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KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

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マラソンにっぽん2011秋~女子篇

2011年10月28日 | マラソン時評
世界選手権のマラソンは、男子7位、女子は5位と、'99年のセビリア大会以来の男女連続アベック入賞を7回まで伸ばせた。最低限の目標は果たせたと思う。しかしながら男子の結果については「健闘」という評価ながら女子は男子よりも順位が上でありながら、「惨敗」という見方が強い。

正直、今回は僕も男子は'97年のアテネ大会以来の「入賞ゼロ」の可能性も低くないと思っていた。男子は世界のトップとの差が歴然としていた。五輪のメダルは'92年のバルセロナ大会以来遠ざかっている。それに、今回の代表5人の内、代表選考レースで優勝したランナーはゼロである。そもそも、国際大会の選考レースで優勝して代表になったのは、'05年のヘルシンキ大会代表の尾方剛、高岡寿成、入船敏の3人を最後に一人もいない。ヘルシンキでは尾方が銅メダルを獲得したが、やはり、「優勝」で代表の座を得て初めてメダル獲りを目標に出来るというものである。

女子は前回ベルリン大会の銀メダリスト、尾崎好美が代表になっているし、その尾崎と、赤羽有紀子はそれぞれ横浜と大阪の選考レースに優勝して代表の座を得ている。シドニー、アテネの五輪て2大会連続して金メダルを獲得している日本の女子マラソンは、「2位じゃだめなんです。」という重い期待がかかる。

結果は30km過ぎてから飛び出したケニア勢に誰も追いつけず、赤羽の5位が日本人トップ。表彰台をケニア勢が独占した。「日本のママさんランナー初の国際大会入賞」も快挙には違いないが、来年のロンドン五輪代表にはならなかった。
メダリスト尾崎は18位に沈み、僕がもっとも期待していた、クロカンスキー出身で富士登山競走優勝者でもある野尻あずさも19位に終わった。

日本女子の敗因を、

「同じ日本人同士の争いに終始し、海外のランナーとの戦いを意識していなかったせい。」

という意見があった。ケニア選手の「チームプレイ」を賞賛する声もあったが、もともとマラソンというのは個人と個人の戦いだ。同じ国の選手であっても、ライバルはライバルだ。北京五輪代表に選ばれながら故障で欠場した野口みずきに対して、彼女の故障の状態を陸連が把握していなかったことが批判されたが、当時の野口の指導陣は、故障の状態が他の日本代表選手の陣営に漏れることを怖れたのではないだろうか?駅伝ならともかく、マラソンに「チームプレイ」という発想は馴染めぬものだと僕は思う。

なでしこジャパンの澤穂希に対して、これまでの日本のスポーツヒロインであるQちゃんやヤワラちゃんとは違う、という評価があるが、そんなの当たり前のことだろう。団体競技のキャプテンと、個人競技のプレイヤーのメンタリティが同じわけがない。そんな違いも分からない人間が商業誌にスポーツの記事を書いているのだから寒々しい。

話は少しずれたが、今回の「惨敗」の予兆は、今春、急遽代表選考レースとなったロンドン・マラソンに現われていた。毎年、「事実上の世界一決定戦」として、豪華メンバーが揃い、高速レースが展開されるこの大会にて、日本から出場したランナーたちは、日本人同士の中での順位争いに終始する展開となり、誰も先頭集団を追い駆けようとしなかった。唯一、集団から抜け出したのは、既に代表に内定し、自己記録の更新を目的にエントリーしていた赤羽だけだった。

赤羽も野尻も自己記録の更新は果たせたが、順位は赤羽が6位に野尻が12位。トップに5分以上も差をつけられる結果に、一抹の不安と物足りなさを感じたが、今の日本の女子の力は、ここで露呈していたのかもしれない。

