最初はアップの写真だけしか撮っていなかった。
昔は片手袋を見つけると毎回、「写真におさめられるのはもうこれが最後かもしれない」という気持ちになったもんだ。だから、確実に落ちていた事が分かるよう、証拠写真のように面白味のないアップで撮っていた。
しかし何年か経つと、「これが最後」なんて有り得ないぐらい、物凄く沢山の片手袋がまちに落ちている事に気付く。そうすると余裕が出てきた。そして考えた。
大切なのは片手袋そのものだけじゃない。それが落ちている事によってほんの少しだけ変化したまちの空気感。その空気感こそが片手袋の醍醐味なんだ!
以来、僕は背景や状況もフレームに収めるようになっていった。今では片手袋がよく見えないぐらい遠くから写真を撮る事もある。
僕が遠くから片手袋を写すほど、僕と片手袋の距離は近くなっていく。