鳴り物入りで登場した大手キャリアのオンライン専用料金ブランド/プランだが、開始から1年たたずに、サービスの姿を変えつつある。もともとは3社とも割安な20GBプランとして開始したが、7月にはソフトバンクがLINEMOに3GBの「ミニプラン」を追加。9月にはKDDIがpovoを「povo2.0」へとリニューアルし、月額0円でトッピングを使ってデータ容量を自由に足していく方式を導入した。開始からサービス内容を変えていないのは、ドコモのahamoだけだ。 auの解約率
では、LINEMOやpovoのプラン追加やリニューアルは、どのような成果が出たのか。10月29日と11月4日に開催されたKDDI、ソフトバンクの第2四半期決算説明会で、それぞれのブランドの現状が明らかになった。ここでは、2社の社長のコメントを引きつつ、リニューアルを果たしたオンライン専用ブランド/プランの実態を解説していきたい。
楽天モバイル対抗だったpovo2.0、トッピングが当たり利用者は急増
「開始から1カ月で10万以上の契約者が増え、非常に順調に立ち上がっている」――KDDIの代表取締役社長、高橋誠氏はpovo2.0の好調な滑り出しをこう評した。povoは9月27日にpovo2.0にリニューアルして、月額制の料金プランを廃止。基本料0円で、高速データ通信を使いたいときだけ、トッピングでデータ容量を購入していくプリペイドに近い仕組みを導入した。利用者が急増しているのは、このリニューアルが当たったからだ。 維持費を一切取らず、月額0円からスタートにしたのは、楽天モバイルの「UN-LIMIT VI」に対抗する狙いがあったという。高橋氏は「0円から始まる段階型料金の影響があったことは間違いない」と語る。これに対し、KDDIは「UQ mobileの強化によって一段階(流出を)止め、それでも止めきれない部分があったのでいろいろと考え、povo2.0のやり方で0円を意識してもらった」(同)。この戦術が奏功し、KDDIから楽天モバイルへの流出は「だいぶ減った」(同)という。 povo2.0は、トッピングを付けなければ1円も料金が発生せず、KDDIにとっての負担が増してしまうようにも見えるが、実際に0円で維持しているユーザーはそれほど多くない。高橋氏によると、トッピングを購入するユーザーの割合は3分の2から4分の3程度とのこと。0円のまま維持しようとすると、128Kbpsの低速通信で使うか、キャンペーンの「ギガ活」で継続的にデータ容量を集める必要があり、少々ハードルが高い。そのため、まずは有料でトッピングをつけてみるユーザーが多いことがうかがえる。 結果として、1ユーザーあたりからの平均収入(ARPU)も高くなっている。高橋氏によると、ARPUは「UQ mobileより高いぐらい」だといい、多くのユーザーが比較的データ容量の大きなトッピングを購入していることが分かる。UQ mobileのユーザー数は、3GBの「くりこしプランS」の比率が高く、次の山が15GBの「くりこしプランM」になる。割引も加味すると、ARPUは990円から2728円の間にあると見ていいだろう。これよりARPUが高いということは、20GB以上のプランを購入しているユーザーが多い証拠だ。 協業先であるCircles Asiaが運営するCircles.Lifeは、MVNOでありながらMNOよりARPUが高くなるケースもあるというが、同様のことがpovo2.0でも起こっているようだ。0円スタートでハードルを下げつつ、「お客さまがどういう方を一生懸命知り、継続的にアプローチしてトッピングしていただく」(同)コンセプトがうまくユーザーにフィットした格好だ。成否を判断するのは時期尚早かもしれないが、少なくとも、auやUQ mobileとのすみ分けには成功したといえる。KDDIは「11月からpovo2.0の拡販に努めていく」(同)といい、この勢いがさらに増す可能性も高い。
LINEMO開始後もY!mobileが伸びるソフトバンク、0円開始には否定的
対するソフトバンクは、LINEMOとその前身であるLINEモバイルの契約者数を、合算で公表している。2ブランド合計でのユーザー数は、100万契約超。MVNO側のLINEモバイルは、新規契約を終了しており、既存ユーザーに限定してサービスを提供しているため、4月以降の増分はLINEMOが獲得したユーザーになる。LINEMOは、7月にデータ容量が3GBのミニプランを導入したが、これを導入して以降、「勢いが増している」(ソフトバンク 代表取締役社長兼CEO 宮川潤一氏)という。 とはいえ、LINEモバイルはMVNOの中で比較的シェアが高く、2021年6月末時点でSIMカード型契約者の6.1%を占めている。SIMカード型の契約者全体が1550万。6月末時点で、約95万契約がMVNO側のLINEモバイルに残っていた計算になる。四半期で0.6%分のシェアを失ってはいるが、LINEMOへの移行が必ずしも順調に進んでいないことが分かる。ミニプランを投入した7月からユーザーの移行が加速している可能性はあるが、個別の契約者数を非開示時にした背景には、依然としてLINEモバイルの占める割合が高止まりしていることがありそうだ。 実際、宮川氏も「われわれにはY!mobileがあり、正直、Y!mobileの方がお客さまのウケがいい」と明かしている。その開きは想像以上に大きく、「オンラインのLINEMOがいいという方がいるので、それはそれで受け入れるが、Y!mobileの方がはるかに上」(同)だという。宮川氏が「Y!mobileを強化していきたい」(同)と語っていたように、ソフトバンクにとって、現時点での優先順位はY!mobileの方が高いといえそうだ。 そのため、0円からを打ち出した楽天モバイルのUN-LIMIT VIやpovo2.0には、同様の料金プランで対抗する予定もないという。宮川氏は、回線の維持費を無料にすることに関しても否定的な見解を示した。維持費が無料のプランだと、サービスやネットワークの運用、保守体制を維持にするためのコストを賄えず、料金を払っているユーザーとの間で公平性が保てないというのが同氏の考えだ。 「0円スタートの料金プランも存在するが、技術を長いことやってきた立場から申し上げると、24時間365日体制で深夜にも社員が出社し、ネットワークの監視を行っている。機械は必ず壊れる。自動でリブートすることもやってはいるが、それでも上がってこないときには現地に行く。こういう運用コストがまかなえないところまで(料金を)踏み込むつもりはない。加入者にはある程度基本的なネットワーク維持コストは応分で負担していただき、それに加えて使用量に応じた料金の違いがあるのがベストだと思っている」