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政治責任の構造と射程-福島原発事故報告書に世界から寄せられた批判を媒介として(3)

2013年01月04日 01時45分34秒 | 雑記帳



Japan’s Unsatisfying Nuclear Report


By Japanese standards, the report released Thursday by the Fukushima Nuclear Accident Independent Investigation Commission could be considered remarkable. Its 641 pages, drawing on town-hall meetings, household surveys, more than 900 hours of hearings and interviews with 1,167 people are the product of an unprecedented six-month inquiry -- the first independent investigation in Japan to have subpoena power.

Its account of the March 11, 2011, earthquake, tsunami and ensuing nuclear meltdown, which displaced about 160,000 people and left parts of Japan unlivable, differs in crucial ways from those of Japan’s nuclear regulatory agencies, the Tokyo Electric Power Co.that operated the plants and then-Prime Minister Naoto Kan. Most important, the report squarely blames the catastrophe on a pattern of human failure, not a freakish act of nature.

Yet for all its detail and willingness to label the Fukushima disaster as “profoundly manmade,” the report does not identify which men (and this being Japan, there probably weren’t many women) failed. Instead, it sweepingly indicts “the ingrained conventions of Japanese culture,” effectively letting individual culprits off the hook. Its conclusions and recommendations avoid any discussion of prosecution or punishment. ・・・



日本の原発事故報告書の不十分さについて


日本におけるこれまでの評価基準から見れば、木曜日【2012年7月5日】に福島原発事故に関する国会事故調査委員会が公表した報告書は注目に値するものなのかもしれない。全641頁に及ぶその報告書は、地域住民への説明会や地域での対話集会、世帯調査、総計1167人の関係者からの延べ900時間を越える聴聞と取材をもとにして作成されたものであり、6カ月で成し遂げられた前例のない調査活動の成果物なのだから-実際、その調査活動は、証人や証拠の出頭・提出を命じることのできる召喚権限を与えられた【to have subpoena power】日本では初めてとなる【政府から】独立した機関の調査活動だった。

この報告書が行った説明。2011年3月11日に発生した地震と津波、そして、それらに引き続いて惹起した原子力発電所の炉心熔解に関する報告書の説明の内容は、日本の原子力規制行政を担う諸機関、事故の舞台となった原子力発電所を運用していた東京電力、または、当時の菅直人首相から出されている諸々の説明とは根本的な所で異なっている。いずれにせよ、福島の原発の炉心熔解-メルトダウン-によって、160000人もの人々が居住地から退避よぎなくされ、よって、住民が退去させられた日本のその地域は現在も人が住むには不適当な状態のままなのだ。而して、この報告書の説明の白眉は、福島原発事故という大惨事を尋常ならざる自然災害などではなく人災の一種に他ならないと明確に認定したことである。

さわなりながら、事故の顛末を詳細に検証し、その上で福島原発事故を積極的に「幾つもの意味で人災」と呼んでいるにもかかわらず、その人災を引き起こしたのはどこの誰々であると、つまり、この人災の張本人が誰であるかをこの報告書は具体的に特定していない(ちなみに、日本で惹起した人災であってみれば、この「張本人」の中にそう多くの女性が含まれていたとは思われないのだけれども)。具体的な氏名を挙げて張本人を告発するのではなく、この報告書は、福島原発事故の張本人を「日本の社会に特殊な日本人の意識や行動様式、すなわち、「日本人の国民性」に根っ子を持つ諸個人の行動パターンや行動規範」と漠然かつ大雑把に捉えることで、もって、事故原因に責任を負うべき者として具体的に名前が取り沙汰されている諸個人を実に効果的に無罪放免にしている。畢竟、この報告書の結論とその理路の行き着くところ、刑事訴追や刑事処罰の是非を巡るあらゆる議論は無意味になるのだろうから。(中略)





Where the report falls seriously short, however, is the aspect that has drawn the most approving attention: its conclusion that the near-cataclysm at Fukushima was, at bottom, a cultural mishap. It is both a copout and a cliche to fall back on Japan’s “groupism” and say that “had other Japanese been in the shoes of those who bear responsibility for this accident, the result may well have been the same.”

Japan is hardly the only country where safety regulations are poorly enforced and old-boy networks protect industry interests. Witness the 2006 Sago mine explosion in the U.S., where hundreds of earlier safety violations brought only low fines, and the revolving door between the coal mining industry and the U.S. Department of Interior was in full swing.

