今回の北京五輪、開会式の「ヤラセ」演出などから「偽装五輪」などと名づける向きもあるようだ。競技の陰では、当局による弾圧や取材規制など、これまでの五輪では考えられなかった事態も生じていると伝えられている。
しかしながら、最終日の男子マラソン。これは「偽装」でもなく、真の「世界一決定戦」となった。もともと、僕は五輪はマラソンにしか興味がない男だ。アテネで日本が取った金メダルの数もとっくに忘れてしまったくらいだ。しかし、今回の男子マラソン、五輪の歴史に永遠に語り継がれるものになるはずだ。
'90年代から、世界のマラソンは「二極分化」の道を歩むようになったと言われてきた。真夏の五輪や世界選手権と、秋から春に世界の大都市で開催される賞金マラソン。ペースメイカーをつけ、記録更新に多額のボーナスを用意する都市マラソンの上位をケニア、エチオピア等のアフリカ勢が独占する中、日本は夏の選手権大会に活路を見出した。暑さで記録が狙えず、スローペースの耐久レースなら、上位に食い込む余地があると見ていた。「粘りと我慢」のマラソンなら、世界の舞台でも戦えると、選手も指導者も、陸連関係者も共通の認識だった。そして、僕らマラソン・ファンの認識も。
女子のレースで、「北京の夏は意外と涼しい」ことが分かった。このところ、五輪の度にマラソンコースが「史上最も苛酷」と言われ続けてきた。アトランタの時は
「マラソンで死者が出る。」
などど言う報道があったことを僕は覚えている。
今回はコースは平坦ながら「路面の固さ」と「大気汚染」が殊更に強調されていた。路面の固さといえば、メダリストたちがレース後、足底筋膜炎の手術を受ける羽目になったバルセロナなど、ヨーロッパにはいくらでも路面の高いコースがあるが大気汚染はどうなのか。
「ガスマスクが必要だ。」
とつい先日まで本気で信じられていた。
世界最高記録が出た昨年のベルリン、上位3人が2時間5分台で走った今年のロンドン、まさか、その二つのレースが北京で再現されるとは!!!
レース前日の夜、大崎悟史の欠場が発表された。ショックだった。彼が6年前の防府マラソンで2時間9分台を出して以来、土佐礼子と、彼女の恋人(当時はまだ交際中だった)の村井さんの職場の同僚の大崎と、村井さんの高校時代からの友人、尾方剛の3人が揃って五輪のマラソン代表に選ばれ、メダルを獲得することが僕の夢だった。夢が音を立てて崩れるのを見るのはつらいことだ。せめて、尾方。頼むぞ、尾方。
予想よりは低いとはいえ、決して涼しいというほどではない北京の晩夏の朝。昨年の大阪ほどではないが、尾方がそれ以前に出場した2回の世界選手権、パリやヘルシンキのようなレースにはなるかなと思っていた。
最初の5kmで予想は大きく裏切られた。ペースメイカーがいないのに、14分52秒で入り、10kmを29分前半で通過するのを見た時には、もはや「二極分化」の時代が終わった、と思った。
佐藤敦之の調子が良くないようだ。野口みずき同様に、直前に合宿のスケジュールを変更したことが報じられた佐藤だが、やはり万全の状態ではなかったか。去年の福岡でトップ争いをした、サムエル・ワンジル(ケニア)とデリバ・メルガ(エチオピア)が上位にいるというのに。
上位を占めているのはほとんどアフリカのランナー。ケニア、エチオピア、モロッコ、そしてエリトリア。スペインのホセ・マニュエル・マルティネスがなんとか食らいついている。こんなハイペースがいつまでも続くわけがない。いつかは失速していくはずだ。そうなれば尾方が少しずつ順位を上げ・・・。そんな願いも空しく、中間点を1時間2分32秒で通過する先頭集団。今年の東京で優勝のヴィクトル・ロスリン(スイス)も10位前後で通過。
ペースは落ちるどころか、東京五輪以来44年ぶりに五輪のレースで世界最高記録が出そうな勢いだ。これは歴史的レースになりそうだ。
その歴史的レースを、制したのは、昨年の福岡で初マラソン初優勝、今年のロンドンで2位のサムエル・ワンジル、21歳。優勝記録は2時間6分32秒。カルロス・ロペスの五輪最高記録を24年ぶりに、大幅に更新した。15歳で来日し、仙台育英高校の留学生ランナーとして、全国高校駅伝で活躍。卒業後もトヨタ九州で駅伝ランナーとして活躍するも、今年から同社を離れ、マラソン中心の活動を目指すという。駅伝が強化の手段ではなく、チームの最大の目標となっている今の日本の長距離界は自らの居場所ではないと判断したようだ。
尾方は13位でゴール。想定外のハイペースにも集中力を切らさずに粘ったものの、これが限界だった。アフリカ勢以外のトップはロスリンの6位。2人のアメリカのランナーが尾方を上回った。中継を担当したアナウンサーはマラソンにさほど詳しくないのだろうか?尾方のすぐ前にゴールしたのがアテネの金メダリストであるステファノ・バルディー二だということぐらいは紹介して欲しかった。
佐藤の体調はベストではなかったようだ。完走者76人の一番最後にゴール。そして、いつものように振り返り、深々と頭を下げた。最後の最後に「マラソン・ニッポン」の矜持を世界に向けて見せてくれた。ありがとう。今回の五輪で最も美しい日本代表選手の姿だった。
