かたてブログ

片手袋研究家、石井公二による研究活動報告。

『義経一枚手袋』

2016-03-09 19:31:14 | 雑感

早朝、バイクで築地から家に帰っている途中、歌舞伎座前のガードレールに介入型片手袋が見えました。しかし信号の都合で停車出来ず、泣く泣く素通りしてしまいました。

しかし帰宅してからも気になって気になって。というのも、僕は出会った片手袋には絶対に演出を加えず偶然の出会いを大切にしているものの、「あそこに片手袋がある風景を撮ってみたいな~」と普段から気にしている場所が幾つかあるのです。

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最近その願いが叶った例としては、上野鈴本前なんかがあるんですけど。“歌舞伎座の前にある片手袋”というのも、長年夢見ていたシチュエーションだったんですよね。しかし願いがようやく叶ったのに、撮影が出来なかった、というのが悔し過ぎて…。

しかし、ふと思ったんです。「今日は仕事が休み。俺は銀座で映画を見るじゃないか!」と。銀座から歌舞伎座なら歩いていける距離。僕は決心しました。

数時間後。映画が終わり、僕は真っ直ぐ晴海通りを築地方面に歩きます。「もしかして既に無くなっているんじゃないか?」などと不安を感じながら歌舞伎座に到着すると…。

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ありました!歌舞伎座のお客さんが落したのか、銀座という土地柄なのか、ちょっと高級そうな革手袋です!取り敢えずこのアングルで押さえて、次は歌舞伎座が入るようなアングルで撮らなくちゃ!

…しかし。僕は前方に妙な気配を感じました。

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うわ!僅か数m先にもう一つあった!きっと休日の貴重な時間を使ってわざわざ戻ってきた僕を、片手袋の神様が祝福してくれているんだ!

だが、ちょっと待て。何かがおかしい。僕は二つの片手袋をよく見比べてみました。

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手首の部分に全く同じ金具。…これ、両手袋じゃん。そうなのです。落ちていた両手袋が、数m離れた位置に介入されていたのです。

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いや、片手袋なんて研究している僕ですから、当然両手袋も撮ってはいるんですけどね。

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それに何度も書いているように、両手袋は「そもそも片手袋をどう定義するのか?」という大問題を投げ掛けてくれる存在なのですが。

でも、僕が心底フェティッシュな愛情を感じるのはやはり片手袋の方でありまして…。

休みの日に時間を掛けて思った通りの結果では無い事が判明した瞬間、「片方だけの写真を撮って片手袋だった、という事にしちまおうか」という気持ちが全く芽生えなかったか?と聞かれると、正直0%とは言い切れません。論文執筆の為に実験結果を改ざんしてしまう科学者の気持ちが少し分かりましたよ。

だが、しかし!僕はこういう失敗もここで正直に皆様に報告する事を選んだんです。失敗じゃない。片手袋研究家としてまた一歩成長したんだ!

これからも起こった事実に対して真摯に向き合う研究者である事を、ここに誓います!

大団円!


『超人』

2016-03-03 23:04:37 | 雑感

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今日、この片手袋を撮る為、手袋を片方外している時にふと気づいたのです。

「片手袋を撮影する時は、自分も片手袋にならなければならない」…

「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」じゃないですけど、特に寒い冬、手袋をしている時にスマホで片手袋を撮ろうとすると、必然的に僕も手袋を片方外さなければいけない訳で(スマホ対応手袋なら話は別ですが)。

以前、その事が悲劇を招いたこともありました。

ニーチェは「怪物と戦うときは、自分自身も怪物とならないよう心せよ」と言いましたが、僕は既に自分自身も片手袋と化しているようです。

流石に今日のは僕自身も何を書いてんだか、訳分かりません。


『片手袋研究十周年を振り返る』

2015-12-31 21:33:00 | 雑感

今年もあと僅かになりました。

今年は片手袋研究十周年の記念すべき年。年初に、「やれる事は何でもトライしてみよう!」と密かに決意しておりました。その結果、自分でも信じられないほどの成果が得られ、飛躍の一年になったと思います。

