2008年もあと一週間を残すのみとなった。五輪イヤーであったが、北京五輪では男女ともマラソンはメダルはおろか、入賞にも届かず、それどころか、欠場者2名、途中棄権者1名という結果に非難が集まる結果となってしまった。
メダルが取れない種目など、取るに足らないものなのか。ほんの半年までは、五輪がまともに開催されることさえ危ぶまれていたではないか。あの聖火リレー批判はいったい何だったんだ。どこへ行ったんだ、「フリー・チベット」。だいたい、やれ路面が固いだのマラソンにガスマスクが必要だのといった情報を垂れ流していたメディアに、苛酷なレースに耐えうるために自らの身体をギリギリまで追い込んだ果てに、スタートラインに立つことさえ叶わなかったランナーたちを批判できるのか?
五輪の直前、ある週刊誌が、女子の金メダリストの「知られざる過去」とやらをスクープしていた。それを読んだ僕の友人K氏は、
「いったい、どういうつもりだ!」
と憤慨していた。僕はこう言った。
「あの雑誌は、五輪のスポンサー企業に質問状を出していたよ。まるで、今回の五輪をサポートすることが、チベットへの人権弾圧に加担することと言わんばかりに。聖火リレーの参加者に対しても然り。そういう雑誌が今更、“がんばれニッポン”を連呼する方が、不誠実だと思わないか?」
もうやめよう、こんな話は。今やミゾーユー(片仮名で書くとオバカ度が倍増するね)の不況が世界中を覆っている。こんな時だから、せめて、年末恒例の日本マラソン大賞くらいは、大盤振る舞いといきましょうか。
この賞は今年1年活躍した日本人マラソンランナー、ないし日本国内の大会で活躍した外国人ランナーに、僕の独自の評価(独断と偏見、とも言う)で賞を与えるものである。例によって、賞品、賞金はありません。マニアのお遊びです。
しかし、けっこう一部では人気と支持が集まっているようで、他のマラソンファンも自分なりの「マラソン大賞」を作成しているようだし、某県の陸協関係者や実業団関係者もご覧になっているらしく、毎年、選ぶ方も楽しみでもあり、ドキドキしている。
それではいきますか。
新人賞
足立知弥(旭化成) 別大優勝
清水智也(佐川急便) びわ湖5位
扇まどか(十八銀行) 大阪5位
佐伯由香里(アルゼAC) 北海道優勝
カムバック賞
藤原正和(Honda) ぴわ湖9位
伊藤健太郎(協和発酵バイオ) 防府優勝
田上麻衣(アルゼAC) 長野6位 北海道4位 メルボルン優勝 アテネ優勝
功労賞
小島宗幸(旭化成) '98びわ湖優勝
高橋尚子(ファイテン) シドニー五輪金メダル 元マラソン世界記録保持者
努力賞
清水将也(旭化成) 延岡優勝 北海道3位
大西雄三(日清食品グループ) びわ湖4位 北海道4位
森本 友(天満屋) 大阪2位 ウイーン2位
大平美樹(三井住友海上) 大阪4位
快記録賞
佐藤智之(旭化成) びわ湖7位 福岡4位
フェアプレー賞
佐藤敦之(中国電力) 北京五輪プレ大会6位 北京五輪76位
土佐礼子(三井住友海上) 北京五輪プレ大会4位 北京五輪DNF
一般のスポーツメディアはほとんど相手にしてくれないが、実は今年の日本のマラソン界は新人が豊作の年だった。男子も初マラソン初優勝の足立に、初マラソンサブテンの清水、このWトモヤは来年以降に期待したくなる。女子はさらに充実していて、他にも有力候補がいたが、彼女たちは他の賞を与えることにした。
初マラソンのびわ湖で学生のマラソン最高記録をマークしてから5年。藤原が戻ってきた。スタートラインに立ち、ゴールしてくれただけで、十分だ、今は。5日前の防府優勝の伊藤も、この賞を贈ることにした。今度は国際マラソンであの走りを見せて欲しい。ユニクロを退社し、一時はホテルで勤務しながら走っていた田上が小出ファミリー入り。秋には海外レースで2連勝してみせた。6年前にはボストンで8位入賞している彼女、日本の女子ランナーで、ボストンとアテネ、二つのコースを走り、どちらも入賞しているのは他には土佐礼子だけではないか?
