更新をサボっている間に、またまた新たな動きがあった。高校野球と同様に、全国大会がNHKで全国生中継される競技である、高校駅伝において、最長区間である1区(男子10km、女子6km)に、ケニア人留学生を起用することが来年度の大会から禁止されることが決定したのだ。
ちょうど、仙台育英高校が初めて高校駅伝にケニアからの留学生を起用して、今年で15年目に当たる。最初の年こそ、男子の1区の区間賞は十日町高校の小林雅幸が獲得したが、翌年は2年生になった仙台育英高のダニエル・ジェンガが獲得。以後1区の区間賞は留学生が獲得し続けている。ジュリアス・ギタヒの区間記録は、恐らくケニア人以外には永遠に破られないと言われているし、区間10傑も8位までが留学生が独占しているのが現状である。
僕はこれまで、ケニア人留学生について、功罪の「功」の部分を強調してきた。初めて日本にやってきた、ジェンガは卒業後もマラソンで活躍、最近では2月の東京マラソンで優勝したが、その夜のニュース・ショーで直木賞作家の娘に、
「いやあ。優勝した外国のランナーが日本語がお上手なのでびっくりしました。」
と感嘆させた。お世話になった監督への感謝の言葉を涙ながらに語る姿に胸を打たれた方もいらっしゃるだろう。女子のエスタ・ワンジロはシドニー五輪のマラソン代表に選ばれ、4位に入賞。僕は見ていないが、モーニング娘。と映画で共演も果たしている。彼らの同年輩の日本人ランナーには、今も活躍しているランナーが多い、というか、今回の世界選手権のマラソン代表の男女の大半が、そうである。
もっとも、僕はあくまでも、ジョギングとテレビのマラソン&駅伝観戦が楽しみの1ファンという立場の人間だ。現場で彼らと競い合う立場の人々からは、全く逆の意見が出るのも当然のことだが、この決定がなされた理由の一つが、
「ケニア人が1区から飛び出し、そのまま優勝するという展開が興醒め」
というのには、異議ありである。
「(プロスポーツでもないのに)展開が興醒めだといってルールを変えるというのはおかしいのではないか。」
と、週末のニュース番組で、元プロ野球選手がコメントしていたが、僕も同感である。
まあ、JOCの要職に就く人物でさえ、長野マラソンでケニア人ランナーが優勝した(ちなみに、日本在住のマラソンの五輪メダリスト)事に対して、
「黒いのばかりが勝ってもしょうがない。」
と暴言を吐くくらいだ。日頃、陸上競技と縁のない人がたまたまつけたテレビで、ケニア人ランナーたちが、日本人集団を遥かにリードして独走する姿を快く思わず、放送局に抗議の電話をかける人もいるのも無理からぬことかもしれない。
話はそれるが、某マラソン・ファン向けの掲示板では、海外の一流ランナーを招致できず、毎回日本人ランナーが上位を独占する日本国内の国際女子マラソン大会への不満を語る書きこみが多いが、彼ら(僕も含まれる)の嘆きが、はたして一般の人々に理解されるだろうか?
「日本人が勝つのがそんなに不満なのかよ?」
「こいつら、反日分子か?」
などと、思われたらイヤだな。
ケニア人留学生が幅を利かせる高校駅伝を、東西の両横綱をモンゴル人が占める今の大相撲と重ね合わせて嘆く、スポーツ紙のコラムニストがいたが、少なくとも、先述のジェンガなど、今の外国人力士たち(の一部、だろうが)よりは、ずっと、「品格」を身につけていると思う。それに、留学生と言えば、何年か前に、大学女子駅伝で、メンバーの半分以上が中国からの留学生というチームがあったが、優勝争いに加わっていたわけではないので、問題にならなかった。外国人力士も、高見山関が平幕の人気者だった頃には何も文句を言われなかったのに、大関、横綱に手が届くような逸材が現われたら手の平を返したようになったように思う。
駅伝における留学生起用の問題は、今回のメインテーマではない。前回の最後に書いた駅伝における「とんでもない現実」とは、彼ら、ケニアの少年少女たちを日本の学校や企業からの求めに応じて、日本に連れてくることで報酬を受け取っている代理人が存在している、という事実である。
昨年、NHKのBSで、その人物に密着取材したドキュメンタリーが放映された。それ以前から、その人物の事は知っていた。マラソン・ファンには有名な人物である。そして、一部のジャーナリストからは忌み嫌われている事も、有名な話である。
初めて、日本の実業団に所属し、のちに世界選手権のマラソン金メダリストになったランナーが、彼が最初にケニアから日本に連れてきたランナーである。この番組、今となっては録画をしなかったのが大変悔やまれているので、記憶を頼りに書いているが、15~16歳のケニアの少年少女たちが、日本行きの資格を得るためのセレクションともなる記録会やら、生活のためとは言え、娘を遠い日本へと出すことを悲しむ父親などの映像が放映された。
