うたたね日記

アニヲタ管理人の日常を囁いております。

painkiller

2022年12月03日 23時03分45秒 | ノベルズ

真っ黒な空と海の間を、ただひたすらにAAの陰を求めて飛行する。

稲妻と共に現れた2つの機影。一つはレジェンド、もう一つは―――

(―――「アンタが・・・アンタが悪いんだ!!」)

そう言ってディスティニーのアロンダイト ビームソードがグフを貫く。

コクピットを僅かに外したのは、シンに残されていた情の欠片。

彼に悲鳴にも似た怒声が鼓膜を貫ぬく。

そして、瞼に浮かぶんだ。

シンの泣き顔が・・・

 

すまない、シン。

家族を失い、オーブに対する失望だけでも、お前は苦しい思いをしていたのに、更に辛い役目を負わせてしまって。

少しずつ理解し合えると思っていたのに、いつの間にか歯車がかみ合わなくなって、ここに来てお前に撃たれることになるなんて―――

こんな形で終わるんだったら、もっと・・・もっと、もっとお前と話しておくべきだった―――!

お前の苦しみも、願いも、ちゃんと聞いてやっていたら、もっと分かりあえたかもしれないのに!

いつも俺は、あとで気づくんだ。大事なことはすぐ目の前にあったのに。

胸が苦しい・・・痛い!体中が引き裂かれそうだ!

息ができない!俺は、後悔を抱いたまま、苦しんで死ぬしかないのか―――!?

(―――「諦めることはないさ!」)

・・・誰だ・・・? いや、俺はこの声を、言葉を知っている。

(―――「また話せるかもしれないじゃないか!」)

海に落ちたこの身体がどんどん冷えているのに、言葉と共に何かが触れて、そこから温かさが身体に広がっていく・・・

あんなに走っていた体中の痛みが嘘のように引いていく・・・

何が起きて・・・―――

 

 

「―――・・・ぁ」

ゆっくりと瞼を開ければ無機質な天井が見える。

そうか、ここはAAの医務室だったな。

「・・・」

自由に動けるのは現段階で瞳だけ。それを必死に気配に向ければ、そこには柔らかな金糸を無造作に散らばせたまま、俺のベッドの傍らでうつぶせたまま動かない彼女。

(カガリ―――)

思わず目を見開く。間違いなく彼女がそこにいる!

スカンジナビアからの脱出の際、ミネルバのタンホイザーに撃ち抜かれたと思われたAA。そしてシンに撃たれたフリーダム。海中からの激しい爆発を目の当たりにし、俺の理性はそこで崩れ去った。

(―――俺は、何をしたかったんだ!?キラと、カガリを失ってまで、なんで俺はここにいる!?)

信じたくはなかった。いや、何故か本能が告げていたんだ。

(―――彼女は死んではいない!!)

その願いが、今、目の前に現実として存在してくれている!

混み上がってくる嬉しさと安堵感と、様々な感情が綯交ぜになりながら心から溢れだす。

だが俺の意識が戻った気配に彼女が動くかと思われたが、ピクリともしない。

「―――っ!」

痛む首をできる限界まで向けてみれば、彼女は横顔をこちらに向けたままうつ伏せ、閉じられた金眼がピクリとも動かない代わりに、その背中がゆっくり上下に動いていた。

(眠っているのか・・・)

一定の呼吸のリズム。彼女の口から零れる吐息。僅かに瞼に滲んでいるのは・・・涙・・・?

(俺はまた、君を泣かせてしまったな―――)

もう彼女が二度と泣かないようにと、そのためにZAFTで戦争回避の道を探すはずだったのに、蓋を開けてみれば後悔ばかり。そしてまた、今こうして彼女を悲しませている。

(俺は、一体何がしたかったんだろう…)

悔しくて目の奥が熱くなってくる。

熱く・・・―――そうか、さっきまでの悪夢。あそこから引き揚げてくれた温かい気配は、やっぱり君だったのか。

そう思ったら、とてつもなく彼女に触れたくなって、動かない腕を必死に伸ばす。

「っ!!」

その瞬間、痛みがまた身体中を走っていく。

「ぅ…ぁ…!」

でも、諦めたくない!君がここにいることを感じたい!だから、どうか―――!

