その面白さにハマってなかなか抜け出せない韓国児童映画の世界。今回は《ヨング》シリーズでその筋の方々に知られるシム・ヒョンネ大哥の主演作『スーパーホン・ギルトン』(88)をご紹介。
良家の御曹司であるギルトンは勉強もせずに厳しい親の目を盗んで遊んでばかりいたが、ついに父親の逆鱗に触れ家を追い出されてしまう。あてもなく旅をするギルトンは途中、白雲導師なる武芸の達人に出会い、彼の元、厳しい修行を行い、ついに距離や時間を超える技を会得し免許皆伝となる。超人的な武芸を身に付けたギルトンは途中出会った仲間たちと共に、村を荒らしまわる山賊一味や高麗の地図や美女たちを奪わんとする中国人武芸家たちと対決する…
韓国アニメ映画のパイオニア、キム・チョンギ監督(『ロボットテッコンV』他)と、《ヨング》シリーズで有名なシム・ヒョンネが『宇宙から来たウレメ』シリーズに続いて製作した実写映画である。実はヒョンネ大哥、この時点では自らの当たり役である《ヨング》シリーズをまだ開始していないのだが(第一作『ヨングとテンチリ』は89年作)、既に年平均3本も主演する売れっ子であった。この映画が公開された年だけでも以前紹介した『スパークマン』や『ウレメ』シリーズ第5弾の2本が劇場で流されている事を思うと、ヒョンネ大哥の韓国での人気(子供限定)の高さにビックリである。
近年のTVドラマ版『快刀ホンギルドン』や、マニア御用達の北朝鮮版『洪吉童』を例に持ち出さなくとも、ホンギルトン映画の売りは何といっても武芸アクションである。
この作品も例外でなく、アニメ合成を駆使した幻術シーンと共に拳脚や刀・槍を用いた格闘シーンが多数用意されており、特に中国人武芸集団との戦いではクンフー映画でおなじみの扇子やヌンチャク、そして民俗音楽で使用するシンバルまでもが登場し、チープなワイヤー・ワークと相まってまるで武侠映画の様である。ヒョンネ大哥も、本格的なテコンドー・アクションはダブルの方に任せ、「笑いが本職」とばかりに蘇化子じーさんの扮装をして酔拳の真似事をして楽しませてくれる。
児童映画という、観客が限定されたこのジャンルは暴力表現や性描写などが厳しく制限され、予算もギリギリという見方によっては八方塞のような状況だが、その一方何を扱ってもいいというフレキシブルな面も持ち合わせており、大監督を志す若手監督の登竜門的存在となっている。明日をめざし未来の大監督や俳優たちは、予算が無い代わりに肉体と頭脳をフルに駆使し、面白い作品(=次回も仕事がもらえるような結果を出す作品)作りに励んでいたのだ。
ヒョンネ大哥もそんな児童映画の厳しい環境に揉まれながら、次第に自分の作品の製作や監督を兼任するようになり、遂には自らの映画制作会社《ヨングアート》を設立し、海外セールスまでされた超大作怪獣映画『D-WARS』を生み出すまでになったのだ。一般観客にバカにされ、興行的失敗を繰り返しながらも己の道(ヨング道?)を邁進するこの姿、すごいよヒョンネ大哥!
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