警視庁生活安全部少年事件課・少年事件第三係、通称少年課の富野輝彦が主人公である。係長から刃物による傷害事件発生と言われ、神田錦町の神田学園高校の現場に30歳の相棒有沢巡査長と赴くところからストーリーが始まる。
現場で、富野・有沢は神田署強行犯係の橘川刑事から概略の説明を受ける。化学の実験準備室で、化学担当の教師、中大路力也40歳が2年生の西条文弥17歳にサバイバルナイフで刺されて重傷を負った。西条は既に身柄を拘束されている。その時、現場には女子生徒が居合わせた。被疑者と同じ2年生、17歳の池垣亞紀である。
被害者の中大路と現場に居合わせた池垣は外濠通りに面して建つ大学病院に救急で運ばれ、被疑者西条は神田署に運ばれていた。現場は有沢に任せ、富野は病院に向かう。病院には、神田署強行犯係の木原刑事が居た。木原と富野は、医者の許可を得られた時点で、池垣に事情聴取をした。中大路先生といっしょにいるところに突然西条が現れて、先生を刺したという。その場に居合わせた理由を言っても理解してもらえないと思うが、法力を発揮するために必要なので中大路とセックスをしていたと池垣は発言した。
病院を出ようとしたとき、1階の人混みの中に、富野は全身白づくめの安倍孝景と、全身黒づくめの鬼龍光一、祓い師二人を見つけた。富野はすぐに、中大路・池垣の二人に関わる事情で病院に来ているのだと見抜く。富野は孝景と鬼龍を神田署に同行させる。
神田署の会議室を借りて、富田は有沢と一緒に孝景・鬼龍と話し合う。鬼龍は中大路と池垣はおそらく玄妙道の術者だろうと語る。そして、鬼龍は真言立川流のことに話を転じ、真立川流という一派が生き残り、今でも密かに活動していると言われていると付け加えた。
富野は祓い師をある種の専門家とみなして、孝景・鬼龍を同席させて、被疑者の西条に事情聴取をすることになる。西条は、化学の実験準備室に行くと、池垣が中大路によりレイプされていると思ったと言い、かあっと頭の中が熱くなり、はっと気がつけば中大路が血だらけで倒れていて、自分はナイフを手にしていたと発言した。ナイフはその準備室にあったと言う。
木原は上司の橘川に、池垣が法力の発揮のために必要と語った部分を無視して、中大路と池垣がセックスをしていたという事実の側面だけを報告した。一方、西条は中大路が池垣をレイプしている現場を目撃して、ナイフで刺してしまったと発言していた。
このことから、橘川はまず、西条は少年による傷害事件なので、家裁送致となり、あとは富野の少年課が引きつぐものと判断する。一方、刺された被害者中大路は立場が一転する。中大路が池垣をレイプしたとするなら、強行犯係にとっては逮捕の対象になると橘川は判断する。刑法改正により、かつての強姦罪は強制性交等罪と規定されることになり、親告罪ではなく罰則も強化されていたのだ。池垣は18歳未満なので、起訴されたらレイプが証明されなくても、淫行条例違反で起訴されることになる。橘川は中大路の逮捕を考え始めた。
つまり、中大路は教師としての生命と絶たれる羽目になる。この事件の状況について、富野は「犯罪性がないことを犯罪だと言って取り締まるのは問題」だと考える。
この辺り、強姦罪についての刑法改正というトピックスを著者はうまくストーリーに組み込んでいる。
ストーリーの主な登場人物は出揃った。さて、ストーリーはどんな方向に展開していくのか? 読者にとっては興味津々、引き込まれていかざるを得ない。
よくある少年による傷害事件と単純視して富野は現場に足を運んだのだが、オカルト絡みの得体の知れない背景が関わっている捜査に進展していく。
最初は言い渋っていた孝景がこの事件に関わる事になったのは、彼の属する奥州勢が宮内庁から依頼を受けたことによる。その結果、孝景が動くことになったと言う。鬼龍は、鬼道は歴代の皇室と深い関わりがあるので、宮内庁の依頼は珍しいことではないと言う。孝景は自分一人が動くだけでは対処が難しいかもしれないと、鬼龍に協力を依頼したという。
池垣は法力を得る為に必要なのでセックスをしたと発言した。鬼龍は、台密系の玄妙道ならば、儀式としてセックスすることは普通のことと言う。それは東密系の真立川流でも同様なのだと。
