うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

一緒にいれたら…

2021年06月20日 22時14分42秒 | ノベルズ

それは午後一番の対談仕事が終わって、ようやく執務室で人心地ついたその時だった。
<代表、お忙しい時に申し訳ありませんが…>
本当に申し訳なさそうに内線が回ってきた。かけてきたのは軍の整備班だ。
「どうした?何か面倒ごとか?」
<それが…>
奥歯に物の挟まったような言い難さ。
何だかデジャヴーを感じるような…
<まことに申し上げにくいのですが、その…インフィニットジャスティスを整備しようとしたのですけれど…>
「わかった。すぐ行く。」
即答する。もう既にその先の言葉は理解している。
アイツは以前にも同じ過ちを犯してくれた。
そう―――愛機のコクピットの中に、パステルカラーに彩られた、私の顔のプリントされたブランケットやらクッションやら(※昨年「プレバン」で販売された例のブツ)を持ち込んでいたのだ。
それを見ただけでも顔から火が出るほど恥ずかしい思いをし、「二度とやるな!」と正座で説教を食らわせてやったのに。
以来アイツは「整備は自分で行うからいい」とエンジニアたちにキツく言い渡していたらしいが、そうはいくか。
抜き打ちで整備させてみたら、案の定のエマージェンシーだ。
肩を怒らせてハンガーに立ち入った私に、整備員たちはオロオロしながら私とコクピットを見比べている。
「で、今回は何が入っていたんだ?」
「それが…」
両手で皆が「どうぞ」と促してくれる先を見れば―――
「これは…『私』か!?」
驚きと呆れるのとで、口が閉まらない。
まるで遠足だか運動会の前の日の子供のやる「明日天気になーぁれ♪」のように、てるてる坊主ならぬ「代表坊主(?)」がいくつもぶら下がっているではないか。
指さして口をパクパクするだけの私に、整備員たちは皆「心中、お察しします…」とばかりに沈痛な面持ちで顔を伏せる。
いかん…頭がクラクラしてきた。
「…取り外せ。」
それだけ言い残して今度は軍令部に確認する。
「ザラ准将はいるか?」
<本日は公休ですが…あの、何か?>
「いや、何でもない。ありがとう。」
そう言い残して携帯をブチっと切ってそのまま軍の官舎へ向かう。

アイツの部屋の前に仁王立ちすると、思いっきりピンポンラリーを繰り返した。
「静かにしてくれないか?いい加減分かったから!」
ドアの奥から近づいてくる声。明らかに何かに集中していて、邪魔をされた時の彼の不機嫌な声だ。
鍵が開くとともに、私が突入する。
「か、カガリ!?ちょっと待って―――」
待つ訳なかろう!そのまま上がり込んでズンズン進み、奴がつい先ほどまで引きこもっていたと思われる部屋に入ると、そこには―――

「何でこんなに私(のぬいぐるみ)を作っているんだよ!?」
コクピットの中だけではない。部屋の中には私を模したあのぬいぐるみが山ほど作られた挙句、箱に何体も積み込まれている。
彼は(しまった…)というような顔をしていたけれど、これを見逃すことはできない。
「肖像権侵害、とまではまぁ言わないにしても、何でお前、こんなにぬいぐるみばっかり作りまくっているんだ?保育園のバザーにでも出す気か?」
「そうじゃなくって…」
こちらが言う前にキチンと正座待機している姿はなんとも泣かせてくれるが、甘やかすわけにはいかない。
「その、最近は洋上任務も多くて、その分君の姿を見ることができないから、君が見守ってくれていると思うと励みになると思って、つい…」
「それは分かった。だが何故に大量生産?」
コイツの「量産癖」はラクスのハロを見れば一発で分かるが、だからと言って誰かにあげているとは思えない。インジャスのコクピッド以外で見かけたことないもん。(あったらそれはそれで滅茶苦茶恥ずかしい///)
そうしたら彼は幾つも絆創膏を巻いた自分の指をじっと見ながら、こわごわ告白を始めた。
「始めは一体だけのつもりだったんだが、なんかペットロボットみたいに上手く作れなくって…満足のいくものができるまで何個も作っていたら、この通りに…」
正に、フィギアを集めだしたら止まらないヲタクの鑑みたいだ。ため息つきつつ私は
「だったら失敗作は捨てればいいだろう?」
そう言ったら、彼は表情を強張らせて、慌てて言った。
「そんな!全部君なんだ!君を捨てられるわけないだろう!」
「・・・」
呆れてものが言えん。次々作り出したら、みんな私だから捨てられなくなってしまった、と。それでこの箱一杯か。
「はぁ~~~…」
頭を抱えて盛大にため息をつく。
よく見れば、くせ毛の金髪に太い眉。さらにきりっとした口元。
「…これが、お前の見ている「私」のデフォルメか。なんか表情が厳しいというか…」
「いや、乗艦中、あるいは戦闘になったとき、凛々しい君がいてくれる方が、力が沸く気がして。」
「でもぬいぐるみって、普通可愛いものだろう?できたらニッコリしている方が―――」
「それは駄目だ。」
いきなり強気に上目遣いになった。
「何で?」
「それは、その…/// 笑った顔の君は、「俺だけの物」!だから…///」
「・・・」
そりゃあれだけ積み込んでいたら、流石に誰かに見られるとは思うけど。だからと言って、曰く「凛として凛々しい私」だって、皆に見られるのはどうかと思うが///
はて、一体どう裁いたらいいんだ。
「ごめん…断りもなく、作ってしまって…」
彼の愛情表現が滅茶苦茶下手なのはよ~~~~く知っている。しかし、これで准将のモチベーションを下げさせるわけにはいかない。我が国の危機につながる。それなら―――
「…お前のぬいぐるみも作れ。」
「え!?」
翡翠が驚いたように見開く。
「だーかーらー、お前のも作れ!そして私に一個くれ!そうすれば、お前が国防で出払っている時でも、私もお前と一緒に居られるだろう?///」
「カガリ…」
何だか目が<パァアアア✨>って輝きだした彼は、直ぐに作業に没頭しだした。

そして

私の手元には二体のぬいぐるみ。
「私にも、ニッコリ笑っている私がよかったのにな…」
するとぬいぐるみの私が「私の笑顔はアスランだけのものだ!」と言わんばかりに凛と主張している。
「あはは。」
可笑しくなって、二人を抱いてベッドに潜る。
何処にいても、二人は一緒だ。
そのうち、本人同士も、一緒にいられたら…いいな。

なんてね♥



・・・fin.

コメント
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