しかしながら、最終日の男子マラソン。これは「偽装」でもなく、真の「世界一決定戦」となった。もともと、僕は五輪はマラソンにしか興味がない男だ。アテネで日本が取った金メダルの数もとっくに忘れてしまったくらいだ。しかし、今回の男子マラソン、五輪の歴史に永遠に語り継がれるものになるはずだ。
'90年代から、世界のマラソンは「二極分化」の道を歩むようになったと言われてきた。真夏の五輪や世界選手権と、秋から春に世界の大都市で開催される賞金マラソン。ペースメイカーをつけ、記録更新に多額のボーナスを用意する都市マラソンの上位をケニア、エチオピア等のアフリカ勢が独占する中、日本は夏の選手権大会に活路を見出した。暑さで記録が狙えず、スローペースの耐久レースなら、上位に食い込む余地があると見ていた。「粘りと我慢」のマラソンなら、世界の舞台でも戦えると、選手も指導者も、陸連関係者も共通の認識だった。そして、僕らマラソン・ファンの認識も。
女子のレースで、「北京の夏は意外と涼しい」ことが分かった。このところ、五輪の度にマラソンコースが「史上最も苛酷」と言われ続けてきた。アトランタの時は
「マラソンで死者が出る。」
などど言う報道があったことを僕は覚えている。
今回はコースは平坦ながら「路面の固さ」と「大気汚染」が殊更に強調されていた。路面の固さといえば、メダリストたちがレース後、足底筋膜炎の手術を受ける羽目になったバルセロナなど、ヨーロッパにはいくらでも路面の高いコースがあるが大気汚染はどうなのか。
「ガスマスクが必要だ。」
とつい先日まで本気で信じられていた。
世界最高記録が出た昨年のベルリン、上位3人が2時間5分台で走った今年のロンドン、まさか、その二つのレースが北京で再現されるとは!!!
レース前日の夜、大崎悟史の欠場が発表された。ショックだった。彼が6年前の防府マラソンで2時間9分台を出して以来、土佐礼子と、彼女の恋人(当時はまだ交際中だった)の村井さんの職場の同僚の大崎と、村井さんの高校時代からの友人、尾方剛の3人が揃って五輪のマラソン代表に選ばれ、メダルを獲得することが僕の夢だった。夢が音を立てて崩れるのを見るのはつらいことだ。せめて、尾方。頼むぞ、尾方。
予想よりは低いとはいえ、決して涼しいというほどではない北京の晩夏の朝。昨年の大阪ほどではないが、尾方がそれ以前に出場した2回の世界選手権、パリやヘルシンキのようなレースにはなるかなと思っていた。
最初の5kmで予想は大きく裏切られた。ペースメイカーがいないのに、14分52秒で入り、10kmを29分前半で通過するのを見た時には、もはや「二極分化」の時代が終わった、と思った。
佐藤敦之の調子が良くないようだ。野口みずき同様に、直前に合宿のスケジュールを変更したことが報じられた佐藤だが、やはり万全の状態ではなかったか。去年の福岡でトップ争いをした、サムエル・ワンジル(ケニア)とデリバ・メルガ(エチオピア)が上位にいるというのに。
上位を占めているのはほとんどアフリカのランナー。ケニア、エチオピア、モロッコ、そしてエリトリア。スペインのホセ・マニュエル・マルティネスがなんとか食らいついている。こんなハイペースがいつまでも続くわけがない。いつかは失速していくはずだ。そうなれば尾方が少しずつ順位を上げ・・・。そんな願いも空しく、中間点を1時間2分32秒で通過する先頭集団。今年の東京で優勝のヴィクトル・ロスリン(スイス)も10位前後で通過。
ペースは落ちるどころか、東京五輪以来44年ぶりに五輪のレースで世界最高記録が出そうな勢いだ。これは歴史的レースになりそうだ。
その歴史的レースを、制したのは、昨年の福岡で初マラソン初優勝、今年のロンドンで2位のサムエル・ワンジル、21歳。優勝記録は2時間6分32秒。カルロス・ロペスの五輪最高記録を24年ぶりに、大幅に更新した。15歳で来日し、仙台育英高校の留学生ランナーとして、全国高校駅伝で活躍。卒業後もトヨタ九州で駅伝ランナーとして活躍するも、今年から同社を離れ、マラソン中心の活動を目指すという。駅伝が強化の手段ではなく、チームの最大の目標となっている今の日本の長距離界は自らの居場所ではないと判断したようだ。
尾方は13位でゴール。想定外のハイペースにも集中力を切らさずに粘ったものの、これが限界だった。アフリカ勢以外のトップはロスリンの6位。2人のアメリカのランナーが尾方を上回った。中継を担当したアナウンサーはマラソンにさほど詳しくないのだろうか?尾方のすぐ前にゴールしたのがアテネの金メダリストであるステファノ・バルディー二だということぐらいは紹介して欲しかった。
佐藤の体調はベストではなかったようだ。完走者76人の一番最後にゴール。そして、いつものように振り返り、深々と頭を下げた。最後の最後に「マラソン・ニッポン」の矜持を世界に向けて見せてくれた。ありがとう。今回の五輪で最も美しい日本代表選手の姿だった。
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