ANAは通期業績据え置き JALが下方修正する2つの理由

「需要の大幅な減少を受け、積極的な供給調整で変動費を抑え、固定費を削減してきたが、減収の全てを補うには至らなかった」。JALの菊山英樹最高財務責任者は1日、こう話した。
JALの20年4~12月期決算は、売上高が前年同期比68%減の3565億円、EBITは2941億円の赤字となった。足元ではコロナ禍の「第3波」が襲来し、緊急事態宣言や「Go Toトラベル」の一時停止が継続中だ。21年3月期の業績見通しは売上高が従来予想比700億~1400億円減の4600億円となるなど、下方修正に追い込まれた。
ANAHDも苦しい。1月29日に発表した20年4~12月期決算は、売上高が前年同期比66.7%減の5276億円、営業損益は3624億円の赤字となった。通期の業績については従来、3月末までに国内線需要がコロナ禍前の7割、国際線が5割まで回復するとの前提で、営業赤字が5050億円に上るとしていた。「国内線の回復について、前提が変わってきているのは事実。国際線の5割という数字も大きく崩れるのは覚悟している」(ANAHDの福沢一郎取締役)
ただ、ANAHDは通期業績見通しの見直しには踏み込まなかった。福沢氏は「今後の動向は慎重に見極める必要がある」としながらも「21年1~3月期の多少の下振れはカバーできる」と話す。
実は、20年10~12月期だけを見ると、両社は想定を上回る収益を得ていた。
国際貨物の単価、昨年の2倍
JALの売上高は1617億円、EBITは702億円の赤字。JALは20年10月末に発表した従来の業績見通しを、21年3月末までに国内線需要がコロナ禍前の72~87%、国際線が25~45%まで回復する前提で算出していた。「その下限を推移したという想定と比較すれば、10~12月期の収支は100億円ほど上振れした」(菊山氏)。一方ANAHDは売上高が2357億円、営業損益は814億円の赤字だ。「10~12月期は計画比で330億円、収支が改善している」(福沢氏)
100億円と330億円。売り上げ規模の差だけでは説明できないこの上振れ幅の違いには、貨物事業が大きく関わっている。
国際航空貨物は現在、旅客便の大幅減便による貨物スペースの供給不足が続き、運賃が上昇している。JALによると、国際貨物の単価は前年比2倍前後で推移しているという。
航空各社は貨物専用便を多く運航し、需要を取り込もうと必死だ。JALは20年4~12月に計9471便を運航。特に10~12月期は他社便をチャーターしてまで貨物を輸送し、12月に限ってはほぼ前年並みまで輸送量が回復した。国内線を含めた貨物郵便事業の10~12月期の売上高は374億円で「計画に比べ100億円程度上振れした」(菊山氏)。4~12月期まで広げると909億円となっている。
ただ、JALは貨物専用機を持っていない。JALの貨物便はほとんどが旅客機に客を乗せず、下部にある貨物スペースに荷物を積むスタイルで効率は良くない。
「Go To」への依存度に違い
一方、ANAHDは貨物専用機を20年12月末時点で11機保有している。特に19年の導入当時は米中貿易摩擦などの影響で航空貨物の市況が悪く、「お荷物」扱いだった最大積載量が100トンの米ボーイング製大型機「777F」がフル回転中だ。
国内線を含む貨物郵便事業の20年10~12月期の売上高は592億円、4~12月期は1207億円だ。特に10~12月の国際貨物収入は過去最高を更新し、前年同期比で234億円の増収となっている。
航空貨物の市況は激しく変動するため、平時は旅客とともに貨物を運ぶだけのJALの方が「保守的」(JAL関係者)ではあるものの、当然、需給が逼迫している状況では一気に多くの貨物を運べる専用機の方が経済合理性が高い。両社は貨物事業単体の利益水準を公表していないものの、ANAHDの方が現状は「稼げる」状態であるのは間違いなく、20年10~12月期の計画に比べた業績の上振れ幅の違いに影響を与えたとの見方ができる。
加えて、「Go Toトラベル」への依存度の違いも見えてきた。「Go To」が一時停止となった20~21年の年末年始。両社の20年12月25日から21年1月3日の国内線旅客数を比較すると、ANAHDが前年比58.4%減、JALが62.3%減だった。

「Go To」に東京発着の旅行が追加された20年10月の国内線旅客数は、ANAHDが前年同月比58.6%減、JALは47%減だった。JALはマイルを交換した「特典航空券」の利用者を旅客数に含めるなど、旅客数の定義が両社の間で異なるため単純比較はできないが、少なくとも「『Go To』の恩恵はJALの方がより受けていたのではないか」とみる業界関係者は少なくない。
これを裏付けるのが20年10~12月の旅客単価だ。JALは前年同期比9.1%減の1万3265円、ANAHDは7%減の1万4788円だった。「Go To」利用の場合は旅行会社を経由しており、旅客単価が低くなりやすい。それを反映した数字といえる。
緊急事態宣言は10都府県で3月7日まで延長となり、「Go To」停止も長期化しそうだ。「Go To」への依存度の違いは21年1~3月期の業績にも影響を与える。現状の業績見通しをみると、JALは通期で4200億円に上るEBITの赤字幅のうち、1258億円を1~3月期で計上せざるを得ないとみている。
対してANAHDは通期で5050億円を見込む営業赤字のうち、1426億円を1~3月期で計上するとみている。両社とも1~3月期の業績は、最悪だった20年4~6月期と、回復傾向が見え始めたもののコロナ禍の「第2波」に苦しんだ20年7~9月期の間程度とみているわけだ。
従来の業績見通しを両社が示した20年10月末時点では、「Go To」は業界にとって「恵みの雨」だった。ただその恩恵の受け方には多少の濃淡があった。21年1~3月はその恩恵をほぼ受けられない可能性がある。JALの業績予想はあくまで宣言の解除時期などは織り込んでおらず、足元の予約状況などから導き出したものだというが、「Go To」停止の誤算の大きさが、業績見通しの修正の一因になったといえる。