先日のブログの通り、今までのKAZE年鑑より誌面を抜粋し皆様にお届けしようと思います。
KAZE年鑑には俳優たち、 風に関わってくださる皆様からの声が載っています。
普段は見ることのできない役者の一面も垣間見えたり・・・
そんなKAZE年鑑から今回はこの一文をお届けします。
KAZA年鑑 2016(2017/4 発行)
見出される時ー二〇一六年、出会った “ことば” より
小さなノート 稲葉礼恵(俳優)
昨年の春に引っ越しのための準備をしていた時のこと。本当に大切なものを大切にできるように、要らないものは思いきって捨てようと苦手な作業に取り掛かった。
机の引き出しの奥から小さなノートが出てきた。どうやら五年ほど前に書いた日記・・・というより、心の内をどうしても吐き出したい時に書いていたもの。こういうものは時間が経って読み返すと大抵恥ずかしい内容で捨てたくなることが多いのだが、今の自分に語りかけてくるものがあり捨てられず、持って行く荷物の箱に入れた。
そのノートには本からの引用もあり、私はこんなことを書き出していた。
「このごろは、誰も心に願いを持つなんてことはなくなってしまいました。けれども、マルテ、おまえは心に願いを持つことを忘れてはいけませんよ。願いごとは、ぜひ持たねばなりません。それは、願いのかなうことはないかもわからないわ。けれども、本当の願いごとは、いつまでも、一生涯、持っていなければならぬものよ。かなえられるかどうかなぞ、忘れてしまうくらい、長く長く持っていなければならぬものですよ」
詩人リルケの自伝的小説『マルテの手記』の中で、少年時代のマルテに母が語った言葉です。
“願うこと” よりも “如何に叶うか”ということだけが大事にされ、叶わぬ願いは意味がないから捨てろと言われるのは今の時代だけではない。
だからこそ、どの時代のどこの国の詩人や芸術家も、自分を押し流していきそうな波に抗い、本当に美しい言葉を心に秘めていたのだろう。
今、劇場は人が心に隠し持っている本当の想いや言葉をさらけ出せる希少な場なのではないかと思います。私たちは毎年、全国の巡回公演、東京のレパートリーシアター、そしてもうひとつの活動拠点であるみなかみ町でたくさんの人たちと出会い、対話する機会にも恵まれています。
人が持っている願いを聞き取り、あらゆる方向から押し寄せる流れの中で自分らしく立っていられるための本当の言葉を、一人ひとりに穏やかに語りかけられる心を持ちたいと願っています。
小さなノートはまたいつか読み返したり新しい言葉を書き加えたくなるまで、本棚の中に並んでいる。
世界最高のシルクを作った原点。日本には月夜野しか無いのでしょう。
演劇の原点は、日本のアイドルの元祖、出雲の阿国。私の連れの故郷に近し。
これ見よがしの堂々たる異端・邪宗ぶりにも関わらず、幕府は阿国を弾圧した時の反動が怖くて、拷問や処刑したリ出来なかったらしい。出雲大社に向かって大国主命の日本上陸地点の稲佐の浜から曲がる登り道には、小さく質素な阿国の墓があるが、観光客は気づかない。晩年に読書と連歌三昧の日々を過ごした小さな四阿(あずまや)も。
もし、厳しい弾圧を受けていたら、こうしたのどかな晩年の言い伝えいかににドラマチックな異説が出ていたろう。
その代わり、まず江戸初期に常設の舞台から女歌舞伎が完全に追放されたのだ。 これも「非対称」と理解しておきます。
●参照●ウェブサイト『波乱万丈、江戸の歌舞伎と芝居小屋』2013/3/26