某ジャーナリストなどは、この人物の行為を「人身売買」とまで批判したのであるが、この番組、実は、海外の各分野で活躍する日本人を紹介するシリーズだった。決して、ある種の不法行為を告発する番組ではなかった。その人物も実名で紹介され(本稿では、あえて匿名にする。)、顔にモザイクがかけられることも、肉声が変えられることも無かった。
今年、山梨学院大のメクボ・ジョブ・モグスに破られた、丸亀ハーフのコースレコードを作りながら事故で足を骨折して帰国を余儀なくされたランナーの近況も放映されていた。代理人氏が所属企業と交渉して、退職金を獲得し、それを元手にビジネスを行ない、その傍ら、若いランナーたちのためのクラブチームも設立しているという事を知り、安心した。この一件で代理人氏に対する印象が少し好転した。
なお、現在日本で活躍しているケニア人ランナーの全てが、彼の手引きで来日したわけではない。箱根駅伝で初めてケニア人留学生を起用した大学は、大学関係者が独自のコネクションを持っているようである。代理人氏を批判しているジャーナリストがその一方で、その大学の監督とは親交が深いのも、そういった裏事情があるせいのようである。
代理人の手引きにより来日する留学生は確かに、事実上「優勝請負人」であることは否定できない。しかし、その代理人を
「ケニアの少年少女たちの夢を叶える手助けをしている」
と持ち上げるのなら、関西の野球少年たちを東北や四国の私立高校に特待生として入学させる手引きをしている人物も同じではないか。
高校野球が特待生制度を否定してしまった一方で、春のセンバツを主催する新聞社が主催する高校駅伝の大会でも、留学生に対して何らかの規制を加える必要があるという判断から、今回のルール変更が決定したものと、僕は受け止めている。ある面、高校野球界が頑ななまでに「商業主義」を悪しきものとして遠ざける姿勢を貫くことが、他のスポーツの「行き過ぎ」に歯止めをかける役割も果たしているようだ。冬季五輪の種目だと、高校生がスポンサーと「プロ契約」を交わしている例も珍しくない。
そのような「歯止め」がこれからも必要かどうかは、また別の問題になると思うが。
(了)
ちょうど、仙台育英高校が初めて高校駅伝にケニアからの留学生を起用して、今年で15年目に当たる。最初の年こそ、男子の1区の区間賞は十日町高校の小林雅幸が獲得したが、翌年は2年生になった仙台育英高のダニエル・ジェンガが獲得。以後1区の区間賞は留学生が獲得し続けている。ジュリアス・ギタヒの区間記録は、恐らくケニア人以外には永遠に破られないと言われているし、区間10傑も8位までが留学生が独占しているのが現状である。
僕はこれまで、ケニア人留学生について、功罪の「功」の部分を強調してきた。初めて日本にやってきた、ジェンガは卒業後もマラソンで活躍、最近では2月の東京マラソンで優勝したが、その夜のニュース・ショーで直木賞作家の娘に、
「いやあ。優勝した外国のランナーが日本語がお上手なのでびっくりしました。」
と感嘆させた。お世話になった監督への感謝の言葉を涙ながらに語る姿に胸を打たれた方もいらっしゃるだろう。女子のエスタ・ワンジロはシドニー五輪のマラソン代表に選ばれ、4位に入賞。僕は見ていないが、モーニング娘。と映画で共演も果たしている。彼らの同年輩の日本人ランナーには、今も活躍しているランナーが多い、というか、今回の世界選手権のマラソン代表の男女の大半が、そうである。
もっとも、僕はあくまでも、ジョギングとテレビのマラソン&駅伝観戦が楽しみの1ファンという立場の人間だ。現場で彼らと競い合う立場の人々からは、全く逆の意見が出るのも当然のことだが、この決定がなされた理由の一つが、
「ケニア人が1区から飛び出し、そのまま優勝するという展開が興醒め」
というのには、異議ありである。
「(プロスポーツでもないのに)展開が興醒めだといってルールを変えるというのはおかしいのではないか。」
と、週末のニュース番組で、元プロ野球選手がコメントしていたが、僕も同感である。
まあ、JOCの要職に就く人物でさえ、長野マラソンでケニア人ランナーが優勝した(ちなみに、日本在住のマラソンの五輪メダリスト)事に対して、
「黒いのばかりが勝ってもしょうがない。」
と暴言を吐くくらいだ。日頃、陸上競技と縁のない人がたまたまつけたテレビで、ケニア人ランナーたちが、日本人集団を遥かにリードして独走する姿を快く思わず、放送局に抗議の電話をかける人もいるのも無理からぬことかもしれない。
話はそれるが、某マラソン・ファン向けの掲示板では、海外の一流ランナーを招致できず、毎回日本人ランナーが上位を独占する日本国内の国際女子マラソン大会への不満を語る書きこみが多いが、彼ら(僕も含まれる)の嘆きが、はたして一般の人々に理解されるだろうか?