まず年初に大好きなTBSラジオの番組、『オレーラ』に出演させて頂きました。何しろ僕は仕事中もずっとTBS聞いてますからね。番組中でも「マムちゃんからチキまで聞いてます」と言いましたが、嘘でも何でもありません。控室に宇多丸さんが番組で使ってるガチャガチャが置いてあったので本当に感動しました。

ラジオはその他に『くにまるジャパン』や『こころにきくラジオ』にも出させて頂きました。パーソナリティーやスタッフの皆様が、“片手袋の魅力”などという話を熱心に聞いて下さるので感動しました。そしてそれぞれの番組出演後、リスナーの皆様がメールを下さったり、片手袋投稿して下さったりと、ラジオというメディアの送り手と受け手の距離の近さを実感しました。

読売新聞や日経新聞、新聞メディアにも片手袋研究を取り上げて頂きました。新聞は普段と違う方面から反響がきますね。近所のお年寄りの方が「これあなたじゃない?」と話しかけてくれたのは嬉しかったです。

テレビも出演させて頂きました。『ワケありレッドゾーン』では片手袋の聖地である新木場周辺を探索したのが面白かったです。そして『タモリ倶楽部』。赤瀬川さん亡き今、なんとかタモリさんには片手袋研究を届けたい、と常日頃願っていましたが、十周年という記念すべき年に叶ったんですからね…。正直、緊張で殆ど何も覚えていませんが、一生の思い出です。

今年はネットメディアにも取り上げて頂きました。「ねとらぼ」では残された片手袋の使い道についてお話しさせて頂きましたし、 「TokyoWise」でも片手袋に対する熱い思いを語らせて頂きました。

そして今年は、神戸ビエンナーレ以来二年ぶりにアートの世界で片手袋作品を発表する事も出来ました。

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ソーシャルデザインアワード2015に出品させて頂いた『手から手』は、鑑賞者の方にも参加して頂く作品でしたが、100人近い方が参加して下さった事は今後に繋がる大きな力となりました。(こちらこちらの記事をご参照ください)

片手袋研究について語る機会が増える程、今までの研究成果がまとまって見られる場の必要性を感じ、HP『片手袋大全』を開設したのも大きかったです。当初考えていたよりも沢山の方が毎日訪問して下さっているようです。

こうして振り返ってみると、今まで地味に地味に続けてきた片手袋研究とは思えない一年ですね。神戸ビエンナーレ以降、徐々に声を掛けて頂くようにはなりましたが、今年は一気に世界が広がった感じです。

そう、世界が広がったんです。色んなメディアに登場出来た事が嬉しいのではなく、片手袋が見知らぬ人と繋がる可能性を秘めている事に気付けた事、これが最高に嬉しかったです。

来年以降も機会があれば色んな事に挑戦してみようと思っていますので、気になる方がいらっしゃいましたらお声をおかけください!

最後に毎年恒例、2015年最も印象的だった片手袋=MVS(Most Valuable KATATEBUKURO)を発表させて頂きます。今年はこちら!

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いや、実はこれは今年出会った片手袋ではないのですが、タモリさんがこの片手袋が発生した背景の物語を想像して下さったのが嬉し過ぎたので。本当に涙が出ました。

それでは皆様、来年も片手袋研究を宜しくお願い致します。良いお年を!


『先週のタマフルのちば先生』

2015-10-27 22:23:14 | 雑感

僕が毎週聞いているラジオ、『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル(通称タマフル)』。先週のゲストが漫画界の大御所、ちばてつや先生でした。

ポッドキャストもあるのですが、一週間ほどで削除されてしまうと思います。

ちば先生の熱狂的ファンであるという宇多丸さんが、繰り返し述べていたちば作品の魅力。それが「物語が主人公の為に奉仕していない。脇役や背景に描き込まれている人に至るまで、様々な人生を背負っている事を感じさせる」というものでした。

宇多丸さんはその理由をちば先生の思想や倫理観からくるものと考えていたようですが、ちば先生の応えは「楽しいから」というシンプルなもの。つまりモブシーンの背景や人物を色々と想像しながら描き込むのが好きなんだそうです。

