する書籍は私がTOEIC対策書籍としては(特に、どんなに少なく見積もってもTOEIC受験者の三分の2を占める645点以下の英語学習者にとっては)最高のものの一つと考えるものです。松本圭子『TOEIC®テスト実戦シリーズ』(東京書籍)。

テスト対策本の宿命で、本書も新形式のTOEICに対応すべく早晩改訂されるでしょう。実際、大手書店でも品切れ状態であり出版社でも在庫僅少扱いになっています。しかし、本書は単にTOEIC対策教材としてだけではなく英語力自体の向上にも役立つものであり;独習者が効率的な学習方法を身につけるための工夫が随所になされた優れものだと思います。絶版や改訂を目前にしたこのタイミングで、今回、<TOEIC対策教材紹介>のコーナーではなく<懐かしい英語教材>のコーナーで取り上げることにした所以です。

『TOEIC®テスト実戦シリーズ』(東京書籍)は全5巻のTOEIC対策本;著者は神田外語学院・神田外語キャリアカレッジでTOEIC対策講座を担当しておられる松本圭子さんとその(多分)愉快な仲間たち:同僚の英語のネーティブスピーカーの方々です。全5巻1,196頁の構えは次の通り。

Vol.1 総合対策(2003年3月28日発行・260頁)
Vol.2 模擬問題集(2003年3月28日発行・290頁)
Vol.3 リスニング(2003年7月25日発行・210頁)
Vol.4 グラマー&ボキャブラリー(2003年12月26日発行・214頁)
Vol.5 リーディング(2004年8月30日発行・222頁)


千ページを超えるボリュームですが、収録されている問題数は約1,120問と本試験の5.6回分にしかすぎません。このボリュームは例えば、東進ブックスの『TOEICテスト システム攻略<3>模試600問編』『TOEICテストパーフェクト模試600問』2冊分より少ない。また、毎号TOEIC本試験問題1回分を収録している『TOEIC® Test プラス・マガジン』(株式会社リント・旧『TOEIC Friend』の後身雑誌)6冊分にすぎません。


では『TOEIC®テスト実戦シリーズ』はその分説明が懇切丁寧なのかというと、そうとも言えない(笑)。そう思います。どんな書籍にも著者の関心の濃淡や得意不得意がにじみ出るもので、著者は文法的な説明やTOEIC問題の構造分析にはあまり関心を持っておられないと思われます。誤解なきように! 本書もTOEIC問題のパターン分析は極めて緻密に行われていますが、このタイプの問題では選択肢にどんな「落とし穴/トラップ」が仕掛けられる傾向があるか、その「落とし穴/トラップ」は選択肢の何番目に置かれる傾向があるか等々の構造分析が弱いということです。


もう少し具体的に言いましょう。例えば、「頻度を表す副詞の位置」の説明は他書にはあまり触れられておらず参考になります(「数的に表せるかどうか」を基準に副詞の位置を決める説明:”Vol.1”p.156, ”Vol.4”p.140ff)。しかし、比較表現や後置修飾などは東進衛星予備校の安河内哲也さんのTOEIC対策本に比べれば手薄ですし;接続詞と前置詞の違いの説明などは(whileとduringの使い分けやunlessとwithoutの違いの説明は)中村澄子『1日1分レッスン!TOEIC Test―時間のないあなたに!即効250点up』 (祥伝社文庫・2003年12月)のような文庫にも本書は負けていると思います。


KABUは著者の松本圭子さんに恨みでもあるのか? そんなことはありません。松本さんとお会いしたことはありませんが、同じ小田急線新百合ヶ丘に住んでいる者として彼女には連帯感(?)さえ感じているくらいです。私の言いたいポイントはシンプルですが、その主張の前提は次の通りです。

TOEIC対策本の良し悪しは、結局、①読者の英語力とTOEICの目標スコア、あるいは、②英語学習に使える時間と期間、さらには、③英語自体や学習方法について相談できる方が身近にいるかどうかという個人的な要素によって決まってくる主観的で相対的な事柄である、と。要は、誰にとっても良い教材などはこの世に存在しないし、更に言えば、内容的にはどんなに素晴らしい教材でも学習を継続できにくいタイプの教材は悪い教材なのだ、と。

そして、一般的には(あくまでも一般論ですが)、TOEIC400点未満の入門者や600点未満の初級者は文法知識と基本的な語彙語法の習得に特化した教材が、そして、TOEIC730点以下の中級者にはボキャブラリーとイデオムの増強および1~2センテンスの英文の厳密な聞き取りに注力しているものが、また、現在TOEIC850点前後でこれから数ヶ月で更に高いスコアを目指しておられる方にはご自分の弱点をピンポイントで補強する教材と模擬試験問題集がベストになると思います。

ならば、初級者・中級者の方には上でコメントした、中村澄子『1日1分レッスン!TOEIC Test』や東進ブックス『TOEICテスト システム攻略<3>模試600問編』『TOEICテストパーフェクト模試600問』は適した教材と言えるでしょうし;受験者の大多数、受験者の80%以上を占めるTOEIC730点以下の方や三分の2を占める645点以下の方にとって(★)、しかも、周りに指導者・相談相手がいない独習者を想定した場合、私は『TOEIC®テスト実戦シリーズ』は最高の教材の一つと思うのです。私がそう考える理由は次の通りです。

