１０．花火

　今日は、一年に一度の花火大会。ヒトミと出会ったのも花火大会の日だった。
　その時、浴衣姿で、彼女は友達と一緒だった。俺は、友達とはぐれて探しているところだった。花火が打ちあがる頃、彼女とぶつかった。彼女は綿菓子を食べていて、綿菓子が通路に落ちた。
　「ちょっと、何するの？」ヒトミよりも先に隣にいた友達が、うるさい口調で言った。俺は素直にごめんと謝った。
　「ごめんで済むなら警察はいらないわ。」尖った口調で言っていた。まるで鬼のようだなと思った。
　「別にいいから」ヒトミがとめに入った。なんて律儀な人なのだろうと思った。
　「いいじゃないわよ。弁償しなさいよ」と言って、づかづかと綿菓子の店に入って行った。俺は仕方なく付いていき、綿菓子を二人分払い、渡したのだ。
　「もうすぐ、花火始まるわ。これありがとう。」と言って、二人は会場へと向かっていった。
　「ごめんね。」ヒトミは、申し訳なさそうな顔をして、小走りに行った。浴衣姿の二人は、場所にマッチしていた。屋台がずらっと並び、綿菓子を持っている。背中には祭りと書いてある団扇が挟まっていた。
　そんな事をしているうちに、暗い夜空に花火が上がった。夜空に浮かぶ大きな花火。なんて綺麗な景色なのだろう。俺は、立ち止まってみていた。花火を見てたのか彼女を見ていたのか分からない。花火と彼女を合わせたら、まさに鬼に金棒だなと思った。
　友達を探す事約二十分。やっと見つかった。上では次から次へと花火が上がっていた。友達と合う瞬間に全部の花火が終わってしまった。もう少しゆっくり見たかったな等と不満を友達にぶちまけて、近くのファミレスによる事となった。
　ファミレスは多かった。待ち時間が三十分だった。俺達は暇なので、待つ事にした。待っていると、ファミレスの中から、女二人が呼んでいた。さっき出会った二人だった。明るいところで見る浴衣姿の二人は、眩しかった。室内の明かりが眩しかったのかもしれない。
　店員を呼んで連れなのでと言って、テーブルまで案内してもらった。２対２の合コンのようになった。映画の話しやくだらないジョークを言って、話しを盛り上げた。携帯の番号を交換して、今度遊ぶという事になったのだ。それから、一年が経った。
　また、同じ花火大会の日だ。今度は、友達ではなく、彼女と一緒だった。花火が上がった。
「わーきれい」浴衣を着ている彼女の横顔をそっと見ていた。花火の光で淡く照らされていた。
気の利いたセリフを言おうとしたが飲み込んだ。二人の時間がいつまでも続けばいい。夏だけの花火のようには、終わりたくないと心の中でそっと思った。