「―――坊主、静かにしてやりな。」

痛みをこらえた喘ぎが漏れたのだろうか。隣のベッドにいたフラガ少佐がボソッと俺を制した。

「お嬢ちゃん、とにかく動きっぱなしみたいだぜ。オーブ本国や他国の情報収集やら、自軍の配備。もう一人の坊主と戦闘にも出てさ。その・・・彼女、オーブのお姫さんなんだろ? あの国は今かなり追い詰められているからな。責任感強そうだし、相当身体も精神も疲れ切っているんだろ。僅かでもいい。今は寝かせてやれよ。」

「・・・」

彼の言うことは最もだ。

彼女と生きてこうして対面できただけでも、今は喜ぶべきなのに。

…いや、それ以前にこうして君と話す資格が俺にはあるんだろうか。

ディオキアでも、必死にオーブを守ろうとする彼女たちの行いは、全くの無意味だと言い聞かせた。語彙を強くしたのは、少しでも戦場から遠ざけたかったからだ。それだけで彼女らを守れる、そう思いこんでいたのはとんでもない間違いだった。

命以上に、彼女は「オーブの理念」を何より重んじていた。理念が奪われるくらいなら、誇りを持って最後までそれを貫く―――彼女の一番傍にいたこの2年間で、俺はそれを知っていたはずなのに…なんでそんな大切なことを忘れてしまっていたのだろう。

それどころか、そんな彼女やキラの制止を聞かなかったのは俺だ。大事なものを守ると言いながら、守ることもできず。更に目の前にいた仲間も傷つけて。俺はこうして生きていることに意味があるんだろうか。

情けなくて口元が歪む。鏡で見なくても、君に見せられないような、相当酷い顔をしているだろうな、俺は。

喉の奥から呻きにも似た嗚咽が漏れそうになる。すると、

「それにしてもよく動くよ、このお嬢ちゃんは。」

「?」

テレビモニターを見つめていた少佐が、また独り言のように俺に語りだした。

「時間があれば少しでも休めばいいのに、それでもたった数秒でも時間が空くと、お前のところに来て、顔見て帰っていくんだ。張りつめていた顔がさ、生きているのを確認するみたいにそっとお前さんに触れると、そりゃもう安心したように笑顔綻ばせてさ。・・・お前は幸せ者だよ。そこまで大事に思ってくれる人がいるんだから。」

カーテンの隙間から、そっと笑んでいる少佐の口元が見えた。

そしてもう一度彼女を見やる。

 

俺はまた甘えているのかな、君の心の広さと温かさに。

事実上、何処にも属していないAAだが、行動は一貫していた。

―――オーブを守る―――

その為にカガリは動いていた。キラが傍にいたとはいえ、実際オーブへの責任を背負っているのはカガリだ。

たった18歳で、国のために殉ずる覚悟で全ての責任を取ろうと、1人考え、奮戦し、涙を流し、それでもまた立ち上がる…

どれだけの孤独と苦しみを人知れず抱えていたのだろう・・・

(―――よく、頑張ったな。)

そう言って抱きしめて、その背を撫ぜて、労わってやりたい!

そう思って気づく。

本当は、ただそれだけでよかったのかもしれない。護衛をしていた時も、彼女は一人で抱え込んでばかりで、何もできないことが歯がゆくて仕方なかった。俺は彼女に守られてばかりいるのが嫌で、父の行ったことへの責任と自分に何ができるかを探してプラントに戻って―――彼女から離れてしまった。

本当に守りたかったものは、こんな近くにいたのに。俺は何を勘違いしていたんだろう。

ふと枕代わりの腕の先、その左手には俺がかつて渡した、あの指輪がまだつけられている。

(君はまだ、俺を想ってくれているのだろうか・・・?)