今年引退を表明したランナーに与える功労賞。小島は今の時点で、最後のびわ湖毎日日本人優勝者である。'90年代に4大会連続でサブテンを記録しながら、ついに日本代表になれなかったのが悲運といえそうだ。高橋については、説明不要だと思う。来年の名古屋に「一般参加」で出場するとのことだが、「一般参加」という言葉の意味が変化したようだ。
清水智也の双子の兄である将也の延岡優勝は旭化成のチームメイトよりも弟に大きな刺激を与えたようである。駒澤大の箱根駅伝初優勝に貢献した大西は30過ぎて6回目のマラソンとなるびわ湖で2時間8分台をマークした。森本に大平、五輪代表を生んだチームの、明日のエースとして期待が高まる。
2年前に、大田原とつくば、中2日でフルマラソンに出場し、どちらも同じ記録でゴールした平沢直樹に与えた「快記録賞」を与えたが、この賞が復活しようとは思えなかった。びわ湖に福岡、連続して同記録でゴール。それが2時間9分59秒というのが凄い。自己記録更新も優勝(日本人トップ)も絶望的となったうえで、「せめてサブテンだけでも」という執念が産み出した記録だと思う。
たぶん、今年だけの賞となるであろうフェアプレイ賞。勝者になれなかったために無視されたマラソン代表のために作った賞だ。
五輪の直後にも書いたが、最後の最後にゴールし、深々と一礼した佐藤敦之の姿は美しかった。僕には美しく見えた。そして、母校の教室の大画面テレビで見た、北京のロードで苦痛に顔を歪めながら走る土佐礼子の姿。きっと僕はずっとずっと忘れないだろう。
「もういい。やめてくれ!」
なんて言えるはずがなかった。その言葉を土佐に向けて言うことが許されるのは、世界で唯一人しかいない。
その男、夫の村井啓一に抱きかかえられ、コースを去っていった土佐。彼がいてくれて、本当に良かったと思った。
後半、第2部につづく
付記・小島宗幸を「最後のびわ湖毎日日本人優勝者」と記したが、'02年に武井隆次が優勝していた。当方の事実誤認でした。お詫びして訂正します。
(文中敬称略)
メダルが取れない種目など、取るに足らないものなのか。ほんの半年までは、五輪がまともに開催されることさえ危ぶまれていたではないか。あの聖火リレー批判はいったい何だったんだ。どこへ行ったんだ、「フリー・チベット」。だいたい、やれ路面が固いだのマラソンにガスマスクが必要だのといった情報を垂れ流していたメディアに、苛酷なレースに耐えうるために自らの身体をギリギリまで追い込んだ果てに、スタートラインに立つことさえ叶わなかったランナーたちを批判できるのか?
五輪の直前、ある週刊誌が、女子の金メダリストの「知られざる過去」とやらをスクープしていた。それを読んだ僕の友人K氏は、
「いったい、どういうつもりだ!」
と憤慨していた。僕はこう言った。
「あの雑誌は、五輪のスポンサー企業に質問状を出していたよ。まるで、今回の五輪をサポートすることが、チベットへの人権弾圧に加担することと言わんばかりに。聖火リレーの参加者に対しても然り。そういう雑誌が今更、“がんばれニッポン”を連呼する方が、不誠実だと思わないか?」
もうやめよう、こんな話は。今やミゾーユー(片仮名で書くとオバカ度が倍増するね)の不況が世界中を覆っている。こんな時だから、せめて、年末恒例の日本マラソン大賞くらいは、大盤振る舞いといきましょうか。
この賞は今年1年活躍した日本人マラソンランナー、ないし日本国内の大会で活躍した外国人ランナーに、僕の独自の評価(独断と偏見、とも言う)で賞を与えるものである。例によって、賞品、賞金はありません。マニアのお遊びです。
しかし、けっこう一部では人気と支持が集まっているようで、他のマラソンファンも自分なりの「マラソン大賞」を作成しているようだし、某県の陸協関係者や実業団関係者もご覧になっているらしく、毎年、選ぶ方も楽しみでもあり、ドキドキしている。
それではいきますか。
新人賞
足立知弥(旭化成) 別大優勝
清水智也(佐川急便) びわ湖5位