富野は、もし法力を得る為のセックスならば、橘川が狙う中大路逮捕は問題となると考える。法解釈と法の適用についてどう考え、どんな対応ができるのか。これは興味深い事例でもある。富野は打開策を見いだせるか。ここに一つのサブテーマがうまく組み込まれている。
このストーリーは、徳川幕府の繁栄と安泰のために、台密(天台宗)の天海上人が江戸のグランドデザインを行い、そこに結界を組み込んだことに絡んでいき、平将門の霊力が深く関係する形に展開していく。さらには明治維新への時代転換の裏話(陰謀説)が関わってきて、問題意識が現代に及ぶ(中央と地方のギャップ)。江戸と東京が表裏一体となり、少年による傷害事件がとんでもない方向へとスケールアップし、オカルトの対峙へと進展する。この構想展開はけっこう楽しめる。いわば都市伝説レベルの伝承や穿った見方を巧みにいくつも取り込んで行き、自家薬籠化してしまう。この構想の面白さが、ストーリー展開のナルホド感を高めていく。落語の三題噺的な発想を巧みに取り込んだストーリーのスケールアップ展開ともみることができる。
最後の最後に、富野が無自覚のままで、鬼龍のいうトミ氏の霊力を発揮するというところがまたおもしろい。
今回は、橘川刑事が意外やオカルトファンであることが途中で明らかになる。そして、そのオカルト知識の豊富なオタクぶりが巧みに活かされていく。この人物設定がストーリーを円滑に進行させる一つの要にもなっている。逆にそういう人物キャラクターの造形がなければ、このストーリーをスムーズに面白く展開させる運びにはならなかったと言える。
鬼龍光一・安倍孝景・富野輝彦のオカルトトリオが三者三様に活動し協力する物語としてエンターテインメント性に富む。「小説 野性時代」の連載物が2019年3月に単行本として出版された。
ご一読ありがとうございます。
本書に関連して、関心の波及から検索してみたものを一覧にしておきたい。
長髓彦 :ウィキペディア
長髄彦の後裔とその奉斎神社 :「古樹紀之房間」
鬼道の実態 :「邪馬台国・奇跡の解法」
玄旨帰命壇 :ウィキペディア
玄旨帰命壇 :「コトバンク」
摩多羅神 東照三所権現の一柱、玄旨帰命壇の本尊 :「神旅 仏旅 むすび旅」
立川流 :ウィキペディア
今どきの立川流って何でもありなのか :「霊媒師 蓮鬼のブログ」
天海 :ウィキペディア
妙見堂と妙見菩薩・平将門ー資料集 :「梅松山 円泉寺」
妙見菩薩 :「コトバンク」
神田明神 ホームページ
鎧神社 公式サイト
平将門首塚 :「パワースポット研究所」
早稲田水稲荷神社 公式サイト
筑土八幡神社 :「東京 神楽坂ガイド」
兜神社 :「パワースポット研究所」
鳥越神社 :「東京都寺社案内 猫の足あと」
靖國神社 ホームページ
築地本願寺 ホームページ
霊園・葬儀所 一覧 :「都立霊園公式サイト TOKYO霊園さんぽ」
ジャーディン・マセソン :ウィキペディア
ジェームス・マセソン :ウィキペディア
ウィリアム・ジャーディン(船医) :ウィキペディア
グラバー商会 :「コトバンク」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
このブログを書き始めた以降に、徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『キンモクセイ』 朝日新聞出版
『カットバック 警視庁FCⅡ』 毎日新聞出版社
『棲月 隠蔽捜査7』 新潮社
『回帰 警視庁強行犯係・樋口顕』 幻冬舎
『変幻』 講談社
『アンカー』 集英社
『継続捜査ゼミ』 講談社
『サーベル警視庁』 角川春樹事務所
『去就 隠蔽捜査6』 新潮社
『マル暴総監』 実業之日本社
『臥龍 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
『真贋』 双葉社
『防諜捜査』 文藝春秋
『海に消えた神々』 双葉文庫
『潮流 東京湾臨海署安積班』 角川春樹事務所
『豹変』 角川書店
『憑物 [祓師・鬼龍光一]』 中公文庫
『陰陽 [祓師・鬼龍光一]』 中公文庫
『鬼龍』 中公文庫
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新5版 (62冊)
