１０．ファミレス ５

　「いらっしゃいませ」ガヤガヤとうるさい女の外国人が四人と男の日本人一人をつれてやってきた。
　四人ともナイスバディで、アイラインが目立っていて、目が鋭い女の人だ。片言の日本語を話していた。
　日本人の男は、いかにも金持ってます雰囲気をかもし出していた。手にはロレックスをはめていた。
　外国人の一人が私を見ると投げキッスやアイラブユーを連発してきた。私は対応に困って、立ち止まった。
　そんな事を繰り返しながら、私は苦笑いを浮かべながらテーブルへと案内した。　みんなが席に着くと金持ちのおじさんがサラダを一番に持ってきてくれと頼んだ。
　急いでサラダを持っていくと女の一人がメニューを指差して、目で訴えるように頼んでいた。私は照れながら聞き間違えないように、丁寧に受け答えをして、手に持っているコンピュータに打ち込んだ。
　「以上でよろしいですか？」私が最後の質問をすると女の一人が一生懸命ドリンクバー、ドリンクバーと連呼していた。その姿が滑稽で笑いが出そうになった。
　どうやら、飲み屋の帰りにやってくるようだ。
　ファミレスの近所に外国人専門のスナックがあると聞いた事がある。そこで働いている外国人なのかもしれない。
　キッチンの中の人に「また来ましたよ」と言ったら、「またかよ」と困った顔をした。最近毎日のようにやってくるからだ。
　毎日違う日本人をつれてやってくる。お金は勿論、日本人が必ず払って帰るのだ。
　いかに日本人がナイスバディに弱いのかが伺えた。
　私が頼まれたフライドポテトを持っていくと、乳が服からこぼれそうな外国人がマヨネーズ持ってきてと言った。
　「かしこまりました」マヨネーズをポテトにかける人はあまりいないので、少し疑問を感じたが、持って行くと笑顔で「ありがとう」と片言の日本語で言って、ウィンクをした。
　私もウィンクを返そうと思ったがうまくいかず、苦笑いしただけだった。
　頼まれた料理をすべて持っていくと、少し暇になったので、キッチンの人と話しをした。
　「あの女の外人から投げキッスをされて困っているんですよ。」
　「そうなの。きっと楽しみがないんじゃないかな。」
　「何でですか？」
　「それはね。外国から一人で来て、何も分からない日本にだよ。家族の為にスナックみたいな所で働かされて、家に帰ってもする事がなく、一人っきりでいて、家から一歩も出ないんじゃないかな。仕事に行ったらおじさんばかり相手にして、お前のような若い人ともたまに遊びたいんだよ。」お兄さんの言葉に感心させられた。さすがに年上だけあっていい事をいうなと思った。
　「お兄さんもそんな店によくいくんですか？」と聞いたら「たまにね」と笑っていた。
　その後に、「家族の為ならあまりバカに出来ませんね。」と言ったら、お兄さんは「そうかもね。」と言った。
　外国人が帰るとき、「アイラブユー」を一生懸命私に言っていた。まるで寂しさを紛らわすかのように。家に帰ったらまた孤独なのだろう。家族の為に嫌な仕事を日本でして、何故か私が悲しくなった。
　だからお金持ちだと日本人は外国人から勘違いをされているのかもしれない。
　ひょっとしたら、私達よりも本当の愛を知っているのかもしれない。
　家族という愛の深さを考えながら、私も精一杯「アイラブユー」を返していた。