2020.05.18 乗りものニュース編集部
ジェット旅客機がデビューしてから70年近くが経過し、あらゆる部分で旅客機は大きな進化を遂げていますが、唯一あまり変動がないのが速度です。歴史的な背景をはじめ、そこにはたくさんの理由がありました。
70年以上頑なに破られない「マッハ1」の壁
1952(昭和27)年に、イギリスのデ ハビランド エアクラフト社が開発した世界初のジェット旅客機、DH106「コメット」が運航開始してから70年近くが経過した2020年、いまやジェット旅客機は、珍しいものではなくなっています。
そのようななか、ジェット旅客機の「スピード」はどれくらいの進化を遂げたのでしょうか。
旅客機の速度は音速を1とし、それと比べてどれくらいかという「マッハ」で表されることが多いです。マッハ1の速さはジェット機が巡航する高度1万mの場合、およそ300m/秒、馴染み深い時速に直すとおおよそ1080km/hに相当します。
黎明期のジェット旅客機の巡行速度は、「コメット」がマッハ0.68(約735km/h)、その6年後となる1958(昭和33)年に路線に投入された、ボーイング初のジェット旅客機「707」が、それより早いマッハ0.8(約864km/h)です。
一方2020年現在のジェット旅客機の巡行速度は、ボーイングの主力機種で、2011(平成23)年にデビューした「787」がマッハ0.85(約918km/h)で、
日本航空 Boeing 787-9 (JA873J)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/fe/126c53e7b17f4dc3e3e72dfe9eddea49.jpg?1613781450)
2019年にJAL(日本航空)が導入したことでも知られる、エアバスの最新モデルのひとつ「A350 XWB」も、ドイツのルフトハンザ航空によるとマッハ0.85と、いずれもマッハ1は超えていません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/29/66253b4d1843a083400ab5d516613177.jpg?1613781225)
黎明期のモデルと現行のモデルとでは、コックピットや座席数、客室の仕様やエンジンの騒音や燃費といったあらゆる点で、著しい進化を遂げています。ところが巡行速度については、ボーイング707が飛んでから現行モデルまで、これらほどは大きく変わっていないのです。
スピードが上がらないワケは「コンコルド」まで遡る
ジェット旅客機の速度が上がらない大きな理由は、効率の問題が挙げられます。もちろん技術的には「超音速旅客機」を飛ばすことは可能で、その代表的なものが1969(昭和44)年に初飛行した「コンコルド」です。その速さはマッハ2.02で、時速換算では2200km/h弱に相当します。そして開発中止とはなったものの、ボーイングも1960年代に超音速旅客機「2707」の開発を計画していたなど、かつてはより速いモデルをつくろうというトレンドはありました。
ところが1970年代ごろから「速さより量」の時代へと移ります。きっかけは、「コンコルド」と同年に初飛行を迎え、大量輸送時代の先駆けとなった「ジャンボ」ことボーイング747型機といわれています。「コンコルド」と比べて「ジャンボ」は、スピードでは劣っても、段違いの座席数で一度に多くの旅客を運べました。
また「速さ」より重視されたのが、環境や燃費であったのもポイントです。
たとえば飛行機が音速を超えると、ソニックブームという衝撃波が生じ、これが地上への大きな騒音や機体への負担につながります。また、黎明期のモデルや「コンコルド」などは、周囲への騒音や環境への影響が大きいものでした。こうした理由から「ジャンボ」など、1960年代以降のジェット旅客機は一般的に、ジェットエンジンのひとつである「ターボファンエンジン(取り込んだ空気を圧縮後、その一部を燃焼に利用し、残りはファンノズルから直接大気中へ噴出して推力を得るもの)」を使用していますが、このエンジンは音速を超えると効率が下がってしまいます。
時代が進むにつれ旅客機の「ターボファンエンジン」は、より騒音や燃費効率など環境に配慮したもの(高バイパス比ターボファンエンジン)に移行しますが、音速を超えると効率が下がる点は変わりません。つまりいってしまえば、あえて速度が音速を超えないように設計しつつ、そのなかで燃費の良さや低騒音を目指す、といった状況が続いているのです。
とはいえ「超音速旅客機」の構想も、まだ完全に下火となったわけではありません。直近では2017(平成27)年、アメリカのブームテクノロジー社が超音速旅客機構想を発表しており、JALも、この会社に出資を行うなどの後押しをしています。
【了】
最新鋭A350 &ボーイングの就航速度は下記の通り
A350 | ボーイング機との比較 | |||||||||
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-800 [79] (A330-900neoと競合のため開発中止) | -900 [80] | -1000 | -900ULR | -900F | 787-9 | 787-10 [81] | 777-300ER[82] | 777-200LR | 777F | |
全長 | 60.7 m | 66.8 m | 73.79 m | 67.0 m | 62.8 m | 68.9 m | 73.9 m | 63.7 m | ||
全高 | 16.9 m | 16.5 m | 17.0 m | 18.7 m | 18.8 m | 18.6 m | ||||
胴体幅 | 596 cm (235 in) | 574 cm (226 in) | 619 cm (244 in) | |||||||
キャビン幅 | 561 cm (221 in) | 546 cm (215 in) | 586 cm (231 in) | |||||||
座席数 | 270(3クラス) 312(2クラス) | 314(3クラス) 366(2クラス) | 350(3クラス) 412(2クラス) | 310(3クラス) | 90 t (貨物機) | 250(3クラス) 290(2クラス) | 301(3クラス) 350(2クラス) | 365(3クラス) | 301(3クラス) | 103 t (貨物機) |
座席数 導入例 | — | JAL国内線 369(12+94+263) FrenchBee(LCC) 411(35+376) | CPA 334(46+32+256) | SIA長距離特別仕様 161(J67 S94) | — | ANA国内線 395(18+377) | ANA国際線 294(C38+PY21+Y235) | JAL国際線 244(F8+C49+PY40+Y147) | — | |
最大離陸重量 | 248 t | 280 t | 319 t | 280 t | 298 t | 247 t | 不明 | 351.534 t | 347.452 t | 347.450 t |
最大燃料 搭載量 | 129,000 L | 141,000 L | 159,000 L | 165,000 L | 127,000 L | 不明 | 181,280 L | 202,287 L | 181,280 L | |
就航速度 | マッハ0.85 (903 km/h) | マッハ0.84 (892 km/h) | ||||||||
エンジン推力 | 74,000 lb ×2* | 83,000 lb ×2* | 92,000 lb ×2* | 68,000 lb ×2 | 88,200 lb ×2 | 115,300 lb ×2 | 110,000 lb ×2 | |||
エンジン | ロールス・ロイス トレント XWB | ロールス・ロイス トレント 1000 GEnx | GE90-115B | GE90-110B1 | ||||||
航続距離 | 8,300 nm 15,400 km | 8,100 nm 15,000 km | 8,700 nm 16,100 km | 8,700 nm 16,100 km | 5,000 nm 9,250 km | 8,800 nm 15,700 km | 6,430 nm 11,910 km | 7,900 nm 14,594 km | 9,420 nm 17,446 km | 4,990 nm 9,065 km |
価格 | 2.75億ドル | 3.11億ドル | 3.59億ドル | 不明 | 不明 | 2.65億ドル | 不明 | 3.20億ドル | 2.96億ドル | 3.01億ドル |
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/64/ac/0a85b547b65186857f99384a1c29f2a4.jpg?1613792214)