★註:TOEICのスコア分布
「これまでのTOEIC公開テストのスコア分布」



(1)全5巻1,200頁のボリュームながら読みやすい

問題の分量も適度に絞られており、TOEIC対策のノウハウだけでなく「英語が好きになる」、「英語が得意になったら楽しいだろうな→もっと英語を勉強したいな」と読者に感じさせるページ当りの情報が豊富なのです。例えば、1,200頁の本書に2,000問から3,000問の問題を盛り込んだとしたら(作り手としては良心的な仕事をしたと見えるかもしれませんが)、おそらく、そんなハードな本を読み通す読者は少なかったと思います。


(2)全1,120問の問題にタックルすることで力がつく

瘠せても枯れても1,000問以上の問題に取り組むのですから、そのプロセスで身につく英語力も半端じゃありません。本書は、読みやすいだけでなく力がつく教材なのです。

本書をきちんと3回通りでも学習すれば(これは忙しい社会人でも1週間1冊のペースで取り組むとして4ヶ月で達成可能です)、例えば、ボキャブラリーにしても最低でも5、000語レヴェルに到達できるでしょうし、文法に関してもセンター試験レヴェルの問題ならほぼ全問正解できる知識は身につくと思います。それに何と言っても、全5冊、横に積んだら8センチになる分量を見たら、「自分は本当にこれ読み通したんだ!」という感激と達成感は自信につながらないはずはありません。


(3)継続は力なり:独習者のための情報が豊富

著者の松本圭子さんはこう語っておられます。「問題集を何度も違った形で活用していただきたい」そのために「ひとりでもできるように「音声付コラム」や「リスニングの勉強方」も、盛り込みました」(”Vol.3”p.6)、と。リスニングにおけるディクテーションやシャドーウィング(リピーティング)の勉強の仕方は独習者には大変参考になると思いますが、このような意図はVol.3(リスニング)・Vol.4(グラマー&ボキャブラリー)・ Vol.5(リーディング)の巻末にある学習相談室に結晶しているだけでなく、全5巻の全編に溢れています。



(4)TOEICを英語力向上の契機にして欲しいという著者の情熱

松本圭子さんは『実戦シリーズ』の冒頭にこう書かれています。「TOEICを単に「攻略すべき対象」で済ませてしまい、TOEIC対策を「ハイスコアをとるためのノウハウ」で終わらせてしまう一部の風潮は、非常にもったいないことです。私は、最初に本を出してから現在までに、「テストを『攻略』するだけではしょうがない。実生活にどう活かすかが問題だ」と考えるようになりました。(中略)本書を手に取ってくださったみなさん、どうぞスコアアップをめざしながら、TOEIC対策学習を実際に英語を使う場面とリンクさせてみてください。どうせ勉強するなら、受験対策の延長線上に英語を活用することまで視野に入れましょう」(”Vol.1”「はじめに」)、と。

厳しい言い方ですが、通常この情熱が空回りして、TOEIC対策教材として拙劣なだけでなく英語教材としても失速している教材が少なくない。しかし、本『TOEIC®テスト実戦シリーズ』は見事にこの両立に成功している。というか、本書は効率的なTOEICスコアアップの道は効果的な<使える英語力獲得>そのものであるという信念に基づいている。そして、それを実現するには幾つかの工夫と著者の力量が前提になるにせよこの信念は真理なのだろうな、と私は本『TOEIC®テスト実戦シリーズ』を通読してみてそう感じました。



(5)著者は「いい人だな」と感じられること

著者と読者の相性。千ページものTOEIC対策本を読み通す場合、実は、これは結構大切なことです。そして、「ディクテーションに関しては、「1回で書き取れないときは、何度も聞いたほうがいいのでしょうか」という質問をよく受けます。私は、何が何でも聞き取る、という姿勢をもつために、わかるまで何度も聞く練習も意味があると思います」(”Vol.3”p.25)とか「応用学習:自分の家の留守電メッセージを英語で作ってみよう←(著者もやってみました)」(”Vol.3”p.181)という著者松本さんの肉声を聞いて、この方は良い人だなと好感を持ちました。この記事には英語が全く出ていないのでおまけにもう一つ、私を松本圭子ファンにした例を最後に書いておきます。パートⅢの問題。


Why is Shawn retiring?
(A)He got a good retirement pension.
(B)He won the lottery.
(C)His luck ran out.
(D)He inherited a big fortune.

M:Boy, Shawn’s a lucky man to retire at such a young age.
W:Don’t you really think so? Why is he retiring so young anyway?
M:Didn’t you hear? His lucky number came up.

正解(B)

欧米人にはlucky numberを決め、いつも同じ番号で宝くじを購入する人がいる。ショーンはその数字で大金を当て、以後仕事をしなくてもよいらしい(←うらやましい)。(”Vol.3”p.45, pp.84-85)



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5 コメント

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恐縮してしまいました (松本圭子)
2006-02-26 00:43:06
こんにちは。

著者の松本です。

自分の名前を検索して、このページにたどり着きましたが、書籍専門家の方の暖かいお言葉に涙が出ました。明日からの仕事の励みになります!!!