扇まどか(十八銀行) 大阪5位
佐伯由香里(アルゼAC) 北海道優勝
カムバック賞
藤原正和(Honda) ぴわ湖9位
伊藤健太郎(協和発酵バイオ) 防府優勝
田上麻衣(アルゼAC) 長野6位 北海道4位 メルボルン優勝 アテネ優勝
功労賞
小島宗幸(旭化成) '98びわ湖優勝
高橋尚子(ファイテン) シドニー五輪金メダル 元マラソン世界記録保持者
努力賞
清水将也(旭化成) 延岡優勝 北海道3位
大西雄三(日清食品グループ) びわ湖4位 北海道4位
森本 友(天満屋) 大阪2位 ウイーン2位
大平美樹(三井住友海上) 大阪4位
快記録賞
佐藤智之(旭化成) びわ湖7位 福岡4位
フェアプレー賞
佐藤敦之(中国電力) 北京五輪プレ大会6位 北京五輪76位
土佐礼子(三井住友海上) 北京五輪プレ大会4位 北京五輪DNF
一般のスポーツメディアはほとんど相手にしてくれないが、実は今年の日本のマラソン界は新人が豊作の年だった。男子も初マラソン初優勝の足立に、初マラソンサブテンの清水、このWトモヤは来年以降に期待したくなる。女子はさらに充実していて、他にも有力候補がいたが、彼女たちは他の賞を与えることにした。
初マラソンのびわ湖で学生のマラソン最高記録をマークしてから5年。藤原が戻ってきた。スタートラインに立ち、ゴールしてくれただけで、十分だ、今は。5日前の防府優勝の伊藤も、この賞を贈ることにした。今度は国際マラソンであの走りを見せて欲しい。ユニクロを退社し、一時はホテルで勤務しながら走っていた田上が小出ファミリー入り。秋には海外レースで2連勝してみせた。6年前にはボストンで8位入賞している彼女、日本の女子ランナーで、ボストンとアテネ、二つのコースを走り、どちらも入賞しているのは他には土佐礼子だけではないか?
今年引退を表明したランナーに与える功労賞。小島は今の時点で、最後のびわ湖毎日日本人優勝者である。'90年代に4大会連続でサブテンを記録しながら、ついに日本代表になれなかったのが悲運といえそうだ。高橋については、説明不要だと思う。来年の名古屋に「一般参加」で出場するとのことだが、「一般参加」という言葉の意味が変化したようだ。
清水智也の双子の兄である将也の延岡優勝は旭化成のチームメイトよりも弟に大きな刺激を与えたようである。駒澤大の箱根駅伝初優勝に貢献した大西は30過ぎて6回目のマラソンとなるびわ湖で2時間8分台をマークした。森本に大平、五輪代表を生んだチームの、明日のエースとして期待が高まる。
2年前に、大田原とつくば、中2日でフルマラソンに出場し、どちらも同じ記録でゴールした平沢直樹に与えた「快記録賞」を与えたが、この賞が復活しようとは思えなかった。びわ湖に福岡、連続して同記録でゴール。それが2時間9分59秒というのが凄い。自己記録更新も優勝(日本人トップ)も絶望的となったうえで、「せめてサブテンだけでも」という執念が産み出した記録だと思う。
たぶん、今年だけの賞となるであろうフェアプレイ賞。勝者になれなかったために無視されたマラソン代表のために作った賞だ。
五輪の直後にも書いたが、最後の最後にゴールし、深々と一礼した佐藤敦之の姿は美しかった。僕には美しく見えた。そして、母校の教室の大画面テレビで見た、北京のロードで苦痛に顔を歪めながら走る土佐礼子の姿。きっと僕はずっとずっと忘れないだろう。
「もういい。やめてくれ!」
なんて言えるはずがなかった。その言葉を土佐に向けて言うことが許されるのは、世界で唯一人しかいない。
その男、夫の村井啓一に抱きかかえられ、コースを去っていった土佐。彼がいてくれて、本当に良かったと思った。
後半、第2部につづく
付記・小島宗幸を「最後のびわ湖毎日日本人優勝者」と記したが、'02年に武井隆次が優勝していた。当方の事実誤認でした。お詫びして訂正します。
(文中敬称略)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます