KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

マラソンを愛する皆様、こんにちは。
2022年は積極的に更新していく心算です。

2008防府読売マラソン雑感 vol.2

2008年12月25日 | マラソン観戦記
25km過ぎて、僕は日本選手よりもバトオチルに肩入れしていた。
「逃げろ!バトオチル!」

先の福岡国際マラソンを見て、世界のトップと日本との差がさらに広がったと嘆く向きもあったようだが、僕はむしろ爽快感を覚えていた。世界のトップが日本国内開催の大会で、ここまで実力を存分に発揮する、品の無い流行り言葉で言えば、「ガチ」で戦う姿を見せる大会なんてそんなには無いと思う。マンチェスター・ユナイテッドでも、ガンバ大阪との対戦では、ルーニーを前半は休ませていたではないか。

むしろ、防府の日本勢の方に失望感が高かった。このままバトオチルの独走を許すつもりか。特に糟谷、箱根優勝チームのエースって、そんなものか?初マラソンなら、ここでバトオチルについ行くくらいの気概を見せて欲しかった。

30km過ぎて2位争いは3人に絞られた。伊藤に糟谷、そして澁谷明憲(柳河精機)。カネボウに10年在籍し、元カネボウの豊岡知博氏が監督を務める柳河に移籍したばかり。初マラソンである8年前の別大で出した記録をなかなか更新できないでいるランナーだ。古巣での再起を図ったが、一番先に脱落していった。

バトオチルが後ろを振り返る回数が増えてきた。ペースも急激に落ちた。このところ、防府は終盤での逆転が多い。トップランナーがスタミナ切れを起こして失速、というパターンであり、決して褒められたものではないのだが、テレビで見ている分には、マラソンの厳しさと残酷さを見せ付けられる。30km過ぎてから最速ラップをたたき出す、世界のトップレベルと比較すると「低レベルの争い」なのかもしれないが、伊藤の走りは、そういったしたり顔の分析をはねつけるほどのインパクトがある。

バトオチルと伊藤との差がみるみるうちに縮まり、38kmでついに追いつき、追い抜く。顔をしかめ、首の動きは前後から左右に変わり、腕をもがくように振り回す。腕振りの推進力で身体を前に進めているようだ。あるいは、ゴール地点から伸びている目に見えないロープを手繰り寄せているかのように見える。決して恵まれているともいえない環境で練習を続け、目立つ実績もない、(かつての西日本新聞の報道によると)母子家庭で育った勤労青年ランナーが、初優勝を目指して、もがくように身体を前へと進める。

4年前、伊藤と同様に「根性走り」と言われた五十嵐範暁氏の防府での走りを思い出した。今や国内最強マラソン集団と呼ばれるようになった中国電力で初のサブテンランナーでありながら、優勝経験の無かった彼の初優勝なるかと思われながら、スタジアム入りする直前でエチオピアのアベベに逆転を喫し、ゴール後は担架に乗せられた、凄絶なフィニッシュだった。今回、山口放送ラジオで解説を担当していたようだが、伊藤の走りにどのようなコメントをしただろうか。

蛇行しながらもゴールにたどり着き、念願の初優勝のゴール。2時間16分1秒もがき続けた末につかんだ栄光だ。ゴール後のインタビューのまるで教科書を読んでいるような話しぶりも、朴訥なイメージに合っていた。

前半のバトオチルに終盤の伊藤健太郎。この2人が今回の防府の収穫だった。精神論を唱えるのは好きじゃないが、世界のトップを目指すべきランナーたちに欠けているものを見たような気がした。

関東のマラソン・ファンにも、BS日テレで見られるようになったこの大会、東京ではマイナーな関西の芸人を引き合いに出したが、実は大阪の読売テレビではこの大会は深夜に録画中継で放映されている。読売テレビでは日曜日の午後に高視聴率を獲得している「たかじんのそこまで言って委員会」という、これまた関東では見られない番組が放映されているからだ。現在の大阪府知事が裁判で訴えられるきっかけとなる発言をしたり、あの元航空自衛隊幕僚長をいち早くゲスト出演させたりする「過激なトーク番組」なのだ。他の日テレ系の地方局では、防府の生中継後に、時間をずらして放映されているのだが。

もしかしたら、マラソンは大都市圏の住民には支持を得られにくいスポーツになりつつあるのかもしれない。



コメントを投稿