この非常に興味深い対談を聞いていて、思い出した人物がいます。このブログでも度々触れていますが、僕が最も敬愛する映画監督、ジャック・タチです。

タチの事を詳しく語り出すと止まらなくなってしまうのでやめておきますが、彼が唱えた理論に「喜劇の民主主義」というものがあります。

タチは「フランスのチャップリン」と呼ばれる事もありますが、チャップリンと決定的に違うのがこの考え方だと思います。つまり、誰か一人の特別な人が面白さを持っているのではなく、人間であれば誰でも面白さを発揮する瞬間がある、という考え方です。

言葉で言うのは簡単ですが、それを映画として作品化するとどうなるか?タチが喜劇の民主主義を究極的に追求した作品が『プレイタイム』という作品ですが、主人公という主人公はいないし、物語という物語もない。しかし画面に映る殆ど全ての人が何かしら妙な動きをしていたり、背景にも様々な仕掛けがしてある。それが二時間程永遠に繰り広げられる、という凄まじい作品なのです。是非是非、一度ご覧になってみて下さい。

本当に有難い事に、最近片手袋研究を取り上げて頂く機会も増えました。そうなってくると、「僕が片手袋研究を通じて伝えたいことって何だろう?」と自問自答したりもしました。でも正直言って、“伝えたい事”なんて無いんですよね。

何か伝えたい、という衝動や欲求があって片手袋研究を始めた訳ではないんです。いつの間にか始めてしまっていたし、理由などなく続けている。

でも、“分かってきた事”はあるのです。それがまさに、ちば先生の作品やタチの喜劇の民主主義に通じる事なんです。

どんな人にも不幸や優しさを発揮する場面が訪れる。また、そういった場面が訪れるまでにも様々な物語がある。そういった“特別ではないかもしれない私達”でも背負っている豊かな物語。それを象徴しているのが片手袋だし、それを紹介する事が個人的な趣味としての片手袋研究を離れた時に僕が意識している事なのです。

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※子供用の片手袋なんて特にそうです。凄く大事にしていて落として悲しんでるかもしれないし、お母さんに怒られてるかもしれない。でもまた新しい手袋を買って貰って喜んだりもしてるかも。色々な物語が想像されます。

間違っても「ちば先生やタチと自分が同じ事を考えてる」などと大それたことを言いたい訳ではありませんが、とにかく片手袋研究を深めていくきっかけは思わぬ所に潜んでいるのです。

それが最大の楽しみなのかもしれません。


『変 HEN』

2015-10-08 21:33:06 | 雑感

今週は久し振りに、とある媒体の取材を受けました。とても楽しい取材でしたので、掲載される時はまたご報告します。

取材を受けていると、自分の喋った事に自分で納得してしまう事があって。今回再確認したのは、「僕は変わった事、オリジナリティ溢れる事をやっているつもりはない」という点でした。

メディアで片手袋研究を紹介させて頂く際、「自分の変さアピール」をしなければならない局面も少なくありません。でも何しろ僕が片手袋に魅かれ始めたのは幼少の頃だったので、片手袋研究をする事は変な事だ、という意識がないんですね。

それと僕の片手袋研究を知った方が、「片手袋の写真を撮るのなんて○○さんもやってるよ」という反応を返してくる時があります。でも、そもそも僕が幼少の頃片手袋を好きになるきっかけとなったのは、ウクライナの『てぶくろ』という古典絵本。つまり僕が生まれる前から片手袋に魅かれ、作品にまで昇華してしまった人達がいる訳です。自分だけが片手袋に注目している、なんて一度も思った事がないのです。

まあ、研究対象として一生関わっていこうとしている人は僕以外にいないかもしれませんが、僕は「片手袋は自分だけのものだ!」と主張するより、むしろより多くの方々と魅力を共有していきたいんですよね~。

つまり、変人アピールがしたい訳じゃないんです!

その為に今後も、皆様に片手袋の面白さと魅力を伝えられるチャンスを与えて頂けるなら、出来る限り発信をしていこうと思っております。

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なんか硬い&抽象的な話になってしまいましたので、最後に最近出会った片手袋写真を。

久し振りにペッタンコになっている片手袋と出会いました。