日本の男子が国内のメジャー大会で勝てないのはなぜか。海外招待選手が強力だからだ。2005年以降、前世界記録保持者のハイレ・ゲブレセラシェ、その前の記録保持者ポール・テルガト、世界選手権2連覇のジャウアド・ガリブら持ちタイムが日本最高記録を上回るランナーたちが続々と来日し、額面通りの実力を見せつけるレースをしている。もともと、福岡国際マラソンなど、日本の国際マラソンには、海外招待選手がベストを出せるように、最大限の配慮をしてきたのだ。「アウェイの洗礼」などという言葉が当たり前のように使われる他の競技のファンから見れば、「お人好し」と思われるかもしれないが、マラソンというのは決して国と国との戦いではないのだ。

それに比べると、国内レースでは日本人ランナーの勝率の高い日本の女子マラソンは、実力不足の外国人とばかり戦って、チャンピオンの挑戦権を得た、あの兄弟ボクサーと変りない、と言っては言い過ぎだろうか?持ちタイムがサブ20(2時間20分以内)の女子ランナーで来日しているのはキャサリン・ヌデレバと、世界選手権の大阪大会で来日した周春秀くらいで、ラドクリフやミキテンコやショブホワら「旬のランナー」がなかなか日本に来てくれない。原因は、海外のメジャー大会が、ランナーと出場に関して、複数年契約を結ぶケースが多いからと思われるからだが、女子の場合、男子よりも「世界のトップ」と対決する機会が本当に減っている。

加えて、日本の女子マラソンも選手層が薄くなったと思う。4年に一度の恒例行事だった、五輪代表選考をめぐるゴタゴタだが、北京五輪の時は、拍子抜けするくらいあっさりと決まった印象がある。本来なら、代表に選ばれるべきランナーを落選させざるを得ないくらい、かつての日本の女子は選手層が厚かった。国際大会ごとに、代表選手が総入れ替えするのが常だった。

尾崎も赤羽も優れたランナーではあるが、高橋尚子や野口みずきが素晴しすぎた。前から書いてきたが、今後の日本の女子マラソンランナーは、現役時代は常にONと比較されて過小評価されてきた、原辰憲のような思いをさせられそうである。

本稿の要旨は、9月の半ば頃から構想を練っていたが、10月9日のシカゴマラソンに福士加代子が出場というニュースには驚いた。北京五輪代表選考レースだった3年前の大阪以来3年9ヶ月ぶり2度目のマラソン。トラックで堂々たる実績を残し、10年前のシカゴで2度目のマラソンにして日本最高記録を樹立した高岡寿成の再来を期待したが、2時間24分台で3位という結果は、決して悪い結果ではないが少し物足りなかった。いずれにしても、彼女もこれでロンドン五輪のマラソン代表の有力候補には加わったが、24分台では「メダル候補」とまでは言えない。

5日前にようやく、明るいニュースが届いた。野口みずきが、実業団女子駅伝西日本大会で、エース区間の3区で区間賞を獲得して、「復活」をアピールした。さらに来年1月の大阪国際女子マラソンの出場を表明。主催紙系列のスポーツ紙(関西版)では、最終面の全面を使ってこのニュースを取り上げた。なんとか、ロンドンに間に合いそうだ。昨年のこの大会が、北京五輪欠場後初の復帰レースだったが、翌月の全日本大会で疲労骨折を起こしてしまった。同じ失敗を繰り返しませぬように。

そして、アテネ五輪代表の坂本直子もつなぎ区間ではあるが4区で区間賞を獲得し、最長区間の5区の北京五輪マラソン代表の中村友梨香につないだ。当初は調子が悪そうに見えた中村も区間2位の走りでアンカー重友梨佐につなぎ、ゴール手前での逆転優勝に貢献した。世界選手権直後の北海道マラソンでは北京五輪の補欠だった森本友が優勝。さすが天満屋。4年に一度には必ずピークに持ってくる。

男子に続いて女子も俄然面白くなってきた。まずは来月20日の横浜国際女子マラソンから、ロンドンへのチャレンジのドラマが始まる。



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