■■【経営コンサルタントのお勧め図書】411 資本主義の終わりの始まり
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
『資本主義の終焉と歴史の危機』(著者:水野 和夫 集英社新書)
■ 世界史上稀な、日本の長期ゼロ金利政策から何を読み取れるか(はじめに)
日本のゼロ金利政策は1997年に始まりました。当時10年国債の利回りは初めて2%を下回り、2014年10月末現在では、0,4666%です。さらにアメリカ、イギリス、ドイツの10年国債も金融危機後一時2%を下回り、短期金利の世界では事実上ゼロ金利が実現しています。
この低金利の要因として、①事業投資の機会を見出せていない、②エネルギー・資源等の制約と新興国の近代化による資源価格の高騰により、交易条件が悪化し利潤率が低下している、③投資が向う「物理的・地理的空間」(大航海時代の新しい市場の発見が典型例)や「電子・金融空間」(アメリカにおける銀行・証券の兼業解禁による投資マネーの拡大が典型例)に限界が来つつある等を著者は挙げている。
それではこれらの現象をどのように読み取るべきか。著者は、経済には「中心」(例えば植民地時代の宗主国)と「周辺」(例えば植民地時代の植民地)が常に存在し、かつ経済成長には「周辺」の存在が必要と説く。20世紀末までは、「中心」=北の先進国、「周辺」=南の途上国という位置づけで経済成長を遂げてきた。しかし21世紀に入ると、BRICSの台頭で、かつての「周辺」がなくなり、新たな「周辺」を作る必要が出てきた。その新たな「周辺」を作った結果が、サブプライム問題、ギリシャ・キプロス危機、日本の非正規社員化問題だと主張するのです。
この現象を著者は、資本主義が臨界点に達していると捉えるのです。
■ 資本主義を歴史から解き明かす
【資本主義はいつが起点か】
資本主義の起点はヨーロッパにあります。資本主義の始まりについては、12~13世紀説、15~16世紀説、18世紀説があります。
有名なマックス・ウェーバーの「資本主義の倫理と資本主義の精神」は、宗教改革、特にカルヴァン主義が資本主義の発生に大きな影響を及ぼしていると説いています。その意味では18世紀説に属するのでしょう。
15~16世紀説は所謂「大航海時代」において、ポルトガル、スペインを中心とした国家が行った「海賊資本主義」という説です。
しかし、著者は次の二つの歴史的事実を採り上げ、12~13世紀説を支持します。
一つは、1215年のラテラノ公会議(キリスト教会の公会議)において、利子が事実上容認されました。これと時期を同じくして、イタリアのフィレンツェに資本家が登場し、金融が発達し始めるのです。この様な背景と相俟って、「利子」が、事実上容認されていったのです。
二つは、1158年神聖ローマ帝国がボローニャ大学の自治権を認め、これに続きローマ教皇庁も13世紀のはじめに「中世大学」の認定を行った。「知」の神から人間への解放が行われ、資本主義を支える知識が一般に普及し、資本主義を支える要因になったと指摘をします。
【資本主義の出現する前はどんな時代であったか】
著者は、ヨーロッパの歴史は「蒐集(コレクション)」の歴史だとします。興味を引く定義です。ヨーロッパ発の「蒐集」はノアの箱舟に始まるとします。それ以降資本主義が起こるまでのヨーロッパの歴史は、中世キリスト教による魂の「蒐集」を行ってきたとします。中世に対し、近代資本主義はモノの「蒐集」を行ったとします。
この中世までの時代は、農業中心の原始社会、著者の言うところの経済がゼロ成長の「定常状態社会」だったのです。
【資本主義はどのように発展したか】
資本主義の始まりを著者の言う12~13世紀とするならば、当時のヨーロッパ社会全体は未だ過去の体制をひきずり乍ら、フィレンツェ等の都市国家で、少しずつ資本主義への道を歩み始めました。著者はこれを「文明社会」と位置づけ、「近代社会」への過渡期としています。
次にくる「近代社会」では、爆発期といわれる経済成長が起こります。まずは、大陸発見に始まる「大航海時代」です。最初は、スペイン、ポルトガルといった国が、アフリカ、ブラジル、インカ帝国などの南アメリカ、インド、フィリピン等を征服し領土を広げます。征服した国からの略奪や、交易等により富を蓄えていきます。
つぎに、ヨーロッパ史における大きなターニングポイントとなる史実が起きます。それは16世紀から17世紀にかけて、「陸の国」(軍事力による領土、すなわち農産物を「蒐集」)であるスペインが、「海の国」(海洋貿易=市場を通じて物質的〈資源等〉なもの、最終的には利潤を「蒐集」)イギリスにより敗れるのです。スペインの象徴的な軍事力である「無敵艦隊」が負けるのです。この少し後イギリスのピューリタンが、メイフラワー号でアメリカに渡り、150年後の1776年にアメリカは独立し「海の国」への歩みを進めます。こうしてヨーロッパの覇権は「陸の国」から「海の国」へと移り、英米の繁栄への時代へと移っていくのです。
一方ドイツ、フランスは、第二次大戦後「陸の国」として、EU帝国の拡大により繁栄への道を作ります。
日本も、第二次大戦後は、アメリカの流れの中で、「海の国」としての繁栄への道を作ります。
著者の言う「爆発期」は1970年まで続きます。
【今は、未来社会に向う前の資本主義の終焉期である「現代社会」】
著者は、1970年まで順調に成長して来た資本主義も終焉期に入ったとします。先に述べましたように、嘗ては「周辺」であった新興国が経済成長を遂げつつあり、先進国の交易条件の悪化による利潤率の低下など、日本も含めた先進資本主義国は、国債の利率に象徴されるように、資本主義の限界に達しつつあるとします。
ゼロ金利政策の結果として、バブルの発生と崩壊にも脅かされています。
この「現代社会」を、著者は資本主義の終わりの始まりと表現しています。では、未来社会とはどのような経済社会なのでしょうか。
■ これからの時代をどのように読むべきか(むすび)
紹介本は、未来社会は「定常状態社会」と説きます。一つの考えとしては肯けますが、本当にそうだろうかと疑問も湧いてきます。いずれにしても大変難しい局面にあることは理解できます。この紹介本で挙げられた問題に加えて、もう一つ大きな問題があります。それは、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、生産年齢人口(15~64歳)が、2010年は8,173万人でしたが、50年後の2060年には4,418万人と45%減少し、老年人口(65歳以上)は、2010年の2,948万人から2030年には3,685万人、そして2060年には3,464万人と横這いが続くとしていることです。
この様な大きな問題を意識したとき、先行きをどのように読み、どのように対処すべきでしょうか。先ずは、先行きを「不確実性」と捉える、経営者の姿勢、組織の緊張感が大切なのではないでしょうか。「持続可能な発展」と「イノベーションにより、グローバルな市場で勝てる、製品、サービスを生み出していく」を課題として達成しながら、その時その時、先を見た経営をし、新たな手を打っていくことではないでしょうか。
いずれにしても、難しい時代に置かれていることを認識させてくれた紹介本でした。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。