驕っているのかもしれない。でも、それでもこの渇望は止められない。

俺は―――まだ諦めなくていいのかな。君のことを。だったら―――

「―――!」

声を漏らさず、その温もりを渇望する。

たった1㎝。君までの距離。それがこんなに遠く感じるなんて。

・・・いや、違うな。距離だけだったらディオキアで意見を違えた時の方が、余程遠かった。

だったらこれくらいの距離、今なら、今の俺なら越えて見せる―――!

「くっ!」

痛みが伸ばした腕どころか、全身に襲い掛かってくる。

それでも構わない。この痛みは罰だ。彼女を苦しめた・・・だから、甘んじて受け入れよう。

(――あと少し!僅かで良い!この指先だけでも、君に届いてくれ―――!)

痛みをこらえた指先に、ふわりと柔らかな感覚――・・・

「・・・ぁ・・・」

ようやく、ようやく指先が君に触れた―――柔らかくて温かい、君の温もり。

最後に抱きしめたあの時と同じ。なんて遠い昔のことかと思う。

あの島に降ったスコールのように、降りしきる俺の涙は止むこともない。歓喜と安堵と、そして罪悪が入り混じったそれ。君はこんな俺を見たら、どう思うだろうか?失望するだろうか、それとも・・・

いや、いいんだ。

これが今の俺だ。一番素直な俺の気持ちが今ここにある。何度だって君に伝えるよ、今の想いを。

(俺たちは、また話せる)

キラも言っていた。そうだ、君ともまた話せる。

どんなに時を隔てても、距離ができても、話してもう一度心が繋がれたら。

そのためには、先ず俺が立ち上がらなければ。

 

(でも今は―――)

 

今だけは、君の温もりに、甘えさせてもらいたい。

触れているだけで、こんなに心が安らいで、身体が軽くなっていく。

だから、今は少しだけ、君を―――・・・

 

 

・・・Fin.

 

 

***


突発書きのアスカガ、というかアスラン一人語り(またの名を、感情駄々洩れ💧)です。

種運命の39~40話くらいで、アスカガ二人で医務室で語り合っていたシーンがありましたが、「そういえばあの時隣のベッドにネオさん居たんだよなぁ~。二人の会話、聞いていたんだろうな~。ネオさんなら大人だから、雰囲気から二人の関係性を察していただろうな~」と何故かネオさん視点な話が浮かび。でも、ネオさんならアスランの怪我の状況からして、真面目でネガティブ思考に陥りやすいアスランを揶揄うようなことはせず、見守るスタンス取りそうだな~って(笑)

二人が一緒にいる時は、なるべく気配を消し(苦笑)、でも何となく切迫したようなときは、こんな感じで助け舟出しそう。それをアスラン主観で、ちょっとこんなシーンがあってもいいんじゃないかと妄想走り書きしてみました。

とりあえず、自分から姫に触れられるようになってよかったなw 最後は多分アスランも意識が途切れて、魘されることなく眠ったんじゃないかと♥

タイトルの『painkiller』は『鎮静剤』という意味です。アスランの荒んだ心を落ち着けさせられるのは、やっぱりカガリじゃなかろうかと思ってこのタイトルです。身体の傷も、きっと姫が癒して―――!!(*´Д`)ハァハァ♥ 多分その前に「天使湯」で癒されていそうです( ̄▽ ̄)♪ 温泉行きたい・・・

あ、文中の「フラガ少佐」は、アスランは41話の時点で彼がムゥさんだと思っていたので、あえて少佐呼びで。

特にテーマもなく、山もオチもない話ですが、ここまでお目を走らせてくださった方がいらっしゃったら、ありがとうございました。<(_ _)>

コメント
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