現場で、富野・有沢は神田署強行犯係の橘川刑事から概略の説明を受ける。化学の実験準備室で、化学担当の教師、中大路力也40歳が2年生の西条文弥17歳にサバイバルナイフで刺されて重傷を負った。西条は既に身柄を拘束されている。その時、現場には女子生徒が居合わせた。被疑者と同じ2年生、17歳の池垣亞紀である。
被害者の中大路と現場に居合わせた池垣は外濠通りに面して建つ大学病院に救急で運ばれ、被疑者西条は神田署に運ばれていた。現場は有沢に任せ、富野は病院に向かう。病院には、神田署強行犯係の木原刑事が居た。木原と富野は、医者の許可を得られた時点で、池垣に事情聴取をした。中大路先生といっしょにいるところに突然西条が現れて、先生を刺したという。その場に居合わせた理由を言っても理解してもらえないと思うが、法力を発揮するために必要なので中大路とセックスをしていたと池垣は発言した。
病院を出ようとしたとき、1階の人混みの中に、富野は全身白づくめの安倍孝景と、全身黒づくめの鬼龍光一、祓い師二人を見つけた。富野はすぐに、中大路・池垣の二人に関わる事情で病院に来ているのだと見抜く。富野は孝景と鬼龍を神田署に同行させる。
神田署の会議室を借りて、富田は有沢と一緒に孝景・鬼龍と話し合う。鬼龍は中大路と池垣はおそらく玄妙道の術者だろうと語る。そして、鬼龍は真言立川流のことに話を転じ、真立川流という一派が生き残り、今でも密かに活動していると言われていると付け加えた。
富野は祓い師をある種の専門家とみなして、孝景・鬼龍を同席させて、被疑者の西条に事情聴取をすることになる。西条は、化学の実験準備室に行くと、池垣が中大路によりレイプされていると思ったと言い、かあっと頭の中が熱くなり、はっと気がつけば中大路が血だらけで倒れていて、自分はナイフを手にしていたと発言した。ナイフはその準備室にあったと言う。
木原は上司の橘川に、池垣が法力の発揮のために必要と語った部分を無視して、中大路と池垣がセックスをしていたという事実の側面だけを報告した。一方、西条は中大路が池垣をレイプしている現場を目撃して、ナイフで刺してしまったと発言していた。
このことから、橘川はまず、西条は少年による傷害事件なので、家裁送致となり、あとは富野の少年課が引きつぐものと判断する。一方、刺された被害者中大路は立場が一転する。中大路が池垣をレイプしたとするなら、強行犯係にとっては逮捕の対象になると橘川は判断する。刑法改正により、かつての強姦罪は強制性交等罪と規定されることになり、親告罪ではなく罰則も強化されていたのだ。池垣は18歳未満なので、起訴されたらレイプが証明されなくても、淫行条例違反で起訴されることになる。橘川は中大路の逮捕を考え始めた。
つまり、中大路は教師としての生命と絶たれる羽目になる。この事件の状況について、富野は「犯罪性がないことを犯罪だと言って取り締まるのは問題」だと考える。
この辺り、強姦罪についての刑法改正というトピックスを著者はうまくストーリーに組み込んでいる。
ストーリーの主な登場人物は出揃った。さて、ストーリーはどんな方向に展開していくのか? 読者にとっては興味津々、引き込まれていかざるを得ない。
よくある少年による傷害事件と単純視して富野は現場に足を運んだのだが、オカルト絡みの得体の知れない背景が関わっている捜査に進展していく。
最初は言い渋っていた孝景がこの事件に関わる事になったのは、彼の属する奥州勢が宮内庁から依頼を受けたことによる。その結果、孝景が動くことになったと言う。鬼龍は、鬼道は歴代の皇室と深い関わりがあるので、宮内庁の依頼は珍しいことではないと言う。孝景は自分一人が動くだけでは対処が難しいかもしれないと、鬼龍に協力を依頼したという。
池垣は法力を得る為に必要なのでセックスをしたと発言した。鬼龍は、台密系の玄妙道ならば、儀式としてセックスすることは普通のことと言う。それは東密系の真立川流でも同様なのだと。
富野は、もし法力を得る為のセックスならば、橘川が狙う中大路逮捕は問題となると考える。法解釈と法の適用についてどう考え、どんな対応ができるのか。これは興味深い事例でもある。富野は打開策を見いだせるか。ここに一つのサブテーマがうまく組み込まれている。
