ヤフーとの華々しい統合会見からわずか3週間。LINEの出澤剛社長は23日に会見を開き「多くのユーザーからの信頼を裏切ることになった。非常に重く受け止めている」と謝罪し、頭を下げた。
メッセージアプリ「LINE」のユーザー情報などが、アプリのシステム開発などを請け負う中国のLINE子会社からアクセスできる状態になっていた問題で、出澤社長は対策として「安心・安全な2つの国内化を実施する」と宣言した。
1つは中国の開発拠点や業務委託先から国内の個人データへのアクセスを遮断すること。もう1つは韓国のサーバーにも置いていた国内ユーザーの画像や動画ファイルなどを国内に移管すること。これら2つの取り組みによって「完全国内化」を宣言することで、ユーザーやLINEサービスを活用する自治体の不安をぬぐうのが狙いだ。
LINEは中国において、関連会社や現地の法人、そして韓国のネイバー子会社などに、サービスの開発や監視(モニタリング)業務を委託していた。中国は2017年に国家情報法を施行している。これは国家の情報収集への協力を民間企業に義務付けるものだ。
これまで委託先にその要請はなく、情報漏洩はなかったとLINEは主張する。だが、個人ユーザーはもちろん、LINEが売り込みを積極化し、ユーザーを増やしてきた政府や自治体はこれを不安視した。
日本では約900の自治体がLINEで公式アカウントを持つ。地域の情報だけでなく、域内の新型コロナウイルスの感染拡大状況や災害などの有事に向けた情報を届ける手段として積極的に活用してきた。
神奈川県は20年8月、行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるべくLINE執行役員を県のCIO(情報統括責任者)兼CDO(データ統括責任者)に任命した。こうした連携は、国内で8600万ユーザーを誇るLINEがインフラと化している証左ともいえる。
会見で出澤社長は「中国での開発を長い間続けてきた。潮目の変化を見落としていたというのが偽らざるところ」と、法改正による影響を見過ごしていた点を明らかにした。
LINEの管理体制を国も問題視している。武田良太総務大臣は3月19日、総務省としてLINEアプリの利用を一時停止すると発表。また、キャッシュレスサービスの「LINEペイ」の取引情報などが韓国のサーバーに置かれていた点について、金融庁は23日までに資金決済法などに基づく報告徴求命令を出した。
金融業界の関係者は「プライバシーデータを海外の開発拠点で持つということはまず考えられない。顧客データは国内で持つのが基本。海外拠点の開発先に対して顧客データにアクセスできる権限を渡すというのはやはり非常識といわざるを得ない」と指摘する。
こうした声に対してLINEは「完全国内化」をうたい、火消しを急ぐ。だが、内向きすぎる姿勢はLINEの成長力自体をそぐことにもなる。
LINEを使った海外戦略に影響も
「ヤフーが日本で培った防災の技術を、東南アジアのLINEに載せて展開していきたい」。LINEの親会社であるZホールディングス(HD)共同最高経営責任者の川邊健太郎・ヤフー社長CEO(最高経営責任者)は、3月1日にLINEと経営を統合した際に野望を語っていた。
ZHDが米国発のGAFAや中国のBATなど、海外のメガプラットフォーマーに対抗して第三極を目指す上での1つの強みが、日本で培った防災技術を活用して、東南アジアの国々の自治体と住民を結び付ける戦略だった。
タイや台湾でも日本のように現地の自治体とLINEが提携する動きもあるという。だが、災害情報は、安全保障上の脆弱性を示すものでもある。もし台湾でのLINEのデータを中国で見ることができるとしたら――。LINEが委託した中国の企業は、タイムラインなどオープンな場での不適切な投稿や、ユーザーによって「通報」されたユーザーのトーク内容をモニタリングしていたという。わいせつ表現やスパム行為などが中心だが、「不適切」の範囲はLINEのコントロール下にある。ここはユーザーや自治体にとっても不安な点だ。LINEの国境を越えたデータ管理の甘さは、安全保障の新たなテーマにも発展する可能性がある。
グローバルでの開発は継続
「海外との協業は我々の強みでもある。しっかりと手続きを踏んだ形で継続していく」と出澤社長は語る。
LINEに限らず、ITサービスの分野では優秀な人材やチームがグローバルで開発するのは一般的だ。LINEもこれまで、日本と韓国、中国、台湾、タイ、インドネシア、ベトナムの7つの国と地域で「連携しながら開発してきた」(出澤社長)。LINEのもともとの親会社が韓国のネイバーだったこともあり、国境をまたいだチームで新たなサービスを開発することが多かった。
LINEは個人情報をどの国で何のために利用するかを明記するなど、プライバシーポリシーの改定も対応策に盛り込み、ユーザーにも配慮した上でグローバル開発を続ける方針だ。ただ、LINEの社内からは「(開発で)日本の比重が高まるのは避けられない」との声も漏れ聞こえる。
ヤフーだけでなく、ソフトバンクグループ傘下のファンドが投資する海外のユニコーン企業との連携もLINEの成長戦略の柱だったが、今回の個人情報問題を経て、グローバル企業との連携にも厳しい視線が向けられるようになる。
GAFAやBATなど海外のメガプラットフォーマーは、世界の優秀なエンジニアを確保してグローバルな開発体制で先行する。
ZHDは経営統合に際し、今後5年間でAI(人工知能)エンジニアを5000人採用して5000億円を投資する方針を掲げている。ただ、世界の巨人は、国内エンジニアだけで勝てる相手ではない。開発のスピードが鈍化すれば、GAFAやBATとの差はまた開き、世界第三極構想自体がかすんでしまうだろう。
LINEは今後、データの扱いを「完全国内化」しつつ、一方で成長のためにサービス展開や開発のグローバル連携は進めるという難しいかじ取りを強いられることになる。
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余談
複雑なスキーム
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