恋愛ブログ

世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

7.お嬢様

2005年08月17日 | 自分の恋
 部屋の掃除をしていると、押入れの奥の方から綺麗なビー玉がコロコロと転がって出てきた。ビー玉を見ていると、お嬢様といわれていた女の子を思い出した。
 私が小学三年生の頃、近くの公園で男友達三人と野球をしていた。野球とはいっても、ピッチャーとキャッチャーとバッターで分かれて遊んでいた。
 私が打席に立って、おもいっきりバットを振ったら、ボールにあたり、大きな塀を越えて家の中へと入っていった。みんなはホームランと大声で笑っていた。
 家の中に入ったら絶対自分で取りにいかなければならない決まりになっていた。私はしぶしぶ一人でボールを取りに行く羽目になった。塀がある家は、映画に出てくるお城みたいに大きかった。
 プッシュホンを押すと、マイクから「何でしょうか」とアナウンサーのような声が聞こえた。
 「野球のボールが中に入ったので取らせて下さい」私は照れて言った。
 「どうぞ」と言われた後、ドアがガチャっと開いた。大きな庭を静かにコソッと入って、キョロキョロとボールを探していると、奥の方に女の子が窓越しに座っているのが見えた。お人形さんみたいにかわいらしい格好をしていた。
 私を見ると珍しそうな顔をして、手招きをした。近寄って行くと女の子は、庭の方を指差した。指先の向こうには古びたボールが落ちていた。私が打ったボールだった。高級感溢れた庭には合わないなと思った。
 ボールを拾ってすぐに帰ろうとすると、女の子が窓を開けて「遊びましょうよ」と言った。なんて答えていいか分からず立ち止まっていた。
 部屋の奥から、背が高くて綺麗な女の人が歩いて来た。
 「上がってお茶でもどうぞ」と部屋に招いてくれた。机の上にジュースとお菓子があった。私は苦笑いを浮かべて、部屋の中へと上がった。
 部屋の中は、大きなピアノがあって、フランス人形がたくさんあった。少し、女の子に似ていた。
 女の子が背が高い女の人にお母様と言っていた。どうやら母親のようだった。スタイルがよく、テレビのCMに出てきそうな母親だった。
 うちの二段腹に二重あごの母親とは比べ物にならなかった。
 「ゆっくりしていってくださいね」お母様と言われている母親は、ニコッと微笑むと部屋から出て行った。私は照れてしまって頭を下げた。
 部屋の中は私と女の子になった。何を話そうかなと考えていたら、女の子がクラッシックでも聞く?と聞いた。音楽の授業で聞いた事があったが、まさか本当に家で聞く人がいるとは思いもしなかった。
 仕方なく、うんと頷いた。
 女の子が奥の方でゴゾゴソとしていた後、静かなクラッシックが流れてきた。女の子がショパンだと言った。ショパンが食パンに聞こえたけど、聞き間違いだとすぐに分かった。
 「いい音楽でしょう」女の子が目を細めて私に聞いた。
 「そうですね」私はかしこまって答えたら女の子がケラケラ笑っていた。
 笑った後、楽にしていいのよと言った。楽に出来るはずが無かった。私と生活のレベルが違いすぎたのだ。
 お茶をすぐに飲んで、帰ると言ったら、女の子が寂しそうな顔をした。
「もう帰るの?もう少し遊ぼうよ」泣く一歩手前のような感じで言った。
「そんな事言われても」私は困ってしまった。外では、友達が待っているし、と言った時に、野球を一緒にしないかと提案した。
 女の子は、やった事が無いけどやってみると言った。
 四人で野球をする事になった。女の子がバッターで私が教える役にまわった。
 私が打ち方を教えて、ボールがバットに当たるまでやった。当たった瞬間、女の子はニコッと飛び上がって喜んだ。ドレスのような格好をして飛び跳ねて喜んでいる姿は今でも忘れられない。
 周りは暗くなっていた。ボールが見えなくなった。遠くからカレーライスの匂いがしてきた。テレビの野球のアナウンスがどこからか聞こえてきた。
 公園では私達以外誰もいなくなっていた。ブランコが寂しそうに一つだけ風に揺られていた。 
 「もうそろそろ帰ろうか?」私が言うと女の子は、涙を浮かべて泣きだした。
 「また、遊んでくれる?」女の子は赤いハンカチを取り出すと、涙を拭っていた。
 「もちろんだよ。いつでも遊ぶから泣かないで」私は女の子の頭をなでた。
 「ありがとう。私泣かない」
 「絶対約束だよ」みんなで指切りをした。その後、お手伝いさんが迎えに来て、お嬢様ご飯ですよと叫んでいた。帰る時間が来たようだ。
 その後、何度か私は女の子の家に遊びに行った。オセロやトランプゲームをした。その時に、悲しい顔をして、父親と母親が離婚すると言った。あんなにいい家庭がいきなり離れ離れになるなんてとても信じられなかった。
 引っ越さなければならないとも言った。私が寂しくなるねと言ったら、記念に大切な宝物をもらった。それがこのビー玉だった。
 「私の事忘れないで」と言って、泣きながら笑って私の手を握った。冷たくもあり、暖かくもある手の平だった。
 大人になって本当に思い出した。お嬢様と言われていた女の子。今頃どんな大人の女性になっているだろうか。
 きっと、テレビのCMに出てくる母親みたいな美人になっているに違いない。
 昔を思い出しながら、ビー玉をずっと転がし続けていた。

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (恋するうさぎちゃん)
2005-08-19 14:56:54
とても可愛らしいお話でなんだか物語を読んでいるみたいお嬢様と私。お似合いではないけれど不思議な二人野球は一回もやった事がないので一回やってみたいな☆か弱い子は得をします
返信する

コメントを投稿