このストーリーは、徳川幕府の繁栄と安泰のために、台密(天台宗)の天海上人が江戸のグランドデザインを行い、そこに結界を組み込んだことに絡んでいき、平将門の霊力が深く関係する形に展開していく。さらには明治維新への時代転換の裏話(陰謀説)が関わってきて、問題意識が現代に及ぶ(中央と地方のギャップ)。江戸と東京が表裏一体となり、少年による傷害事件がとんでもない方向へとスケールアップし、オカルトの対峙へと進展する。この構想展開はけっこう楽しめる。いわば都市伝説レベルの伝承や穿った見方を巧みにいくつも取り込んで行き、自家薬籠化してしまう。この構想の面白さが、ストーリー展開のナルホド感を高めていく。落語の三題噺的な発想を巧みに取り込んだストーリーのスケールアップ展開ともみることができる。
最後の最後に、富野が無自覚のままで、鬼龍のいうトミ氏の霊力を発揮するというところがまたおもしろい。
今回は、橘川刑事が意外やオカルトファンであることが途中で明らかになる。そして、そのオカルト知識の豊富なオタクぶりが巧みに活かされていく。この人物設定がストーリーを円滑に進行させる一つの要にもなっている。逆にそういう人物キャラクターの造形がなければ、このストーリーをスムーズに面白く展開させる運びにはならなかったと言える。
鬼龍光一・安倍孝景・富野輝彦のオカルトトリオが三者三様に活動し協力する物語としてエンターテインメント性に富む。「小説 野性時代」の連載物が2019年3月に単行本として出版された。
ご一読ありがとうございます。
本書に関連して、関心の波及から検索してみたものを一覧にしておきたい。
長髓彦 :ウィキペディア
長髄彦の後裔とその奉斎神社 :「古樹紀之房間」
鬼道の実態 :「邪馬台国・奇跡の解法」
玄旨帰命壇 :ウィキペディア
玄旨帰命壇 :「コトバンク」
摩多羅神 東照三所権現の一柱、玄旨帰命壇の本尊 :「神旅 仏旅 むすび旅」
立川流 :ウィキペディア
今どきの立川流って何でもありなのか :「霊媒師 蓮鬼のブログ」
天海 :ウィキペディア
妙見堂と妙見菩薩・平将門ー資料集 :「梅松山 円泉寺」
妙見菩薩 :「コトバンク」
神田明神 ホームページ
鎧神社 公式サイト
平将門首塚 :「パワースポット研究所」
早稲田水稲荷神社 公式サイト
筑土八幡神社 :「東京 神楽坂ガイド」
兜神社 :「パワースポット研究所」
鳥越神社 :「東京都寺社案内 猫の足あと」
靖國神社 ホームページ
築地本願寺 ホームページ
霊園・葬儀所 一覧 :「都立霊園公式サイト TOKYO霊園さんぽ」
ジャーディン・マセソン :ウィキペディア
ジェームス・マセソン :ウィキペディア
ウィリアム・ジャーディン(船医) :ウィキペディア
グラバー商会 :「コトバンク」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
このブログを書き始めた以降に、徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『キンモクセイ』 朝日新聞出版
『カットバック 警視庁FCⅡ』 毎日新聞出版社
『棲月 隠蔽捜査7』 新潮社
『回帰 警視庁強行犯係・樋口顕』 幻冬舎
『変幻』 講談社
『アンカー』 集英社
『継続捜査ゼミ』 講談社
『サーベル警視庁』 角川春樹事務所
『去就 隠蔽捜査6』 新潮社
『マル暴総監』 実業之日本社
『臥龍 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
『真贋』 双葉社
『防諜捜査』 文藝春秋
『海に消えた神々』 双葉文庫
『潮流 東京湾臨海署安積班』 角川春樹事務所
『豹変』 角川書店
『憑物 [祓師・鬼龍光一]』 中公文庫
『陰陽 [祓師・鬼龍光一]』 中公文庫
『鬼龍』 中公文庫
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新5版 (62冊)
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