「日本人が勝つのがそんなに不満なのかよ?」
「こいつら、反日分子か?」
などと、思われたらイヤだな。
ケニア人留学生が幅を利かせる高校駅伝を、東西の両横綱をモンゴル人が占める今の大相撲と重ね合わせて嘆く、スポーツ紙のコラムニストがいたが、少なくとも、先述のジェンガなど、今の外国人力士たち(の一部、だろうが)よりは、ずっと、「品格」を身につけていると思う。それに、留学生と言えば、何年か前に、大学女子駅伝で、メンバーの半分以上が中国からの留学生というチームがあったが、優勝争いに加わっていたわけではないので、問題にならなかった。外国人力士も、高見山関が平幕の人気者だった頃には何も文句を言われなかったのに、大関、横綱に手が届くような逸材が現われたら手の平を返したようになったように思う。
駅伝における留学生起用の問題は、今回のメインテーマではない。前回の最後に書いた駅伝における「とんでもない現実」とは、彼ら、ケニアの少年少女たちを日本の学校や企業からの求めに応じて、日本に連れてくることで報酬を受け取っている代理人が存在している、という事実である。
昨年、NHKのBSで、その人物に密着取材したドキュメンタリーが放映された。それ以前から、その人物の事は知っていた。マラソン・ファンには有名な人物である。そして、一部のジャーナリストからは忌み嫌われている事も、有名な話である。
初めて、日本の実業団に所属し、のちに世界選手権のマラソン金メダリストになったランナーが、彼が最初にケニアから日本に連れてきたランナーである。この番組、今となっては録画をしなかったのが大変悔やまれているので、記憶を頼りに書いているが、15~16歳のケニアの少年少女たちが、日本行きの資格を得るためのセレクションともなる記録会やら、生活のためとは言え、娘を遠い日本へと出すことを悲しむ父親などの映像が放映された。
某ジャーナリストなどは、この人物の行為を「人身売買」とまで批判したのであるが、この番組、実は、海外の各分野で活躍する日本人を紹介するシリーズだった。決して、ある種の不法行為を告発する番組ではなかった。その人物も実名で紹介され(本稿では、あえて匿名にする。)、顔にモザイクがかけられることも、肉声が変えられることも無かった。
今年、山梨学院大のメクボ・ジョブ・モグスに破られた、丸亀ハーフのコースレコードを作りながら事故で足を骨折して帰国を余儀なくされたランナーの近況も放映されていた。代理人氏が所属企業と交渉して、退職金を獲得し、それを元手にビジネスを行ない、その傍ら、若いランナーたちのためのクラブチームも設立しているという事を知り、安心した。この一件で代理人氏に対する印象が少し好転した。
なお、現在日本で活躍しているケニア人ランナーの全てが、彼の手引きで来日したわけではない。箱根駅伝で初めてケニア人留学生を起用した大学は、大学関係者が独自のコネクションを持っているようである。代理人氏を批判しているジャーナリストがその一方で、その大学の監督とは親交が深いのも、そういった裏事情があるせいのようである。
代理人の手引きにより来日する留学生は確かに、事実上「優勝請負人」であることは否定できない。しかし、その代理人を
「ケニアの少年少女たちの夢を叶える手助けをしている」
と持ち上げるのなら、関西の野球少年たちを東北や四国の私立高校に特待生として入学させる手引きをしている人物も同じではないか。
高校野球が特待生制度を否定してしまった一方で、春のセンバツを主催する新聞社が主催する高校駅伝の大会でも、留学生に対して何らかの規制を加える必要があるという判断から、今回のルール変更が決定したものと、僕は受け止めている。ある面、高校野球界が頑ななまでに「商業主義」を悪しきものとして遠ざける姿勢を貫くことが、他のスポーツの「行き過ぎ」に歯止めをかける役割も果たしているようだ。冬季五輪の種目だと、高校生がスポンサーと「プロ契約」を交わしている例も珍しくない。
そのような「歯止め」がこれからも必要かどうかは、また別の問題になると思うが。
(了)
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