■■【経営コンサルタントのお勧め図書】200623 進化するデジタルトランスフォーメーション「Beyond2025」
■ 今日のおすすめ
『進化するデジタルトランスフォーメーション「Beyond2025」』
(SAPジャパン 松井昌代監修 プレジデント社)
■ DX「Beyond2025」とは(はじめに)
【経済産業省のDXとは】
経済産業省の「DXを推進するためのガイドライン(2018.12.12)」では、DXについて次のように定義をしています。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネス・モデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と。
【経済産業省の「2025年の崖」とは】
経済産業省の「DXレポート(2018.9.7)」では、『複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025 年までに 予想される IT 人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、2025 年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍。2025以降経済損失算定根拠は「DXレポート」参照。)にのぼる可能性があるとし、この場合、ユーザ企業は、爆発的に増加するデータを活用しきれずに DX を実現できず、デジタル競争の敗者となる恐れがある』とし、DXを実現し「2025の崖」を克服する必要性を訴えます。
【紹介本の『進化するDX「Beyond2025」』から学ぶ】
紹介本の著者のSAPジャパン・Industry Thought Leaderメンバー19名(以下“SAP・ITLM19”と略称)が著書『進化するDX「Beyond2025」』を通して著書のコンセプトを次のように示しています。『「2025」という数字が、経産省「DXレポート」より7年前の2011年に、リンダ・グラットン教授(人材論・組織論の世界的権威)の著書「“ワーク・シフト”孤独と貧困から自由になる働き方(2025)」に表されており、著書の中でグラットン教授が予言している“5つの要因、32の現象の全てが現在実現していることに注目し、経産省の「DXレポート」や「DX推進ガイドライン」で示すテクノロジーの進化中心ではなく、テクノロジーの進化・DXを手段として、あるべき未来を見据えた取組みをし、「“ワーク・シフト”(2025)」の理念を超えたい』が“SAP・ITLM19”のコンセプトでした。
この様なコンセプトの下、紹介本を通じて、SAPの取組んだソリューション提供事業を5章の章立て、34の事例により紹介しています。
これらの取り組みが、結果としてSAPのコーポレートビジョンである“Help the word run better and improve peaple’s lives”と重なったとSAP・ITLM19は誇りを持って語っています。
次項で34の取組み事例から注目したいソリューション提供事業3つをご紹介します。
■ SAPのベンダーとしてのDXへの取組み事例から学ぶこと
【SBBの“再生可能”をテーマにした電力デマンドマネジメント】
SBB(スイス連邦鉄道)はスイス全土の60%を保有する鉄道会社です。現在消費電力の92%は水資源を主とした再生可能エネルギーで賄っています。2030年までに消費電力は20~30%増加すると見込みます。増加分を含め2025年までにこれを100%にする目標を掲げ、SAP HANA Streaming Analyticsを利用してリアルタイムの電力需要データを収集(ストリーミングデータをオンザフライ方式により収集)し、電力ピークを予測し暖房温度(SBBは冬の需要が大きい)を自動的に下げることで電力消費を抑制(ピークシェービング)し目標を達成する実証試験を行っています。
このシステムの稼働を有効にするため4000両の車両の改修を進めています。これによりSBBの消費電力に対応するための再生可能電力インフラを新たに造るコスト(100億円)に比し半分のコストで済むという計算をしています。
日本でも東急電鉄が2050年までに再生可能エネルギーによる消費電力調達比率100%を目指し、2019年10月から取り組んでいます。
【非デジタルネイティブ(デジタル化の遅い電力事業など)のクラウド化への挑戦】
イタリアのEnel社(大手エネルギー事業会社)は日本全国の顧客の70%に当たる6000万(イタリア国内3200万)の顧客を持つ非デジタルネイティブ電力会社です。Enelは、電源の再生可能エネルギーへの移行、分散型電源の増加に対応するためのデマンドレスポンスの最適化対応、データに基づく分析型の設備メンテナンスへの移行、顧客に向けたスマート商品によるサービス提供などを進めるため、Everything“as a Service”(全てのシステムをクラウド化しビジネスを加速化・最適化・効率化・「モノ」から「コト」へのサービス化などを実現)をゴールに定めDXを進めています。
EnelはDXの最初のステージで、SAP HANA Enterprise Cloud上で、SAP公共企業向け料金計算ソリューションを使い、イタリア国内3200万の顧客の料金計算をクラウド上で実現(検針の自動化)しました。
日本の非デジタルネイティブ事業(電力、ガス事業)で、Enelと同様以上のDXを実現し、労働人口減少・SDGsへの対応などの社会貢献の実現を期待したいです。
【新たな差別化が生まれる“X-Dataからの顧客体験”】
SAPは、従来は、企業が業務データ(Operational data以下O-Data)を基にPDCAサイクルを回すソリューションを強みとしていました。しかし、O-Dataの前段階の体験データ(Experience Data以下X-Data)が業務改善の成功率を高める最善策となるケースを発見し、X-Dataをビジネスプロセスに取込み、O-Dataと組み合わせPDCAサイクルを回すことで改善の最善策を打てる包括的ビジネス基盤を提供しようとX-Dataの取り込みに強いQualtrics社を買収し、提供体制を確立しました。
そのソリューション提供事例が、アメリカ東海岸に拠点を置く格安航空会社のjet- Blue Airwayのケースです。このソリューションの特徴は、①顧客の声を収集し、②そこからインサイト(潜在的な購買要求)を抽出・提示、③改善アクションを促す、エクスペリエンスマネジメントプラットフォームを提供することです。
jet-Blueは、このソリューションを活用して得た、カスタマー及び従業員のX-Dataを改善策に用いた結果、年間コスト削減300億円、改善したネットプロモータースコア(NPS;顧客ロイヤリティーを測る指標)が13ポイント改善、年間増収額400億円を実現しました。
jet-Blueは「人間性を養い高めることを」をミッションとして掲げています。ソリューションから得られたX-Dataに基づくお客様の声を現場(フロント)に届けると同時にカスタマーファーストのきめ細かい即時対応を最優先として考え行動した結果がこれらの経営効果に繋がったとしています。
今から25年ほど前、アメリカのサウスウエスト航空が、バランス・スコア・カードの手法で経営改善に成功した事例と比べ、jet-Blueの成功はまさにDXの時代の成功事例との感を強くします。
【その他の事例も参考にしてください】
字数の関係もあり、以上の3例のみのご紹介となりましたが、この他にもDXがもたらす企業の未来像が見えて来る貴重な例が多くあります。是非本紹介本を開き、これからのDX経営のご参考として下さい。
■ 「2025年の崖」を克服し、「Beyond2025」であるべき未来を切開こう(むすび)
コロナ禍の中、新しい社会・ビジネス・働き方の在り方を考える時を迎えています。DXにおいても、「2025年の崖」を乗り越え、「Beyond2025」の未来に向けたあるべき姿を求めていく大切な時と思います。
紹介本の事例を参考にしながら、これからのデジタルテクノロジーの時代のあるべきビジネス・モデルの戦略の策定・実行をしていきたいですね。
■ 【酒井 闊 先生 プロフィール】
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
http://sakai-gm.jp/