Moreover, notwithstanding the commission’s lament about the Japanese “reluctance to question authority,” many citizens did repeatedly express their concerns about the safety of Tepco’s Fukushima reactors, including legislators from Japan’s Communist Party. Their warnings were brushed aside by those in power. Let’s hope that the otherwise instructive findings and recommendations of this commission are not.


而して、その点、そのようなものの見方が採用された経緯に関して充分に理由づけられているとは到底思えないのだけれど、この原発事故全体を見るものの見方を記した箇所で、国会事故調査委員会は誰よりも遥かに好意的な目線を採用している。福島で起こった、天変地異までもう一歩というくらいの今回の事態も、煎じ詰めれば、文化的な性向に起因する不運な出来事であるとしたこの報告書の結論部分のことだ。ことほど左様に、事故の原因を日本の「集団主義」に帰したり、もしくは、「もし、今回の事故に責任を負っている人々の代わりに、その人々に責任を生じさせたポジションに誰か別の日本人が就いていたとしても、福島原発事故の結果はほとんど同じだったのではなかろうか」と述べるのは、単なる責任転嫁か、もしくは、事態をうやむやにするための常套句、あるいは、その両方にすぎないだろう。

実際、日本は、安全基準が満足に実施されることがない唯一の国でも、あるいは、業界出身者のネットワークがその業界が属する産業自体の利益を守っている唯一の国でもないのだ。例えば、2006年にアメリカで起こったサゴ鉱山爆発事故を想起して欲しい。そこでは、事故の前に数百件もの安全基準違反が軽い罰金を支払うことで処理されてきたのである。加之、鉱山産業とそれを管轄するアメリカ内務省との間の人事交流もまた、両者間の出入り口たる回転ドアーは「絶好調!」もののフル回転状態なのである。

更に言えば、国会事故調査委員会は、日本人に特有の「権威者に事を問いただすことに消極的な態度」を嘆いているが、しかし、日本共産党の国会議員を含む、多くの市民は再三再四にわたり東京電力の福島原発の安全性について危惧を表明してきた。そして、数次にわたり表明されてきたこれらの危惧や懸念は権力を握っている者から脇に追いやられてきたのだ。而して、固定観念に塗れた日本文化論に逃げ込んだ姑息な結論部分は到底容認できないにしても、願わくば、この国会事故調査委員会の報告書のその結論以外の部分に盛り込まれている、教訓的な諸発見や勧告的意見もまた権力を握っている者から脇に追いやられるようなことにならないことを。と、そう我々は切に希望する。

(ブルームバーグ社説の紹介はここまで)



◆追加資料-国内報道紹介


▼原発事故で東電旧経営陣ら100人超聴取へ 来春にも立件判断

東京電力福島第1原発事故をめぐり、東電幹部らが業務上過失致死傷などの罪で告訴・告発された問題で、検察当局が当時の関係者ら100人超をリストアップし、年明け後に本格聴取に乗り出す方針を固めたことが29日、捜査関係者への取材で分かった。事情聴取は原子力安全委員会(廃止)の班目春樹元委員長(64)や、東電の旧経営陣も対象。政権中枢にいた民主党議員らの聴取も視野に入れ、来春にも立件の可否を判断するもようだ。

検察当局は8月以降、各地の地検に出ていた業務上過失致死傷罪などでの告訴・告発を相次いで受理。その後、東京と福島の両地検に案件を集約させた。告訴・告発の対象には、菅直人元首相(66)や海江田万里元経済産業相(63)=現民主党代表=ら当時の政権首脳▽班目氏や原子力安全・保安院(廃止)の寺坂信昭元院長(59)ら原発行政担当者▽東電旧経営陣ら幹部-などが名を連ねる。

関係者によると、検察当局がリストアップした100人超の関係者は告訴・告発された人をはじめ、東電の実務担当者や原子力規制庁の職員ら。津波対策、地震発生後の避難対応などのグループに分類し、捜査する。応援検事を既に両地検に投入しており、年内に東電の事故調査委員会の担当社員や、放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI」を所管する文部科学省の担当者らから事情を聴いたという。・・・

検察当局は今後、リスト化した関係者以外にも、事故と死亡との因果関係を調べるため「震災関連死」と認定された被災者の遺族からも、参考人として聴取する方針を決めている。また、同罪以外にも公害犯罪処罰法違反罪や原子炉等規制法違反罪など、他に適用できる法令がないか具体的な検討作業に着手している。


(産経新聞・2012年12月30日






<続く>




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