「TOEICを英語力向上の契機にして欲しい」これを言うのは簡単ですが、私の立場でこのやり方を貫くのは、なかなか難しいこともあり、そのことを「商売下手」と周囲にいつも言われています・・・。ですが、いい大人が時間をかけてTOEICのための勉強やりますよということなら、お手伝いする立場としては、どうせならテスト対策だけに終わらせず、その先のことにつなげたいんですよね。組織では実現しづらいフラストレーション発散のため?もともとはTOEICクラスに集まっていたが、本当はテストが嫌い?な英語好きメンバーで、毎週日曜の午前中は新百合ヶ丘某所で英語の雑誌を読んだりもしています。日曜日に新百合に集結している怪しい団体をみたら、私を探してください。皆スリムなので、たぶん一番太っているのが私です(笑) いつかお会いできるのを楽しみに、本日はこれにて失礼いたします。春休みにゆっくりこのblogを読ませていただきます

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いらっしゃいませ (KABU)
2006-02-26 18:52:05
松本先生にいらしていただけるとは、こちらこそ恐縮です。今後とも宜しくお願いいたします。



実は、このコメントは今日の早朝確認していたのですが、松本先生に気配を悟られないようにして「その怪しい団体を見つけよう」と思い(←嘘嘘!)、一応、図書館周りと駅の近所の喫茶店は覗いたのですよ。



でも、せっかくの日曜日の午前中に、英語読んでいるような「怪しい団体」は流石に見つけることができませんでした。残念
返信する
地下組織は地下2階に棲息 (まつもと)
2006-02-26 21:42:53
 TOEIC実戦シリーズを作る時に、新百合の勉強会の仲間に何度か実験台になってもらい、彼らが間違うように書き直したりしました。前書きにたくさん書いてある名前の人たちの何人かとは、本日も会いましたよ!今日は、昨日のHerald-Asahiのスケートの記事と、2月号Reader's Digestの記事を、おやつを食べながら読みました。通常は、全員が購読している(購だけかも)TIMEの記事を、おやつを食べながら読んでいます。。昨晩これを見つけ、最初KABUさんに棲息地も含めてメールを書いて送ろうと思ったのですが、blog内でアドレスを探して見つけられませんでした。



なお、私が大変に驚いたのは、お会いしたこともないのに、自分でも認識していなかった私の信念(らしきもの)や弱点までをしっかり見抜かれていたことです。たぶんKABUさんは、私などが気軽にお話をしてはいけない、業界?の大御所で、相当にシャープで、しかし「書籍を理解」しようと読んでくださる、著者にとっては大変ありがたい方なのだと想像されます。自分の表現力や語彙力の幼稚さが恥ずかしい・・・。



では、また現れますので、よろしくお願いいたします

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いえいえそんな&怪しい団体捕捉せり (KABU)
2006-02-27 05:26:55
対企業の「人事研修企画」の中で英語研修・教育に携わっているものです。講師経験はGREとGMATのみです。



ただ、児童英会話から大学受験、英米の学部・大学院留学準備まで思えばいろいろ携わってはきましたけれど・・・。でも、松本さんと同世代です(松本さんがほんの少し「お姉さん」!)。



某経路から「4月上旬までの怪しい団体の活動場所」を確認しました。ふむふむ、「23-3+(7×89×0)+1」の地下二階で新百合丘を揺るがす不穏な活動が行われているとは、・・・。これは当局に密告せざるをえない! 



P/S

メールは「本家サイト」のトップページ(↓)の下の方に入り口があります。



http://www31.ocn.ne.jp/~matsuo2000/newpage2.htm
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参りました・・・・ (まつもと)
2006-02-27 09:10:48
どうしてこれだけのヒントでわかるの?

怖くて、もう今日からぼさぼさの髪で近所も歩けません・・・。完全犯罪は無理だとわかった。ちなみにGMATなんか受験しても絶対点数取れない

23-3+(7×89×0)+1

の計算に手間取るくらいだから・・・・(がっくり)



私は趣味が高じて英語を社会人になってから始めたという遅咲き(咲いてないまま散る恐れも?)なので、全然KABUさんとキャリアや格が違うかも・・・。本を書くようになったのは、叔父が作家で、その趣味人的生活に子供の頃から憧れを抱いていたからです。紙が好きで、文芸春秋から、夕刊フジまで。きょうの料理から、Tarzanまで、何でもあれば食べます。



自分の良いところは、学習者の延長線上に常にいるという点なのですが、それはもちろん悪いところでもあるとの自覚もあり・・・。この春は、某経路から企業研修の仕事をする可能性が出てきたりもして、自分の威厳のなさが不安です。エリート新人君に「マジ使えねぇ」なんて言われるんじゃないかと(泣)。いろいろ教えていただきたいです。近日中に覚悟して、メールアドレスに出頭します。いや~参った。。。
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